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040:美琴、怒る

 朝起きると美琴が何故か怒っている気がする……。

 原因は多分こいつらだ。


「おい、お前達。何故俺の布団で寝ている?」

「ふわ~おはようなのです。それじゃあ朝ごはんの用意をしてくるのです」


 そう言うとニンジン柄のパジャマを着た、うさ耳のおねいさんは何処かへと行ってしまう。


「で、お前は?」

「ふふふ、良いではございませんか……たまにはご一緒したいと思いますが、いけませんか?」


 思わずくらっと来るような微笑みを〆はする。

 そんな彼女を見ると、肌まで透けて見える薄絹一枚のような着物を羽織っており、その姿のまま寝ていたらしい。


「また愛でられたいらしいな、今度は容赦しないぞ? 今日は尻尾の付け根から下へと――」

「ひぅ!? ご勘弁くださいまし。わ、私も朝食の支度を手伝って来ますね!」

 

 そう言うと〆は顔を真っ赤にしながら、脱兎の如く飛び去って行った。狐なのに……。


「まったく……ま、そう怒るなよ美琴。あいつらなりに俺を心配してくれているんだろうさ」


 そう言うと美琴はふるりと揺れる。


「さてっと、昨日の話をまとめると――」


 情報をあつめつつ、ダンジョン攻略へと向かう。そこで経験を積み、『鍵鈴の印』を覚醒させる事が一つ。


 もう一つが借りている屋敷を買い取り、防衛拠点にする事が一つ。


 最後に「異世界を楽しむ」事が一つ。

 これは〆達全員が流れに望んだ事だったので、それも目標に入れておいた感じだ。

 そして初めに契約書に書いた「素晴らしい人生と義務の遂行を」と言うのは、どうやら先祖が異世界で立てた誓いらしく、代々の古廻の長はそれを宣言するそうだ。


「まぁ、こんな所か? 後は向こうに行って決めるかな。今回は何を持って行こうかなぁ……う~ん楽しみだわ」


 暫くまどろんで居ると、〆が狐の折紙になって飛んできた。


「〆:古廻様。お食事の準備が整いましたのでお越しくださいまし」

「むぅ、よく見ればその折紙もまたいい出来だな。ど~れよく見てしんぜよう?」

「〆:ひゃぃ!? そ、そんなに見ないでくださいましな」

「はっはっは、冗談だよ。さて、ウサちゃんが待ってるから行こうぜ?」


 人型に戻った〆と二人で廊下を歩きながら話す。


「今回は少し多めに骨董品や、こっち側の品を持って行きたいんだが可能か?」

「はい、可能です。一般の品ならば、さほど規制はされませんからね」

「規制か。それなんだが、今回お前の兄である参も行くんだろう? それは大丈夫なのか?」

「ええ……私達は曲がりなりにも神の一柱なので、門が解放された現在では、古廻様の鉾鈴を使用しなくても自由に出入りが出来るようになったのです。そして以前も申したかも知れませんが、古廻様の許可があれば双方ともから人員が移動可能ですし、ある程度の品も移動が可能となります」


 そう言う物かと納得し、手早く朝食をすませると倉庫へ向かう。

 ちみに因幡なっとうは今日も美味かった。


「品が増えてるな……」


 倉庫にある品が以前よりも、それなりに数が増えていたので少し驚く。


「そうですね。少し仕入れておきました」

「じゃあ適当に持って行きますかね! 何がいいかな~。お! これなんかも良いぞ。あとこれと――」


 荷物の移動をする流の楽しそうな姿を見ているだけで、〆の瞳は潤み顔がデレデレに緩んでしまっており、尻尾はフルルと揺れている。


「壱:おい、見たか参よ。もうダメやろアレ? きしょ悪いったらあらへんで」

「フム。まるで純粋な小娘のようで心底不気味ですな……もしや狐の皮を被った別人では?」


 そんな楽しそうにお喋りをしている二人に、〆はニコリと微笑む。

 お喋りをしていた二人もニコリと微笑み、冷や汗を流す。


 そして〆はおもむろに袖を〝パサリ〟と一振りすると、そこから高速で黄金の長針が高速で飛翔してきた。


「壱:あぎゃああ!?」

「フムゥゥッ!?」


 黄金の長針は壱の眉間を撃ち抜き、参もまた眉間に向かって来た針をギリギリ躱す。


「壱:よ、容赦の欠片も感じないわ……今が不死鳥で良かったわぁ」

「フム。わたしは……み、耳が少し欠けましたが……」


((恐ろしい、色々な意味で恐ろしい……))


「おいおい、何をじゃれているんだお前達は? さて準備も整ったからそろそろ行くぞ二人とも」

「まったく何をしているのです? ほら、古廻様がご出立されますよ。さっさと立ち上がってお供をなさい」


((一体どの口が言ってるんろか……))


