359:Lはお嬢様なので上品なのです
「おお……これはスゴイな……」
「本当だね。流様のお屋敷の料理にも負けてないね」
前菜が運ばれてくるのを見て、流と美琴は感動する。それと言うのも、目の前に運ばれたサラダに使われている野菜が美しかった。
見た目が美しいは当然だが、トマトのような外見の野菜であったが、それ自体が発光する。
色目はピンクに近い赤であるが、その直径五センチほどの球体の中心が、美しい。
「さ、まずはそれをお試しあれ。とても美味しくてよ?」
「では早速……ッ!! これは一体」
「うわ~、ナイフを入れたらスープになっちゃったよ!!」
トマトのような野菜にナイフをいれる。すると驚いたことに、薄皮が軽く弾ける音がしたかと思うと、内部の光っていた部分があふれ出す。
それがさらに満たされて、あっという間にスープへと変わる。
流と美琴ばかりではなく、客として呼ばれた全員が驚く。あのエルヴィスですらも目を丸くし、珍しい食材に驚く。
流は待ちきれんとばかりに、早速スプーンを皿へとすべりこます。
いまだに発光を続けるスープは、とても澄んでおり、食欲をこれでもかと刺激する香りに、鼻孔から脳が揺さぶられる。自然と開く唇を超え、一口ふくむ……。
「……俺は今、人生で初めて野菜を食べた」
「信じられない……なに、これ……」
流と美琴は絶句する。コンソメスープより尚濃厚で、下手すると肉よりも旨味が強い、強烈な野菜と言う存在が溶け出した塊に、涙がジワリと浮かぶ。
それを見て満足したのか、イルミスは周りを見る。やはり同じような反応で、満足げにうなずく。
特にエルヴィスが、貪るようにスープを飲んでいるのを見ると、勝利を確信する。
「エルヴィスぅ? 今回はわたくしが勝つと、予感がしてまいりますの」
「くっ、確かにこれは私の知らないものだ。だが、この程度ではッ!!」
「あらあら。みっともない殿方のあがきは、見ていて滑稽ですわ」
「チッ、次の料理を出していただこう」
「ふふふ、耐えれるかしら?」
次に運ばれて来た料理は、さらに驚愕である。なぜなら。
「なにぃぃッ!? またスープだと?? いや、あれが前菜ならこれは分かる、だがしかし」
「流様、おかしな料理漫画みたいな感じになってるから、おとなしくしましょうね?」
「うん……」
「ふふふ。まぁ驚くのはむりもないですわ。さぁどうぞ」
全員がほぼ同時に口へと、透明で水のようなスープを注ぎ込む。
一瞬の無言。その後にくる思考停止。さらに実感する味の認識。それは――。
「おい、これって……」
「ああ水だ。ただの水。いったいどういうつもりかな、性悪様?」
「あらひどいですわ。ついに名前ですら、呼んでくれないなんて……かなしいですわ」
「これは失礼を。あまりの常識のなさについ……それで?」
「それでもなにも無いですわ。どうぞお召し上がりを」
エルヴィスは怪訝な顔をするが、とりあえず口にふくむ。
「じゃあもう一口だけ……お、おおお!! これは一体?」
「うっそだろ! ただの水だったはずが、なんでこんなにも濃密な魚介の味になる!?」
「ナガレ、この味はきっとオルドラ名産の海槍巻貝だよ。でもこんなに濃密な味になるなんて、一体どうやったらこうなるのよ」
「ふふ、セリアが正解ですわね。これは最初に口にふくむものの、料理の味が消える魔具が皿に仕込まれているの。それで口の中をリセットし、もう一度の食べることで食材の味が何倍にも感じられるのですわ」
「くッ、またしても姑息な手段を」
「あら嫌だわエルヴィスったら。ちゃんとしたおもてなしだと言うのに、何を言っているのかしらね? さ、少し早いけどメインをお出ししてちょうだい」
執事が頭をさげ、メイドへと指示をする。そして運ばれてくる料理に一同はさらに驚く。
「おいおい、メインもスープなのかよ? 流石の俺もビックリだわ」
「わぁ、またスープだね。すっごくビックリしちゃったけど、香辛料の香りですごく美味しそうだよ?」
「これは……香辛料では無いですね。イルミス様、また何かしましたね? これは皿に仕掛けはなく、作る時に魔法で素材自体に香り付けをした。違いますか?」
イルスミはピクリと眉を動かすと、エルヴィスに正解を話し始める。
「ええ、そうですわ。まったく、今日こそは完全に勝てると思いましたのに。残念ですわ」
「それは残念でしたね。本日はイルミス様のお気持ちが、ストレートに現れる料理ばかりで、流石の私も負けるかと思いましたが」
「フン、さぁさぁ。まずはお食べくださいな。この料理の真価はここからですのよ?」
「イルミスがそう言うなら食べるが……でもスープばかりじゃなぁ」
「ワシもできれば、腹持ちがよいものを食べたいのう」
「もぅ、ルーセントもナガレも失礼ですよ?」
「本当だよ。Lちゃんを見なよ、行儀よくちゃんと食べているから」
一同はLへと視線を移す。一番問題を起こしそうな彼女であったが、なぜか上品にスープをすくい、口へと運ぶ。
が、次の瞬間だった。Lは〝くわッ〟と目を見開き、突然立ち上がると、テーブル中央にある食材へと手をのばす。
そこには調理はしていないが、生の食材が見事な包丁さばきにより切られており、素材の美しさが際立つ。
肉はしっとりと艶よく、サシも適度に入り美しい。魚の切り身は角がたっており、その鮮度がよくわかる。
野菜は今でも畑、いや野生で生えていたんじゃないかと思えるほど、新鮮なハリを見せる。
その中の肉を目をつけたLは、手で肉を掴み取ると、スープの中へとぶちこむ!
するとスープから湯気が突如立ち昇り、あっという間に素材へ火がはいるのだった。