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368:イルミス・フォン・イルミス

「たくっ……そこまでバレていますの?」

「ああ、俺はそういうのが分かる、鑑定眼(便利な目)があるからな」

「本当にずるい殿方ですわ。女の秘密をあばき、その胸に遠慮なくイヤラシイ()を突っ込むなんて」

「誤解をされるような事を言うんじゃねぇよ。それで俺は『合格』か?」


 イルミスは一瞬目を見開き、その後ニコリと微笑む。

 そのまま流の元まで近づくと、目を細め潤んだ瞳で――。


「ええ……合格ですわ。だから――」

「むぐぅ!?」

『流様!!』「ナガレ!!」「おいおい」「おぉ~若い者は自由じゃなぁ」


 吐血し、赤く染まった口を拭いもせず、イルミスは流の唇を妖艶な舌で撫でたのち、そのまま内部へと侵入する。

 

「ぐうううううううッ!?」


 突如苦しみだす流。だがそれも一瞬のことで、すぐにもとに戻る。

 その直後、流は右手の甲に熱い何かを感じ、それを見て驚く。


「こ、コイツは鍵鈴(けんれい)の印が……成長したのか?」

『本当だね。これは……未完成だけど、間違いなく鍵鈴の印だよ。でも……』


 右手に宿る紋様。それが以前と違い竹の模様に囲まれ、その中心に「印」と刻印されている。

 よく見れば、その回りにも二羽の鳥が絡みつくように浮き出ており、より豪華になった。


「これは一体……」

「ふふ、驚いてくれたようで何よりですわ。これは古廻千石様よりお預かりした「血」そのもの。それを三百年温めておりましたの」

「ちょ!? それ腐ってるんじゃねーのか!? 大丈夫か俺!!」

「もぅ、わたくしは血のプロですのよ? そんなヘマはいたしませんわ」

「え~そうは言っても……うぅ気持ち悪い」


 口元を拭う流。だがすでに体内に入ったらしく、そのまま涙目でイルスミへと問う。


「と、言うより何でそんな気持ち悪い事をした!?」

「嫌ですわぁ気持ち悪いだなんて」


 そう言うとイルミスは、パラダイス・シフトを使う。

 瞬間、そこに何もなかったかのように、イルミスの傷も破けた衣装もすべて綺麗になる。

 どうやら傷は、ヴァンパイアとしての強力な生命力で戻ったようで、その他の衣装などは別空間からの換装のようだ。


 そのままイルミスは数歩下がり、赤いドレスをつまむと家臣の礼を取るようにひざまずく。

 

「試練の突破、おめでとうございます。古廻流様。わたくしはイルミス・フォン・イルミス。真の(あるじ)である、古廻千石様に仕える不死者ですわ」

「どう言う事だ、千石が主とは?」

「ええ、そちらもお話いたします。あれはまだ、わたくしが人だった頃のお話ですわ――」



 ◇◇◇



 ――三百年前、とある城。そこに千石は瀕死の重傷で玉座に座っていた。


 千石が瀕死との報を受け、イルミスは別の戦場から千石の元へと急ぎ戻る。

 顔はすでに死相が浮き出ており、回復魔法も手遅れの状態。残り時間はすくい上げた水のように、その傷から無情にこぼれ落ちる。



「よ~イルミス。どうしたい、湿気た面ぁして?」

「馬鹿よ! なんでそんなになってまで、わたくし……いえ、この世界のために戦うのよ!!」

「ばぁ~っか。違うねぇ~こいつぁ俺のためさ。あの人形と裏切り者だきゃぁ、俺が始末っしなきゃなんねぇのさ」

「それは知ってるけど! だからって……だからってこんなになるまで!!」

「はは、おっかないねぇ~。美しい面が般若のようだぜ?」

「もぅ! こんな時まで茶化さないで!! お願い……死なないで……わたくしを一人にしないで……」

「なに雰囲気だしてやがる。だいたいお前が勝手に押しかけて来たんだろうが。俺には心に決めた娘がいるっつーの」


 イルミスは涙をながし、数度頭をふる。そして千石の元へと向かうと、そっと首をしめた。


「ぎゃあああ死ぬ! 死ぬからやめてくれ!!」

「そんな異世界の娘より、わたくしの方が美しいし、きっと胸も大きいはずよ!! いい加減あたしくしに惚れなさいな!!」

「無理! だって美琴の方が可愛いもの!! 美琴大好きだー!!」

「もぅ……こんな時くらい、わたくしを見てよ」

「ははは、すまねぇ……。はぁ~。こんなやりとも、あとわずか……か」


 千石はイルミスとの、「いつものやり取り」を懐かしく思う。

 出会った瞬間、恋に落ちたと告白され、その後長いあいだ一緒にいた。

 その後の旅は楽しかった。共に笑い、共に悲しみ、共に感動した。その傍らにはいつも笑顔のイルミスがいてくれた事に、千石は何時も感謝をしていた。


 お互い修行し、さらに力をたかめ、本来の目的である人形討伐も可能になった頃、一つの情報を入手する。

 それがこの悲劇の始まりだった。


 千石とイルミス。それに大勢の仲間たちは、人形と裏切り者の巧妙な罠にはまり、戦力が分散。

 さらに内部からの撹乱にもあい、最終的に撤退する事となる。 


 やっと追い詰めた人形と裏切り者と戦うため、長い時間をかけ各地で仲間を集めた。が、その最中にこのザマだ。

 千石は窓の外を見て、一つため息を吐く。そして優しくも悲しい瞳でイルミスを見る。

 

「イルミスには悪いことしちまったなぁ……」

「そう思うなら、今からでも乗り換えてもよくてよ?」

「それは出来ねぇが……イルミス。お前の望み、一つ叶えてやろう」

「嘘!? じゃあ、本当にあなたのモノになれるの?」

「ああ、武士に二言はねーよ。だからイルミス。お前を俺の家臣にする」


 そう言うと千石は血塗れの玉座から立ち上がり、イルミスへと近寄り壁際を見る。

 そこには涙目の娘がおり、その娘に千石は手招きするのだった。

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