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039:夢の中へ

「そして今後じゃがな……おんしには…………修羅の道を歩んでもらわにゃならん……」


 そう言うと祖父は、また涙を流すのだった。


「ほんにすまん、一族をあの化け物から解放させるのが古廻の長としての務め。なれど、その本懐を孫に命ずる事になるとは、あの時は思わなんだ……正直次の古廻の長は、おんしで決まりであった。だからこそあの地獄の修行を与えたのだが、まさか人形バケモノを討滅する当事者になってしまうとはのう……」


 あの豪胆な祖父が、涙を流し、ここまで申し訳なさそうにしている。そんな祖父を見て流は思った。


(ブッホッ~あのクソジジイが俺に頭さげてやんの! 人生最良のひ――あぎゃッ)


 そんな流に鉄拳が降って来る。


「こんの大馬鹿者があ!!!! おんしのような阿呆を孫に持ったと思うと、わしは情けないわ!!」

(ハハハ、爺さん。それでいいんじゃないのか? やっぱり爺さんはそうじゃないとな!!)

「おんし……ふん、未熟な孫に笑い飛ばされるとはのう。わしも老いたと言う事かの」

(まあ俺に任せとけよ! 先祖の無念もついでに晴らしてやるってばよ? それにな、あっちの世界は本当に最高なんだぜ? 友達も出来たし、見たことも無い色々な骨董に溢れているんだよ! それでな――)


 祖父――古廻雷蔵は、孫の流が異世界の生活を楽しんでいるのを見て、またも涙腺が崩壊しそうになったが、そこは根性で耐えて見せた。

 そんな孫を見て雷蔵は思う「素直で真っ直ぐな漢に育ってくれて良かった」と。


((見とるか婆さん、流の奴は立派になりおったぞ……))


 そんな祖父と孫の語らいはしばし続く。やがてそれも終わりが強制的に訪れる。


(ん? 御爺様、何か変じゃないか?)

「うむ、おんしの心に施した霊力が切れたのじゃろう。もうすぐここも閉じられる」

(そっか……またしばらく会えないのか?)

「いや、わしも近いうちに異怪骨董やさんへ向かおう。色々準備もせねばなるまいしな」

(じゃあ今度は……)

「ああ、そっちで会おう」


 そう言うと雷蔵は霧の中へと消えていく。


「ああそうじゃった、流。コレを持って行け!!」


 雷蔵は三日月型の小さな品を流に投げる。


(おっと、これは何だ?)

「それは『鍵鈴けんれいの印』になる種だ。今はまだ効力が出ないが、お前の成長と共にそれは如実に現れるだろう」

(分かった、じゃあまた会おう爺さん!!)

