表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

387/539

386:お爺ちゃん、昔を思い出す

「すまない。足手まといになっちまったな」


 イルミスは流を引き上げると、胸の位置に顔を埋める。


「いいのよ……もう貴方がいるし。それに貴方と一緒の攻撃だったから、あの鉄壁顔を崩すことも出来たのですわ」

「そう言ってもらえると嬉しいが……あの、離してくれない? 苦しいんだけど」

「嫌ですわ。わたくしを置いて行こうとした罰ですわ」

「うぅッ!? くるぢぃぃぃ」


 流はますます胸に生められる。不死者とは言え心音は聞こえており、さらにぬくもりさえもある。

 そしてこの体。なんとも言えない、とてもよい香りを放っているようだ。何かおかしい(・・・・)


「……イルミスお前、何か魔法で俺を魅了しようとしているな!?」

「はて、何のことやら? 分かりませんわ。ホホホホホ」


 とぼけるイルミスに、流は丁寧に(・・・)問いただす。そのおかしな理由は、後に聞いた話で判明した。

 実は流を掴む瞬間と同時に、魔法ではなく、最上級ヴァンパイアのスキルである「束縛の魂」を発動させていた。

 その効果、「心酔」「感応」「性的欲求増大」「恋心」である。


「うぅ~酷いですわぁ……」

「戦闘中に何をしているんだお前は? 酷いのはお前の頭の中身だわ。ったく」


 その後セリアたちと合流後、エルヴィスの元へと向かう。

 イルミスは頭に小さなコブを作っており、そこを撫でて涙をながす。

 どうやら流にお仕置きされたようだ。


「そうよ、あんな空中で何をイチャついているのよ!」

「まったくだわ。お嬢様、やはり此奴(こやつ)はダメですぞ? まぁ、分からなくもありませんがな」

「まぁ無事で良かった。それでナガレ、一体何があったんだ? それに、なぜイルミス様まで……」

「あぁ実はな――」


 流とイルミスはここまでの経緯を話す。驚く全員。そしてエルヴィスが口を開く。


「なるほど。ここまでは理解しました。しかしなぜイルミス様はこんな事を?」

「なぜって貴方。乙女を捨てていく酷い男に、恋の復讐をしようと思ったからですよ」

「お前は乙女でもなければ、拾ったつもりもないが?」

「まぁ酷い! 流は先程言ったじゃないですの?」


 流は嫌な予感がするが、思わず聞いてしまう。「何を?」と。


「わたくし覚えていますわ!! 黒土にわたくしが陵辱されそうになった時、「俺の女だ」と言って守ってくれた事を!!」

「待て! 俺のモノだとは言ったが、女だとは一言も言っていないぞ!」

「『うわぁ……最低ぇ……』」


 刺さるジトメを背中にぶっ刺しながらも、懸命に言い返す。


「ち、違うんだ。言葉のあやと言うか、適当に出た言葉だ!!」

「うぅぅぅ流。貴方酷いですわぁ(棒)」

「『ますます最低ぇ……』」


 嫌な汗で、びっしょりと背中が濡れる。そこに右肩へゴツゴツとした感覚が優しく触れる。

 見るとルーセントが、とても優しい瞳で流を見ていた。


「小僧……分かるぞ。男ってやつはそういう生き物だからな」

「爺さんアンタ……」

「はぁ~ルーセント。過去の自分を見るような瞳で、流を見るのはやめなさいよね」

「はっはっは。お嬢様をやるわけにはいきませぬが、何となくコヤツに親近感がわきますなぁ。のぅ小僧?」

「分かってくれるか! ルーセント将軍!!」

「うむうむ。不可抗力と言うものじゃな。はっはっは!」

『もぅ……。それでイルミスさん、彼らは何者なの?』

「ええ、そうでしたわね。それもお話しますわ」


 イルミスは右手で指を鳴らすと、暗闇から先程見たゾンビもどきや、村人が出てくる。

 一瞬また敵襲かと身構えた一同だが、どうやらイルミスの完全支配下にあるようだ。


「まずこの子たちですが、この村で死した過去の遺体と、魂ですわ。それをわたくしが契約の元で利用している。そのような存在ですの」

「流石ヴァンパイアの上級職と言うべきか……それに契約? 無理矢理ではないと?」

「ええ。流の言う通り、この子達はこの地に縛られてしまった哀れな存在。あの箱を見たでしょう?」

「ああ。聖遺物と言ったらいいのか、そう言う雰囲気と存在力があった」

「ええ、わたくしも知らなかったのですけど、アレがあったがために、輪廻に戻ることが出来なかったと推測しますわ。輪廻に還る魂すら引き寄せる……つまり、極端な「聖」の力があり、人形に支配された村人の悪意を抑えていた」


 流はこれまでの内容から推測する。いくら聖なる力とは言え、そこまで悪意を隠蔽できるものかと?


「だが千石ほどの。鍵鈴(けんれい)の当主をも、騙せるほどの事が出来るのか? 確かに俺もこの村にあんな物があるなどと、気配すら感じなかったが……」

「そこですわ。多分あの箱の中身は聖骸の一部。ただ汚されていると思いますわ」

「汚されている? そしたらそんな強力な力など、発揮出来ないと思うが?」

「ええ、だからこそ限定的な使い方に向く。通常あのレベルの物であれば、この辺り一帯がその恩恵にあるでしょう。しかしそうでは無いどころか、ある事すら分からない状態まで存在が分からなくなっていた」


 その答えで流も頷くように言葉を続ける。


「なるほど……特化型と言うわけか?」

「ええ。霊魂になれば、力が極限まで弱まるので簡単に惹き寄せられるのでしょう。が、生者や力ある、わたくしたちは違う。あの箱は悪意を浄化し、それを生者へと戻すことで『心が清い人間』と、誤解させる事に特化した物だったのでしょう」

「霊魂からは詳細は聞けないのか?」

「だめですわ。彼らに意思はありませんわね。ただ、私に従うかどうかの、意思を決めれるくらいですわ」


 その話で全員頷くと、哀れな亡者たちを見つめるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