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400:二度あることは三度ある

 朝が早いとは言え、アルマークの町は賑わっている。とくに経済特区という事もあり、商人たちの賑わいは朝から盛況だ。

 その商人たちが〝びくり〟と震え、その原因がする方を本能的に確認してしまう。


「な、なんだこの悪寒は――ひぃ!?」

「なに青い顔をしていやが――ひゃぅ!!」

「おいどうした? って、嘘だろ!?」

「だ、だれか衛兵を呼べ!! 魔物が出たぞおおおお!!」


 白い町を疾走する氷のバケモノに、商人たちは恐怖に駆られ後ずさる。

 一人ひとりの起こす音は小さいが、それが一斉に重なると〝ゾヴァ〟っとした音と共に道が開く。


「氷狐王、絶妙な妖気の放出だな」

「ハッ。お褒めにあずかり光栄! だがここまでです、これ以上妖気を放つと死んでしまいかねませんから」

「ほんとにあの子狐ちゃんとは思えませんわねぇ。あ、その角を右に曲がって、そのまま東の大門へと向かってね?」

「承知。そのまま壁を超えても?」

「そうだな、まぁいいだろう。この町はエルヴィスの爺さんの町だしな。なんとでもなるだろうさ」


 やがて大門が見えてくると、衛兵が騒ぎ出すのが見える。突如町中に現れた氷のバケモノに、恐怖するもそこはプロである。

 恐怖心を投げ捨てるように奮い立つと、門番長は大声で叫ぶ。


「敵襲!! 総員迎撃体勢!! 門は開けたままにしろ!! 抜けるようならそのまま行かせる!!」

「りょ、了解しましたッ!!」


 衛兵たる門番たちは即座に防御姿勢に入る。それを見た流は驚きの声と共に、衛兵たちの練度が高いと評価した。


「お~優秀な隊長さんだねぇ」

「まったくですわ。とっさの判断。そして内側からの攻撃だと言うのに、もうあそこまで防御陣形を敷けるとは見事ですわ」

「しかもほら、門は開放しているぞ?」

「そうですわね。あれは勝てないと判断し、無理に押し留めようとせず、被害を最小限にするという行動ですわ。門番としてはどうかとは思いますけれど」

「なるほどね……氷狐王、彼らに一切のダメージを与えず抜けれるか?」

「愚問。我にかかれば、ぞうさも無きことです」

「なら任せた。じゃあ高みの見物といきますかね」


 流は文字通り氷狐王の背中から門番たちを、氷の長イスに寝そべりながら見下ろす。

 それに気がついた門番長は、青い顔だったものが怒りで赤く染まると、自慢の投擲(とうてき)用の槍を構える。


「馬鹿にしおって! 総員、バケモノの歩みを止めるのは無理だろう。が、背中のナメタ奴だけはよく狙って撃ち落せ!!」

「「「ハッ!!」」」


 隊長の号令で浮足立っていた門番たちは、一斉に投擲用の武器や弓を流へと向ける。


「あらまぁ。流のせいで、わたくしたちは悪者ですわよ?」

「それは困ったねぇ、どうしたものかねぇ……」

「全然困っていないのに、困った表情のマイ・マスターもステキですッ♪」

「おいL。俺が性格の悪やつみたいな事を言うのはやめてくれ」

『流様、そういいながらニヤついていますが……鏡ご用意しましょうか?』

「おっといけねぇ。どうも妖人(あやかしびと)になると悪い顔になっちまうねぇ」


 流は妖人(あやかしびと)になると、さらに周囲を威圧しはじめる。

 氷狐王の妖気は繊細な調整は難しいらしく、これ以上強くすると死人が出かねない。

 そこで流が、恐怖心が「正気を保てるギリギリの幅」を狙い妖気を放つ。


「ぐぅぅッ!? 何だこのプレシャーは!!」

「門番長。ね……狙いが定まりません……」

「俺もです、指が震えて……」


 恐怖心で狙いが定まらず、あたふたとする兵士たち。自然と体が氷狐王との直線上にいる事を拒否し、その視線から少しでもはずれようと左右に分かれる。

 そこに追い打ちをかける氷狐王は、口を開き氷の塊を吐き出す。

 いびつな氷の塊は、兵士が割れた中央付近に着弾すると、そこから蜘蛛の巣のように氷が急速に広まり。


「も、門番長ぉぉ足があああああああ!?」

「なッ? 凍りつくだと!? くそおおおおおッ」

「悪いね。苦情はこの町の代表に言ってくれ! 俺は古廻 流! 領都級の商人だ!!」


 氷のバケモノに乗った自称商人が右手を振りながら、大門をくぐり抜ける。それを苦虫を噛み締めた表情で睨みつけながら、門番長は絶叫する。


「そんな商人がいてたまるかあああああああああああ!!」

「も、門番長……いったいアイツらは……」

「知らん!! クソッ、久々の朝番だと言うのに、なんて日だ。とりあえず全員足の拘束を外せ。その後リッジ様へ報告へ行く。それと副長は冒険者ギルドへも通報へ行け」

「「「ハッ!!」」」


 門番長はバケモノが去った方向を睨みつつ、独りごちる。


「クソ……一体何が起きている……」


 あまりの現実感の無さに一瞬夢かと思うが、足元の氷を見ればそれが真実だと認識する。

 そのまま悔しさを怒りに変えて、足の氷が解けるのを待つのだった。

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