「馬鹿者、御爺様と呼べと言うとろうに」


 雷蔵が苦笑いをしながら消えると、不思議な空間は閉じていく。

 その空間が閉じると同時に、意識がふわりと浮き上がる感覚が体を覆う。


「……夢……?」

「古廻様!? お目覚めになられましたか!! 良かったぁ、本当によろしゅうございました」


 そう言うと〆は流に抱き着いて来る。

 〆のとても心地よい人肌の感触と、沈丁花ジンチョウゲの華がそこにあるかのような甘い香りで、流は未だに夢の中に居るのではないかと言う感覚になる。


 さらに拍車をかけるように「夢」が追い打ちをかける。


「お客じーん! おきたのです!? とても心配したのですよ~」


 〆と反対側に知らない娘が抱き着いて来る、うさみみを生やして。


「あ~やっぱりまだ夢の中なんだな。よし、もうひと眠りしよう……」

「壱:古廻はん、まちーな! ここは夢でも何でもないでっせ! 起きて~な!」


 せっかくの夢心地を壱のけったいな声で引き戻される。


「せっかく気持ちよく寝ようとしたのに、煩いぞ壱!!」

「壱:うぅ何で僕だけ……」

「フム。愚兄はウルサイからですよ。お初にお目にかかります古廻様。わたくしは貴方の三番目の従者にして、愚兄の弟でもあります。名をシンと申します」


 そう言うと真っ白な執事服を着た壮年の男は、綺麗な角度でお辞儀をする。


「お、おう? こちらこそよろしくな。え~っとそれと……キミはダレ?」


 流の左側にひっしと抱き着いている娘はとても可愛らしい顔つきで、その〝むっちり〟とした豊満な二つの丘で流の腕をホールドしている。


 ボリューム満点な適度に豊満な体から伸びた、細く形の整った腕は健康な肌色で、その先にはスラリとした美しい白魚のような指。

 目はうっすらと赤みを帯び、どちらかと言うと桜色の瞳をしている。

 髪は少々ピンクを混ぜたような、白く艶やかで光が反射しているのか、髪には綺麗な天使の輪が浮かんでおり、そしてその頭からウサ耳が生えていた。


「も、もしかしてキミはあれか? うさちゃんなのか?」

「はいなのです。ボクは因幡なのですよ」

「まぢかよ……本当に人になっちまったんだなぁ。もうモフモフには戻れないのか?」


 そう流が言うと、因幡は「うううん」と唸る。と、次の瞬間〝ぽんっ〟と言う音と共に、元のモコモコのウサギに戻る。


「あ、元に戻ったのです」

「やっぱり因幡がこの店で一番の不思議生物だな……どうなってるんだその体は?」

「さぁ? ボクも良く分かっていないのですよ。気が付いたら色々と出来るようになってたのです」


 流石神話より生きる神様の一柱だけあって、常人には理解不能なんだと流は思う事にする。


「まあ、どっちも可愛いから甲乙つけ難い魅力があるんだけどな」

「あ~またそんな事言って! お客人はたらしなのです」

「また面倒な言葉を知っているうさぎさんですね。はぁ~色々驚いたわ」


 そう言うと流はおもむろに右手で目の辺りを覆う仕草をする。

 それを見た全員が思わずハッとした。


「壱:ちょいまち! その印はアレやろ!?」

「こ、古廻様! それは……」

「あれれ? それって見た事があるのです」

「フム。間違いありませんね、それは『鍵鈴けんれいの印』の前段階にある印ですね」


 全員が驚くので流も右手を確認する、すると確かに右手の甲に三日月状の模様が入っていた。


「おい、これは何だ。ってあの時ジジイからもらった奴か? 夢の中だけって訳じゃなさそうだな……」

「それは『鍵鈴の印』と申しまして、その……もしかして古廻様は夢の中で、御爺様とお会いになられたのですか?」

「ああ、信じられないかも知れないが、あのジジイがあの化け物に遭遇した時の為に、俺の心の中にセーフティー的な感じで心を侵食されないように、仮想空間を仕込んでいたらしい。そこでジジイに会った時に貰ったんだよ」

「壱:相変わらず、ぶっ飛んだ事をするお人でんな~」


 壱の言葉でそう言えば雷蔵が、ここを知っているような事も言っていたと思い出した流は、その事も聞いてみる。


「そう言えば、〆やこの店を知ってるみたいだったが、ジジイとは知り合いか?」

「うふふ、それはもう良く存じておりますよ? 私達全員知っています」

「やっぱりそうなのか、近いうちにここへ来ると言ってたぞ?」

「フム。では『鍵鈴の印』の事もお聞きになりましたかな?」

「それが別れ際にいきなり渡されたからさっぱりだ。だが、鍵鈴の一族なんだろう、俺って? だからあの化け物に命を狙われてるって言ってたな」


 そう流が言うと全員暗い顔をする。


「申し訳ございません、私が至らないばかりに古廻様を危険な目に合わせてしまって」

「いや、気にするな。ジジイの話だと、いずれ俺はあいつと戦う事になりそうなんでな、早いうちに存在を認識出来て良かったよ。もしいきなりあんなのとヤリ合ったら確実に負けてたろうしな」

「そう、かもしれませんね……そこで古廻様がお休みになられている間、私共で検討したのですが、あちらの世界で古廻様が拠点としている町の近くにダンジョンがあるとの事でしたが、そこを攻略していただきたいのです」


 ダンジョンと聞いても今一ピンと来なかったが、ファンの言葉を思い出した流は頷く。


「ああ! ダンジョンな!? 俺もそのうち行ってみようと思ってたんだよ。何でも牛と馬の人型でごついのが居るらしいじゃないか?」

「ええ、その二人ですが、多分私共の身内です。以前、古廻様のご先祖様達があちらの世界へ行ってた時に使役されていた式神だと思われます。名は牛頭と馬頭と言いまして、予想が正しければ鍵鈴家に関わりのある物を守っていると思います」


 まさか異世界のダンジョンで繋がりがあったとは、流も驚く。


「そうなのか、それで何があるか分かるのか?」

「あの時向こうから戻られた方が幾人かおられました。その方々からの話では、向こうで憚り者達との戦闘があったと言います。途中まで優勢でしたが、理由は定かではありませんが、現地で問題が発生して敗走まではいかずとも形勢が不利となったとの事でした。そこで残された力で憚り者達の力の一部を封じたらしいのです。もしかしたらそれに関わる何かかかもしれません」

「なるほどね……しかしジジイから聞いたけど、古廻になってからは誰も渡った事がないんだろう? じゃあ何故先祖は渡れたんだろうな?」


 〆はしばらく考えてから答える。


「そう……ですね。あの当時の方々は皆『鍵鈴けんれいの印』を持っていました。でも古廻様は持っていないのに渡れた……当時私達はその印が渡る鍵だと思っていたのですが、どうやら違ったようですね」


 そう言うと〆はまた考え出す。


「まあ行けたんだから、今更考えても仕方ないか。あ、そうだ! この骨董屋さんに居ると、外の時間の流れとずれがあるのか?」

「いえ、基本的には同じように設定しています。ですので、ある程度は変える事も可能ですね」


 前回戻った時の時間差の理由が分かった流は、因幡が作って来てくれた夜食を食べながら今後の事を話してから今日は寝る事とした。



余談ですが、エリザベス餃子って知っています? 

深夜にあの看板見てお茶吹いたんですが……(*′•ω•`*;)

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