435:赤き熊真祖~その理由
さらに流はこう続ける。
「頼む」
『っ――分かった!!』
それは流と出会ったばかりの頃、よくやっていた事。美琴は悲恋の中で妖力を圧縮したものを流の体に「負担なく」渡していた。
しかし今はその心配がない。だが美琴は流がしようとしている事に気がつく。
だから以前と同じように妖力を丁寧に練り上げ、それを流の体へとながしこむ。
「そうか……この心境に至らないと無理だったのか」
『また一歩、流様とつながっちゃった。えへへ』
「だな。では始めるか――本当の一閃ってやつをな」
狂ったように迫る吸血熊。
その視線は黒い塊だが蜜ツボへと固定され、その口元は感謝に歪む。これから最高の食事が出来るのだと。
あれを食べれば確実に強大な存在になれる。吸血熊はそう確信し、その動きに迷いがない。
「ひっひひひひ!! 早くそいつを我によこせいいいいいいいいい!!」
「熟々と見るほど五月蝿い獣だ。知性を無くした代償、その身に刻み地獄へ落ちろ――ご先祖様流・複合術! 二重の一閃!!(仮)」
「無し無し無し意味が無し!! そんな斬撃が我に通じるかああああああああ!!」
なんの事がない真横に振るった、ただの一閃。その斬撃が吸血熊の顔面部分に吸い込まれた刹那、吸血熊は勝利を確信する。それは霧になり躱したのだから。だから勝利宣言とばかりに吠える。
「馬鹿めがッ! 弱体化しているとはいえ、そんな普通の斬撃が我に通じるわげガアアアアアアアア!?」
「そう、普通の斬撃ならそうだろう。が、そいつは普通じゃない。ご先祖様の直伝だ」
流は美琴の過去と向き合った時に、過去に出会った先祖「古廻双牙」より伝授された業。「一撃で同時に二回攻撃する」と言う業のコツを学ぶ。
過去からの帰還後、それを練習するも上手く行かず、未だ習得にはいたらなかった。が、あれは「美味すぎ」た。そう、美味すぎてしまったのだ。
七色蓮華蜜――。
その凶悪なまでに上品で、爽やかな高原の香りを鼻腔で味わったような、濃密な空気のごちそう。
さらに蜜を味わった瞬間「自分の体は舌だけで存在している」と、錯覚するほどの旨味に他の感覚が麻痺した後、喜びに全ての細胞が強烈に目覚める。
口内で転がすように味わえば、七色の〝とろり〟とした舌触りが魂を揺さぶり、意識が別次元へ飛ぶ。それを幽体離脱した自分が、とても冷静に見ていた。
そう、人は本当に美味いものを食べると無口になると言うが、七色蓮華蜜。あれは魂が一瞬抜けて自分を客観的に見つめるほどのインパクトがある。
だからこそ悟る。自分が『一人で業を放つから出来ない』のだと。
流はこの体験から、双牙より学んだ基礎を昇華させる。つまり美琴の妖力と、自分の妖力を混ぜないで別々に力として斬撃に乗せる。
これにより放たれた斬撃は――。
「バ、バカな霧が斬られギャヴァ!?」
「一度は避けられても、同時に二度の妖気は無理のようだな? っと、八宝蓮華蜜。返してもらったぜ?」
吸血熊の長く伸びた鼻先を、二重の一閃!!(仮)で真っ二つに斬る。
さらに細かく斬撃を放ち、汚い鼻の中より白いツボを取り出すと、嫌そうにつまみ上げる。
中身はほぼ無くなっていたが、その香りはまだ残っており腹がへるほどだ。
「ったく、こんな小さなツボがこの騒動の原因とはなぁ」
「ぐ……グガアアアア!! 許せぬ!! 今すぐシネエエエエエエエエエ!!」
「それ何度目だ? もうお前は終わっているんだよ」
流はスキルである、鑑定眼と気配察知で吸血熊の「命の重さ」を見ていた。
だからこそ分かる。すでに限界だと……。
流は悲恋美琴を右肩より後ろへと引き絞るように下げ、左手の中指と薬指の間をVの字にひらく。
せまる吸血熊の右拳をVの間にとらえ、切っ先をあわせ狙い、その距離がほぼゼロになった瞬間・放つ!!
「ジジイ流・刺突術! 間欠穿【改】!!」
「ぞん゛な゛ばがな゛ああああああああああ!?」
右腕に吸い込まれる斬撃。それがまるで昇竜のように駆け上がると、そのまま胸まで来た瞬間、十文字に分かれ巨体を真っ二つにする。
その直後、さらに横にも裂けはじめ四つに分断され倒れた瞬間、それぞれの断面から地獄の間欠泉が吹き上がった。
「う゛ぁ゛……我……は最……強と言っ……ていた……のに……」
「最強? 『理』がそう言っていたのか?」
「そ……だ。我こ……そ新たな……種……族だと……」
「それでお前に何をさせようとしていたんだ?」
「好……きにし……ろ……と。話……違……う。我は……ま……だ……食いたり……」
「おい! 続きを話せ!」
『もう死んでいますよ流様』
「チッ、軟弱な真祖め」
『はぁ~。台詞だけ聞いたら悪者ですよそれ? だけど気になるね。まるで善悪関係なしに力を与えている感じに思えるよ』
「だな。『理』か……」
流は思う。理の思惑とは? それともただの偶然なのか。考えても答えは出ない。
そんなモヤっとした気持ちを抱えながらも、流は森を見るのだった。
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