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043:幽霊屋敷の狂気

 屋敷へ戻るとさらに状況は酷い事になっていた。窓にはびっしりとゴーストが貼り付き、床や天井からは植物のように生えてきている。


「おいおいおい、こんなのGBでも無理な案件だぞ? さて、どうするんだ〆?」

「まあ~♪ ここが異世界……なんて素敵なのかしら……」

「この状況を素敵と言えるお前がステキだよ……で、どうする?」

「そうですね、まずは古廻様に無礼なこの屑共を排除しましょうか」


 そう言うと〆は袖から右手に扇を出す。

 親骨が黒の輪島塗りで一目で高級なそれは、開くと不思議な光景が広がっている。

 よく見れば、その扇面は地獄の様子が描かれてあった。その地獄の絵は生きているように動いており「地獄の映像を見ている」かのよう、と言う表現が一番あっていた。


「さてさて、鬱陶しい悪霊はあるべき所へと、お帰りなさいな」


 何の事は無い一つの行動。〆は扇子を「ぱさり」と一振りすると、あっという間にあらかた屋敷中のゴーストは扇子に呑み込まれて消え失せた。

 

「おいおい、うっそだろう……圧倒的だなお前は……」

「うふふ、恐縮です」


 〆はとても嬉しそうに、にっこりと微笑む。

 そして後ろを振り向くと、氷の眼差しを後ろの男へと向ける。


「それにしても……参、お前は何をしているのですか?」

「フム。申し訳もなく……」

「ハァ~。これでは古廻様の護衛の任は不安ですね」


「壱:まあそう言うてやるなや。僕らはお前と違って、広範囲の霊的殲滅術は持ってないんやからな。使えても今は無理やし」

「何を偉そうに……ま、いいでしょう。それで本体は残っているのでしょう? 加減をしたから居るはずですが」

「壱:あれで加減したんかい……ああ、おるで。地下にデカいのがな」


 やはりと頷く〆と流は、地下へと向かいながら話す。

 

「古廻様、精神攻撃をする敵への対処ですが、基本的に美琴があれば問題はございません。ただ、先日の憚り者のような高位の精神攻撃をする相手には、流石の美琴も対応しきれませんのはご承知だと思います」

「ああ、そうだったな。それでジジイ謹製夢の国ネバーランドへ行った訳だからな」


「そこで古廻様には地下に居るであろう、首魁の討滅は無論なのですが、その者からの精神攻撃をあえて受けていただきます」

「それは構わないけど、その後どうすればいい? そのまま廃人なんてのは嫌だぞ?」

「うふふ、それは心配ございません。私がフォローしますから、安心して倒してくださいまし」


 若干不安はあるものの、〆がそう言うならと信じる事にする。

 階段を下りるにつれ、悪霊の気配がひしひしと伝わり、第六感が警報を鳴らす。

 地下に到着すると奥にはとても大きい、ブヨブヨしているようなピンクの肉塊があった。


「うへえ、アレと戦うのか? 何処を攻撃したらいいんだろうかねぇ。あれ」

「あの手の敵は、外側から削るのは悪手です。まずはそうですね……中心にある顔を破壊して反応を見ましょうか」

「了解」


 流は美琴を抜刀すると、ゆったりと近づく。

 すると肉塊が盛り上がり流に向けて伸びて来る。


「ま~た触手プレイかよ……もうお腹いっぱいなんですが! ね! っと」


 襲って来る触手を斬り払いならが進む。

 すると肉塊は肉の手を一纏めにして、巨大な一本の槍状にした物で突き刺しに来る。


 弱点を見極めるまでも無いと、流は美琴を納刀して静かに腰を落とす。

 それを合図にしたかのように、触手が流目掛けて一直線に襲い掛かる。


「ジジイ流抜刀術! 奥義・太刀魚!!」


 瞬間、触手はバッサリと縦半分に別れ、その奥にある顔にまで斬撃が到達すると、顔が弾け飛び、そこから得も言われぬ苦痛的で、魂を抉るような悲鳴が聞こえた。


「ヴャアアアアアア!!」

「クッ!! これが精神攻撃か!?」

「古廻様~それがそうですよ~どうですか~耐えられそうですか~?」

 

 実に楽しそうに微笑みながら、離れた所から〆が呑気な声で問いかけて来る。


「今は……何とか……なってる、が。長くは持たないかもしれん」

「ならば気持ちをしっかりと強くお持ちくださいまし、コツは『固定観念を捨てる事』ですよ~」


(固定観念だと!? この状況でそれの意味が分からん!)


「辛いと思えば辛くなりますし、そうでは無いと思えばそうでは無くなるんですよ~ 例えば目隠しをしてチョコを食べたと思ったら、味がカレーだったら困惑しますよね~。その目隠しを取ってしまえば簡単ですよ~」


(目隠し? なんだそれ!?)


「あると思えばありますし、無いと思えば無くなるんですよ~。常に其処に在ると思えば在るんですよ~」


(常に其処に在る……)


「それに古廻様はすでにそれを体験していますよ~。今『何処に居る』かお忘れですか~?」


(何処って異世界……ッ!? そうか、そう言う事か!! 別次元の異世界を認識する事も同じ! 大宇宙に知的生命体が居るのは、地球だけなんてありえないと認識するのも同じ!)


