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440:臆病なあや

「はひぃぃぃ。わ、分かっていますわ。ええ、流の言うとおり、ゴーストは認めたくありませんが……存在します。もぅ、ハエのように!」


 森の茂みの中からジットリとイルミスを見つめる多数の目。それにますます顔色を青くし、もはや白磁器のような色艶になったイルミス。

 そんなイルミスに流はため息をつきつつ、呆れるように話しかける。


「おまえねぇ……ハエとか言うか? 見ろよ、あの恨みがましい視線。お前が吸血鬼アレじゃなかったら、呪い殺されそうな視線だぞ?」

「ひぅッ!? だ、だって怖いものは怖いのですわ!」

「はぁ~。おいあんたら。極度の臆病者だから、許してやってくれ、このとおりだ」


 流は幽霊たちに頭を下げる。すると不穏な空気が静まり、重苦しい感じに変わった。

 やれやれと流は後頭部をかきながら、イルミスへと確信を問う。


「で、イルミス。こいつらをあの世に無事に送ってやるには、一体どうしたらいい? 多分、このままではヤバイ」

「そうですわね……。まず流が危惧しているとおり、漏れ出したここの妖気にあてられたのでしょう。だからここまで実体化が進んでいる。このまま放置すれば、確実に災いになり、封印の暴走原因になりかねませんわ」

「やはりそうか。それで?」

「現在選択できるのは二つ。一つは悲恋美琴に喰わせること。そうすれば後腐れなく浄化できますわ」


 その話の意味は分らないが、とてつもなく嫌な感じを受け取ったラースはイルミスへとつめよる。


「ま、待ってくれ! よく意味は分からんが、それはアイツらを……アイツらの魂をもう一度殺すと言うことか!?」

「あらいやだ、よくお分かりになりましたわ。ええ、そうです。このまま放置すれば確実に悪霊となり、やがてこの地は無論、アルマークまで被害は及ぶでしょう」

「だからと言って、アイツらをまた殺すなんて事は俺には我慢できねえッ!!」

「ハァ、これだから脳筋はいやですわ」

「それで二つ目は?」

「ふふ、やはり流は冷静ですわ。いいですこと脳筋ハゲ。男というものはこうで無くてはいけませんわ」

「ハゲじゃない! 剃っているだけだ!」

「どうでもいいですわ。それで二つめですが、流の妖力……それ。異常ですわよね?」


 ――妖力。この力は本来闇に属するものだ。その闇の極限に位置する〆などが本気で使えばどうなるか?

 国土は汚染され、田畑は荒れ果て、疫病が流行り、天は厚い雲に覆われるほどだ。

 だが流の妖気、これはさらに異常である。いうなれば邪気のない妖気。

 

 だがもっと適切な言葉がある。これは(しん)が言っていたのだが、流の妖気は邪気がない妖気。つまり「陽気(ようき)」であると。

 妖気の色は大抵が三色。代表的なのが「黒」「赤」「紫」この三色である。ここに大神クラスの〆の妖気ならば「黄金」だ。

 

 しかし……流の妖気は「白」と言う、これまで聞いたこともない色と力。

 それは最早「聖属性」に近いと言ってもいいだろう。まさに清濁合わせ持つ力の塊。

 本人は全くの無自覚であるが、流の妖気とはそういう力であった。


 そんな事を知らない流は一瞬考えこむが、答えなど出るはずもなく、知っているやつに聞くことにする。


「どう思う美琴? 俺は普通の妖気だと思って使ってきたけど」

『ふつうかどうかと言われれば、普通ではないかな。流様の妖気、これは陰と言うよりも陽と言ってもいいんだよ。つまり妖気ではあるけど、中身は対極に近いものかと』

「対極? 同じ妖気なのにか?」

『う~ん……あ、そうだ。向日葵(ひまわり)ちゃ~ん! ちょっと来てよ。流様に説明してくれないかな?』


 すると悲恋の中から、やる気のないあくびが聞こえたと思うと、もっとやる気のない声が聞こえてくる。当然あの娘、向日葵である。


『も~ぅなんです姫ぇ……。ネトフルでjoj○一気見して、眠いんですからぁ』

「美琴……お前の中はネットにつながっているのか……」

『え゛!? そ、そんなはずは無いと思うんだけど……私の中なのに、違うと断言できないのが悲しい』

「もうお前に常識とか、良識とか、普通を求めることを俺は放棄する」

『酷くないですかソレ』

「まぁいい。それで向日葵、何かわかるか?」


 向日葵はあくびを二回し、伸びたような声の後にめんどうくさそうに話す。


「ふぇ~。いいですか大殿。貴方様の妖気。これは間違いなく妖気です。しかも強大といってもいい。現に貴方様は妖気を使いこなせていないし、その使用率はいいところ三割ほどかと」

「そこまで低いのか!? 俺としては、かなり使いこなせていると思うんだが……」

「ええ、私達もはじめはそう思っていました。が、どうや違う。むしろ全然使えていない。これが答えですね」


 向日葵の予想外の答えに流は驚く。そしてソレより今は、この危険な状況をどうにかする一手を向日葵に託すのだった。

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