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447:悪の組織

「意味がわからないという顔だな。まぁそれはそうだろう……だがこれ以上知れば、確実にお前達を殺すしかなくなる」


 ラースはその言葉を聞きうなる。だがまだ道はある。そう、流が言っていたもう一つの道……つまり配下になると言うことだ。


「その前に、もう一つの道の事を知りたい。聞かせてくれないか?」

「いいだろう。配下と言うのはある契約をしてもらう。この契約を破れば、確実に死が待っている。そういう契約だ」

「……それはどのような内容なんだ?」


 流はアイテムバッグから小さく細い、青色の棒手裏剣を一本出す。そしてそれをラースへと見せ説明をする。


「これは〝逢魔が時の手裏剣〟という。こいつと契約することにより、どこにいても俺を裏切る事は不可能になる。効果はまぁ……信じてはもらえんだろうが、裏切ったとその手裏剣の『中にいる存在』が判断すれば、即座に地獄へ落とされる」

「そ、それは本当なのか。そんな事が可能だとは思えんが……」

「まぁそうだろうな。ただ死よりも恐ろしい未来があるとだけは保証しよう」


 ラースたち冒険者はゴクリとのどを鳴らし、流を見つめる。その言葉の重みが嘘とは到底思えなかったからだ。シーラですら、ジットリと額に汗を浮かべている。


「そう悲壮な顔をするな。本来なら黙って帰してやりたいんだが、もしお前達の一人でもここの森の情報を漏らせば、本当に終わってしまう。そういう危険すぎる情報だと思ってくれ」

「そんな危険な内容だとも思えないが……。しかし極武級のおまえが言うんだ。間違いないのだろう」


 ラースは考える。ここで口約束で誰にも言わないと言っても、酔った勢いでうっかり話してしまうかもしれない。

 特にこの受付嬢のパニャと結婚する男、お調子者のオレオなんかが一番あぶない。

 シーラだって今日本当に成長したとは言え、まだまだ不安だ。

 

 だからこそ、ラースは決断する。


「お前ら聞いてくれ。俺はナガレの話に乗ろうと思う。どうせ死ぬならこんな場所はいやだろう?」

「あ、あぁ。俺も嫌だぜラースさん」

「そうだな。俺も賛成だ」

「ええ、私も異論はありません」

「だな……頼むぜナガレさん」

「決まりだね。頼むよ」

「うむ、お前たちが分かってくれて良かった。シーラ、お前はどうする?」


 シーラは流の顔をジッと見つめると、迷いなく答える。


「もちろんボクも異論なんか無いんだゾ! ナガレ様の言うことは間違いないんだゾ」

「と、言うことだ。全員お前の提案を受けよう」

「ふぅ……そう言ってもらえてよかったよ。できれば殺したくは無いからな。ではこの骨董品の説明をしよう――」


 流は裏切った場合どうなるかを教え聞かせる。殺盗団の残党がどうなったか、そしてその暗殺部隊の長たちが今どうしているかなどを、懇切丁寧(こんせつていねい)に教え聞かす。

 それがよほど恐ろしかったのか、全員の顔は真っ青になる。特にシーラは涙目で怯えるほどだ。

 そんなシーラを見た美琴が、流に注意をする事で全員の顔色がますます悪くなる。


『もぅ流様。そんなに脅かしたら、悪の組織みたいじゃない』

「まぁ、いる奴らがそんなんばかりだろ? 傾国の女狐・その兄弟・中の人が鬼やら悪魔やらのメイドや執事。そして元殺盗団の幹部……あ、今思った。悪の組織そのものじゃない?」


 その言葉でますます顔色が青くなり、オレオなどは気絶一歩手前だ。だがそこはラース。彼は勇気をふりしぼり、流へと質問をする。


「な、ナガレ。その……今の声はどこから?」

「あぁ、コイツだよ。さっき会ったろう? 名を悲恋美琴と言う、俺の愛する妖刀さ」

『なんか微妙な紹介ですね……ハァ』


 そう言うと美琴は実体化する。突如抜け出てきた美しい娘に、冒険者たちはあらためて絶句。

 さらにシーラは口と目を見開き、「キレイだゾ」とつぶやくのだった。


「あらためて、こんにちわ皆さん。私は美琴、この悲恋の中に住んでいるんだよ」

「あ、はい……ご丁寧にどうも……」

「そう驚くなよ。まぁこれで分かったろう? 俺が持つ骨董品には魂が宿る。そしてそれが俺を裏切ったと判断すれば……」

「わ、わかった。お前らもいいな、決してこの事を誰にも言うんじゃないぞ? とくにオレオ! お前は口が軽い、気をつけないと新婚早々死ぬぞ?」

「わわわ、わかったよラースさん! そう脅かさないでくれよ!! でも本当に……いや、うん。わかったぜナガレさん。嫁にも絶対に言わないと誓うぜ」

「よし、本当に注意しろよ? お前らもいいな?」


 冒険者たちは全員うなずく。そしてラースはシーラへと視線を向けて、流にたずねる。


「シーラはどうなるんだ? 俺らと違って配下と言うにはなぁ……」

「ボクもナガレ様の配下になるんだゾ! 二度も助けてもらって、多分今も理由があってこんな事になっているんだゾ。だから、ボクも配下になってお返しするんだゾ!」

「んんん、それなぁ……お前は別枠だ。戻った後に、お前の兄と爺さんに聞いてみるんだな」

「そんなぁ……」


 ガクリと肩を落とすシーラ。それに美琴は優しく、「大丈夫だよ」と微笑みかけるのだった。

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