「つまりはー!! この精神攻撃はまやかしだと「心底」認識すれば問題ないっつー訳だな!!」

「大正解で~す♪ 流石わたしの古廻様でございます♪」


 精神攻撃から解放された流は、一気に肉塊へと進み切り刻む。


「ジジイ流壱式! 三連斬!! からの~薙払術! 巨木斬!!」


 下方より巻き上げるように連撃を放った流は、その余力が乗った状態から横一閃に巨木斬を放つ!


「ゴッッバアアアアアアアア!!」

「うわ!? 何か出て来たぞ!!」


 流に一閃された肉塊は、その内より骨の化け物が出て来た。

 見た目は骨その物なのだが、上半身は人骨であり、下半身は蛇のような骨のアンデッドだった。


 そして――。


「何だアレは……胸の中に人……か?」


 アンデッドの骨の中にある胸の部分には、人のような物を内包する卵のような薄皮があり、薄皮のせいでぼやけているが、そこからこちらをジっと見つめる者が居るのが分かる。

 

「ナ、なんじゃ~? ここは何処じゃ? って、こやつはボンミーア! 何故ボンミーアがこんな姿で私を守っているんだ??」

「……えっと、お宅は誰だい? オレ、ナガレ、ココノアルジ」


 何故か他種族と初邂逅の時は「誇りある部族語」になる流は、とりあえず自己紹介した。


「お? おおう? あたくしはバンパイアの王にして夜を統べる者。常闇の真祖、ファルミア・ド・アリスであ~る! 頭が高い、控えおろう!」

「お前が控えなさい。無礼な羽娘は滅しましょう古廻様」

「まてまて、で。そのファなんちゃら様はどうしてこんな場所に?」

「いや、私も全く分からないんだよね……って無礼者め! まあいい」

「いいのかよ! まあ何だ、お前はウチの地下室に肉の塊を置いた覚えは?」

「全くないの。それどころか肉ってなんぞや?」


 話が全くかみ合わない自称夜の王に頭を悩ませていると、〆がすっと前に出て来る。


「面倒だから滅しなさい、《八葉富岳ノ七式・炎神柱》」


 いきなり〆が広範囲焼却術を結界障壁込みで打ち込む。

 その様子に流は悲鳴のように叫びながら、〆に問い詰める。


「ちょ、〆お前何をってやってる! 俺達も焼け死ぬぅぅって言うか窒息死するぅぅ」

「大丈夫でございますよ、ほら。結界障壁があるからこちらへは来ませんよ?」

「ほんとだ……って、吸血娘はどうした!?」


 見ると肉塊はあっと言う間に灰となっており、何も無いように思われたが、骨の塊はそこにあった。


「い、い、いきなり何をするのー!? 可憐な体が燃え尽きてしまうかと思ったじゃないのさ!」


 こちらからは良く見えないが、バンパイアの真祖が、薄皮の中から涙目になっているような感じの声で叫んでいた。


「おお!? 生きてるぞ、凄い生命力だな! そして何故空気がある……」

「……古廻様、これは違いますね。とても高レベルな結界を張っているようです。それも封印クラスの物ですね」


 流と〆は真祖であるアリスに近づく。


「お前達! 許さぬぞ!? あたくしをここから出すのだ!!」

「そうは言ってもなぁ。〆のあの恐ろしい威力の炎ですら無傷なんだぞ? 俺にはどうしようもないな」

「…………これ、は……そこの羽虫娘、一つ答えなさい」

「な、なんじゃあ? あたくしは食べても美味しくないぞ、多分!」

「おまえは伊弉冉イザナミと言う名前に憶えがあるはず、そうですね?」


 アリスはハッと息を呑む。


「知っているも何も、あたくしの育ての親じゃ。お前こそ何故その名を知っているのじゃ?」

「彼女は私達の仲間だからですよ……遠い昔に離れ離れになってしまいましたが」

「そうなのか? 母は申しておったわ、二度とあちらには帰れないと思うと寂しい……とな。もしや、そなたらは母の居た世界から来たのかや?」

「ええ、そうなりますね。そしてその強固な結界は彼女が張った物に相違ありません。術式に彼女の癖が色濃く出ていますのでね」


 そう言うと〆はアリスの入っている卵のような薄皮を撫でる。


「なんだか母に撫でられているかのようじゃ……って、違う違う。それでここは何処なのじゃ? それに私が持っているこのぎょくは――って! 母上!? この玉から母上の命を感じるぞ!!」

「なんですって!? ………………本当だわ、微弱ながら伊弉冉の波動を感じる。一体どうしてそんな事に」


 〆は突然の変わり果てた友人との再会に愕然としていた。

 状況が飲み込めない流は、二人のやり取りが一段落した事で話し始める。


「それで、この後どうするんだ〆?」

「もしお許しいただけるのなら、この無礼な羽虫娘を出してあげたいのですが……」

「まあそれは好きにしていいさ。友達なんだろう? 中の……その玉に入ってるかみは?」

「はい、大事な仲間でした。憚り者より命を賭けて、異界骨董屋さんを守った者です」

「なら是非もないな。アリスをそこから出してやってくれ」

「ありがとうございます古廻様。さて、どうやって封印を解除しましょうか……術式はかなり特殊な感じですね」


 〆は指先を光らせてあれこれと調べているが、よく分からない感じだった。

 そうこうしていると、屋敷の残敵掃討が終わったのか、壱と参も駆けつける。



楽しんでいってくださいね(*´ロ`*)

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