 〆の容赦ない仕置きに恐怖する二人だった。

 流は異超門を開放する。振り返ると楽し気に見つめる〆と、もふもふに戻った因幡に挨拶をする。


「じゃあ行ってくるよ、お前達も元気でな」

「はい、お早いお帰りをお待ちしております」

「お客人また来てねなのです! あ、これお弁当なのです」


 〆はにこやかに手を振り、因幡はもこもこの手をフリフリしている。


「ありがとな、二人とも。じゃあ、お前達行くぞ」

「参、頼みましたよ? 必ず古廻様をお守りくださいね」

「フム。言われるまでも無し。お任せあれ」

「壱:僕には何か無いんかい!?」

「……邪魔だけはしないようにお願いします」

「壱:なんでやねん!!」


 オチがついた所で三人は門を超えて行き、その姿が見えなくなるまで二人は見送るのだった。



◇◇◇



 流は屋敷に付くと壱と参を伴って屋敷を見回る事にする。


 屋敷は地上三階、地下一階、中央には物見櫓のような塔がそびえ立つ。

 部屋数は一階左側が全てホールとなっており、右側は食堂と応接の間のような作りになっている。


 二階は客室なのか貴賓室が多く、大小部屋があった。

 そして三階は主の部屋と言う感じの広い部屋があり、中心部に階層の半分位のスペースを持った大きな部屋があり、その両脇には使用人達が控えに使っていたの、か、装飾が控えめな部屋が並ぶ。

 ちなみに異超門は主の部屋、そこの右奥に設置している。


「壱:はぁ、僕は何時も手帳の中からしか見てなかったんけど、実際この目で見ると凄いでんな~」

「フム。見ると聞くのとでは大違いとよく言いますが……なるほどと言う感じですかな」


 二人とも異世界で自由に出来るのが嬉しいようで、あちらこちらを満足気に見ている。


「時に壱よ、今までどうして出て来なかったんだ?」

「壱:そうでんなぁ。一つは古廻はんの自由な行動に、僕があれこれ言うんは無粋かな? と思ったってのが一つ。それとその右手でんな」


 流は右手の甲に現れた不思議な三日月模様を見る。


「壱:その印はご存じの通りなんやけど、その力が強まれば僕らも好き勝手できますねん」

「フム。いささか語弊があるように言ってしまう、愚かな兄をお許しください。好き勝手と言うよりも、そのおかげで広く活動が出来るようになった……と、今はお考えください」

「そう言う物なのか? まあいい。それでどうする? この屋敷の規模だと、相当の人員が必要になると思うが……」

「それはお任せください、まずは一階のホールへと向かいましょう。そこで古廻様の新たなしもべを呼び出しますゆえ」


 僕ってなんだろう? と思いながらも流は窓から見える景色を眺めながら一階へと向かう。 途中ゴーストが壁や天井から何度か出るが、美琴が殺気立ち全てを払いのける。

 その様子に壱と参は感心しながらも、流の落ち着いた動きにも嬉しそうに頷いて居た。


「壱:昼間っからけったいな奴らやな~。しっかしここは何なんやろ? ここまで幽霊は普通出えへんぞ?」

「さあな~、俺も今日で三回目位しか来てないから分からん。でも確かに異常だな」


 所かまわず屋敷で出現するゴーストにうんざりする一行だった。

 そして一階のホールに到着すると、参は懐から数十枚のお札を取り出す。


「フム。では古廻様はその場でお待ちを」

 

 そう言うと参は「壱をむんず」と掴み、数歩前に出る。


「壱:おまッ! 何すんねん!? って――あががが」


 参は掴んだ壱の頭に「指を突っ込む」と、その手に持ったお札に命ずる。


「フム! 《我は命ずる。深淵の住人よ、この札に宿りて依り代と成せ!》」


 そう言うと札が部屋を乱舞し、やがて十代から六十代ほどの複数の使用人達の姿に変わった。

 その後、もう用は無いとばかりに参は壱を〝ぽい〟と捨てる。


「おお!? これは凄いな参よ。見た目もこっちの住人ぽいぞ?」

「ええ、敬愛する我が兄の記憶から似せて作った者達です。古廻様の命を、最優先に叶える事を生きがいとする者達ですので、ご自由にお使いください」

「壱:って! お前何すんねん!! 僕の頭に風穴開いたやんけ!!」

「フム。これは失礼を……」


 そう言うと参はどこからか絆創膏と取りだし、壱の頭の穴にペタリと貼る。


「壱:分かればええんや、分かればなぁ~」


 そんな壱に流は「お前はそれでいいのか?」とドン引くのであった。

 その後メイドや使用人達に参は仕事を割り振り、壱と流は商業ギルドへと向かう事にする。

 道中の町の雰囲気を楽しみながら歩いていると、肩に止まった赤い折紙が流へと予定を聞く。


「壱:なあ古廻はん、この後どうするんでっか?」

「そうだな、まずは――」



◇◇◇



「え!? ナガレ様あの屋敷をお買い上げになるのですか??」


 商業ギルドに着くなり、流はメリサに屋敷の買い取りを申し出ると、メリサはとても驚いていた。



読んでいただきましてありがとうございまっす!

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