410:宝の山
「ちょっと待て! 妖力を盗んだだと? どうしてそんな事が出来た!?」
「それは運が良かったのだ。本当にな……。あれは俺がこの封印の術式の基礎を、完成させたばかりの頃だったか」
ヨルムは当時を思い出し簡潔に語りだす。どうやらこの国をまず滅ぼし、そこを足がかりにして世界を混乱に落とすのが人形の思惑だったという。
その計画を知ってしまったヨルムは、完成したばかりの敵を駆逐する「包囲殲滅型」の術式を改良し、包囲特化型にしたという。
つまりは、強力な封印術。
そして弐が主導で行っていた「霊脈を乱すため」の、妖力の注入をするために人形と弐の「神核」の一部を使って儀式を行っていたという。
そこに妖力を一時封印し、そこから一気に霊脈に注ぐ儀式を任されていたのが。
「ヨルム、あんたってわけか?」
「ああそうだ。俺はアイツらからすれば、従順なコマだったからな。そこで俺はその神格の一部に妖力を封じた箱を、俺が作った樽に封じ込めた。それにより、ヤツラの妖力の回復は絶望的に遅くなったはず」
「なるほど……だからこの国は表面上は、いまだにヤツラの手には落ちてないと?」
「そこは俺には分からんが、お前たちがそう言うならそうなんだろう。詳しくはまた後から話すとして、どうだナガレ。頼まれてはくれないか?」
流はヨルムの言葉を受け、その瞳をまっすぐと見つめる。
そこには嘘も騙すような素振りもなく、ただ純粋な願いに感じた。
「……わかったよ。俺に出来る事はするつもりだ。ただ一つ聞かせてくれ。どうしてヨルム、アンタから弐の気配が強く出ているんだ?」
「それはあの女から奪った神核を、俺の体に移植する事によって、人の身を捨て去った結果だ。そうでもしないと、この封印を正気で保つ事は不可能。いや、それでも無理だったから、意識を封じて精神体の『本能』で森の結界を維持してきた」
「そこまでしないと……いや、そうなのだろうな。あの恐ろしい女を出し抜き、さらにそれを見つからずに隠す。それは並大抵の事じゃなかったはずだ」
その言葉を聞き、ヨルムは苦笑い気味に話し出す。
「分かってくれるか! そうだ、あの女を出し抜けたのは奇跡と言ってもいい。本当に運がよく、色々味方してくれた結果だ。本当に色々とな……。そして俺の生存反応を感じさせない処置でもあった」
「そうか。ならヨルムのためにも急いだほうがいいな」
「頼む。このまま無防備な状態を晒しているのは、いつあの女が来るかと思うと精神的によくないのでな」
そう言うとヨルムは首を振りながら、前方にある森に向かって右手を向ける。
すると深い森が一直線に割れ、その奥へと続く道が出来た。
「さぁ今はこのまま行ってくれ」
「ありがとう。さっきは突然斬りかかって悪かったよ」
「いや、あの女を知っているなら当然だろう……さ、早く」
「ああ。じゃあ必ずまた来るから、その時まで頑張ってくれよ?」
「がんばるさ。伊達にこれまで守って来たわけじゃない」
流はその言葉にうなずくと、氷狐王の背に飛び乗る。そのまま行こうとすると、ヨルムが思い出したように話す。
「それと一つ忠告だ! 中央には熊がいるはずだ。そいつらは元は普通の熊だったが、妖気にあてられて豹変している。注意して討伐してくれ」
「それで蜜熊とか言う、スペシャルな熊さんになったってわけか。了解した、では行って来る!」
「気をつけてな」
流はそれにうなずくと、イルミスの手を引き氷狐王へと乗せる。Lはすでに騎乗ずみだ。
直線に開けた森を走り去る、氷のバケモノを見送るヨルム。そんな彼は「頼む」と絞り出すように言うのだった。
◇◇◇
――その頃、蜜熊の宴会場へ侵入した招かれざる三名は、目の前の光景に心が踊っていた。
(おい、見えるか?)
(ああ……ありゃ宝の山だ。見ろ、あれはハニーグレープの原木だ。しかもあの大粒で黄金色ときたら、いったい金貨何枚分だ?)
(よだれを拭けよ汚ぇな。まぁ気持ちは分かるが。それより……おい、もしかしてだが、あの奥には噂で聞いた事がある酒じゃないのか?)
((蜜熊の密造酒か!?))
(バカ、声がデカイ! 多分そうだ、見ろ蜜熊どもがアレを呑んで酔っている)
三人は偵察も忘れ、目の前の宝の山とも言える果実や酒に狂気する。
なぜなら、あの酒はコップ一杯でも持ち帰ることが出来れば、金貨千枚相当の価値がある。
そのくらい貴重で、一度味わえばその感動は一生続くと言われるほどだ。
さらに高さ五メートルほどのハニーフラワーと言われる、花弁が壺のようになっている花があり、そこから黄金の蜜がながれ落ちている。
それの真下に蜜熊が寝そべって、蜜を口にいれていた。当然あれも貴重なもので、その価値は三人には想像も難しいものだ。
欲望にたぎった目で更に周囲を見渡せば、ハニーアップルと言う黄金のリンゴの原木もあり、他にも知らない果物らしきものもある。
三人は思う。ここへ来る前にこれらの情報を仕入れていてよかったと。そして、この幸運に感謝しつつも、この後にひろがる黄金色の未来に酔いしれるのだった。
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