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367:元娘たち

「ナガレ後ろ!!!!」


 セリアが見た驚愕の存在、それはイルミスだった。

 彼女は真っ二つになったのが、嘘のように元に戻っており、流の背後に高速で迫る。

 そのあまりの速さに流も対応しきれず、そのままの姿勢で微動だにできない。

 イルミスは動けない流に勝ち誇るように口を開くと、あざ笑うかのようにこう告げる。


「アハハハ!! ざ~んねん、これが――」


 イルミスは流の首筋に備前長船を突きつける、が。


「――パラダイス・シフトだろ?」


 流は納刀したはずの悲恋美琴を、イルミスの胸へと貫くように、背後へと突き出す。

 ビタリと互いの首と、胸に刃が止まる。見ていたエルヴィスは、一瞬の事で何があったか理解不能だ。

 かろうじてセリアとルーセントはそれに気が付き、その行動に頬を引きつらせる。


 実は悲恋を納刀はしておらず、そのまま左手で鞘の上から抑え持つ。

 さらに偽装とばかりに中の人が気を利かせ、刃を黒く染め上げるというオマケ付きだ。

 そうとは知らず、イルミスは背後から襲いかかり、結果この状態。


「……いつから知っていましたの?」

「始まる前からだ。おまえ『わざと殺気を出した』ろう?」

「ええ、そうですわ。それが、どうかしまして?」

「パラダイス・シフト。この魔法は、かなりの制約があると見た」


 互いに動かず、刀を突きつけたまま流は静かに話す。イルミスもそれに付き合うように、黙ってその話を聞く。


「まずこの魔法は、無から有を生み出せるものじゃない。もっと言うと幻術の類だ」

「いやナガレ、それはない。性悪様の馬車での出来事は見たろう?」

「そうだね、確かにあれは本物だったと思うよ?」


 エルヴィスとセリアは、流の推測を否定する。だがルーセントは。


「まぁお嬢様、エルヴィス。続きを聞いてみましょう、ワシも気になりますのでな」

「そうね。確かにその通りだわ」

「ええそうですね。それでナガレ、一体どういう事だ?」


 三人の言葉で頷くと、流は続きを話し始める。


「まず馬車の事だが、あれは多分事前に用意してあったものだ」

「用意? どういう事だ? 私には突然変わったように見えたが」

「そうおまえが思うのも無理はない。先程幻術と行ったが、さらに言うと召喚魔法の一種だろう。そうだろイルミス?」

「……ええそうね、そういう事になりますわ」


 驚く三人。特にエルヴィスの驚きは凄い。


「いやそうは言ってもナガレ。召喚魔法? ま、まさか内装そのものを召喚したと言うのか!?」

「御名答。あれは元々あの馬車に(しつら)えた内装を、イルミスの魔法であるパラダイス・シフトで呼び出し、空間ごと『入れ替えた』わけだ」

「なんと言うことだ……では私が用意しきれなかったモノを、イルミス様は用意し、さらに施工も完璧にこなしたと……」

「そう言うことだな」


 納得する三人。さらに流が話を続ける。


「あの時同型の馬車が並走していたろ? 多分あの中の内装と入れ替えたはずだ。そうだろイルミス?」

「嫌ですわねぇ。女の秘密をそんな簡単に言い当てるなんて……」

「で、でもナガレ。イルミスさんが復活できたのはどうしてなのよ?」

「あぁ、ソイツはこうだろう。パラダイス・シフトを使い、『事前に用意してあった身代わり』と入れ替わったんだろう」

「そんな!? だって私たちは目の前で見てたんだよ? 私もそうだし、多分ルーセントだって」

「ふむ。お嬢様の言う通りじゃな。入れ替わったようには全く見えなかったし、そんな暇など無かったはずじゃ」


 流は呆れたように二人へと話す。


「おいおい。忘れたのか? あの馬車での出来事を?」

「あ! そう言えば、気がつけば内装そのものが変わっていたわ」

「うむ、ワシもそうじゃった。何の違和感も無く、気がつけば変わっておったな」

「ええ私も同じですね。いつもの事なので、あまり気にもしていませんでしたが」

「だろう? こいつ、パラダイス・シフトのやっかいな所はそこだ。違和感なく、突然別のモノと入れ替えることが出来る。だがいくら入れ替えたとは言え、普通は違和感が絶対にあるはずだ。だがそれがない。おそらく認識阻害の効果もあるのだろうさ」

「だから発動には、制約があると言っていたわけか……」

「そうだ。ちなみに最初の殺気も、仕込みを俺が気が付かないようにする、保険みたいなものだろうさ」


 流のあまりにも的確な答え合わせに、イルミスは実にいい笑顔で頬をヒクつかせる。


「よ、よくお分かりになりましたわ。ですが、わたくしが斬られたのも事実。斬られてからパラダイス・シフトをしたのですわ」

「あぁ、ソイツも簡単な話だ」


 流はそう言うと、胸に当てていた悲恋を、「思いっきり」イルミスの胸へと突き刺す!!

 イルミスもまさかこのタイミングで、流がそんな暴挙に出るとは思えず油断していたのが災いし、その刃を胸深く背中まで貫通させてしまう。

 驚く一同。イルミスは口から吐血し、そのままヨロヨロと背後へと三歩後ずさる。


「ガッハッ――なっ……何をッ!?」

「おいおい、演技もそこまでだ。なぁ……『ヴァンパイア』のお嬢さん。いや、元娘かな?」

『もぅ、そういう事を言うのは失礼ですよ!!』

「いいだろ。大体おまえも似たようなものだし」

『ひっどーぃ! 今でも娘だもん!!』

「はいはい」


 さらに重なる驚きの事実。そこに間の抜けたやり取りをする流と美琴に、イルミスは苦笑いをしながら血を吐き出すのだった。

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