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035:流、〇〇に完敗する

「馬鹿なぁ、俺が貴様と同じ変態だと言うのか……」

「嘘だろう、俺がコイツと同じ変態だってのか……」


「へ、変態かどうかはさて置き、言動は……その、同じかと」

「そうですね、兄の意見にえっと……私も同じです」


 申し訳なさそうに言う兄弟に、周りのギャラリーも同情的な視線を送る。

 と、そこへ黒い執事服の品の良い初老の男が割って入って来た。


「お……コホン。お館様探しましたぞ! 一人でこのような場所までおいでになってはいけませんと、あれほど申しましたのに」

「セヴァスか……聞いてくれよセヴァス。俺はどうやら変態だったらしい……」

「はい、存じ上げております。そんな事より早く帰りますよ」

「え゛!! 知ってたの!? くッ、オイそこの貴様! 今日のところは勘弁してやる! 次に会ったら容赦はしないと覚悟するがいい!」

「何の勝負か存じませんが、お客様方がお待ちになっております。至急お戻りください」


 そう言うとセヴァスは流に一礼した後、小柄だが身なりの良い、金髪緑目でロングヘアな美男子を拉致するように去っていった。

 


「お前と一緒にするな! 俺のは純粋な骨董愛だ!! お前などバカめだ、バカめと言ってやる!!」


 連れ去られる漢と、吠える漢。

 ギャラリーは思った。「ダメだこいつら!」と。



◇◇◇



 流は野良犬に噛まれた気分でお屋敷街へ向かう。

 

「まったく信じられないな、何だあの変質者は! まあ、あんな変態の事は忘れよう、思い出すだけで……」


 ふと思いなおしてみる。何かこう自分と通じる所があるんじゃないか? と。


「イヤイヤイヤ、俺はあんな壺に口づけはしないぞ? 頬ずりはしたけ、ど……」


 思い出すと自分と似たような所がある、そう思うと無性に可笑しくなる。


「くくッ、ぷッ。あっはははは! そうか、そうだったな……これが同属嫌悪ってやつか!! あの変態め、許せん!!」


 なぜか同属嫌悪に昇華した同類への怒りが、何かの装置に伝わったのか、怒りが加速した流であった。


 そうこうしていると、お屋敷街へさしかかる。

 日は完全に落ち、辺りを夜の帳が優しく包む。道を照らす街灯は魔法の光なのか、科学の光と違いどこか幻想的ですらあった。


「ふぅ~やっと着いた。この町はかなりの大きさだから移動手段や、荷物の運び方も考えないとな。えっと鍵は……あ、そうだった。この屋敷は生体認証みたいなのがあるって言ってたな。門柱の所に……あった、コレか?」


 屋敷の門柱にある天使像のような物に手をかざすと、意匠を凝らした門が静かに開き、庭園が息を吹き返したかのように輝きだす。


「現代マンションも真っ青なギミックだな……」


 屋敷の正面玄関に到着すると、そこも勝手にドアが開く。さらに屋敷に魔法の灯りが波紋が広がる様に全体に広がっていった。


「これ、凄いな~。さて、荷物は一端その部屋へ纏めて置いてっと。宿屋に戻るのも面倒だから、報告も兼ねて異怪骨董やさんへ戻るかな」


 流は「異界の間いかいのま」と名付けた三階の部屋へと向かう、途中何度か霊的な何かを感じたが、その都度美琴が反応したと思うと霧散してしまうのだった。


「やっぱりアレなのか? 出る? 出ちゃうのコレ? やだ~幽霊屋敷じゃないですか~。まあ美琴さんを知った後で、今更幽霊と言われても(困惑)って感じだしな」


 幽霊と一緒にされたのが不満だったのか、美琴が珍しくムっとしたような雰囲気を出した。


「あ、いや。ごめんごめん、別に美琴が幽霊って訳じゃなくてだな……ん? そう考えると、美琴って刀匠美琴……なのか? それとも他の魂? んんん~謎だな。何となくだが複数の存在を感じるし……」


 そんな事を考えていたら異界の間へ着いたので、中へ入って鉾鈴を出す。


「幽霊屋敷か。こんな物件だから安くしてくれたんだろうけど、メリサの奴無理してないだうな? 戻ったらそっちも行ってみないとな」


 そして鉾鈴を掲げて異超門を顕現させ、流はその中に消えて行った。



◇◇◇



「――と、いう訳なんだよ、〆衛門」

「〆:古廻様お帰りなさいませ。いきなり『と、いう訳』と言われても、何の事かさっぱり分かりませんが、とにかくご無事でよろしゅうございました」


 流が帰って来た事を察知した〆は、きつねの折紙になって飛んできた所でいきなり冒頭の言葉である。


「壱:これだから兄より勝る妹などおらへんって言うんや。なぁ古廻はん?」


 いつ間に出て来たのか、黄色の折紙で折られたカエルが流の肩に乗っていた。


「〆:何時の間にわいて出て来たんですか……黒い虫か何かですか。誰か殺虫剤をお持ちなさい、今すぐ駆除します」

「まあまあ、落ち着けよ〆。壱も理由ワケあっての事だ」

「〆:理由……ですか?」


 きつねの折紙は訝しげにカエルを睨みつける。


「壱:そうやで~ 古廻はんはアッチでどえらい目にあったんや。それはもう壮絶と言う言葉も生温いほどにや」

「〆:な!? そ、そんなご苦労をなされたのですか!? 貴方は何をしていたんですか! 事と次第では許しませんよ!!」

「壱:ちょ! 落ちつき~や! 尻尾の部分から金の針が仰山荒ぶってて怖いやん!」

「まてまて、そこまで酷くは無い……よな?」


 その言葉を聞いて一層荒ぶる〆に、壱の折り紙の色が青くなる。

 このままでは壱の命も風前の灯火に見えた流は、あの後の事を説明する。


「――と、いう訳なんだよ、〆衛門」

「〆:そんなご苦労が……本当にご無事でよろしゅうございました。でもその話と、最初の件が何故繋がるのです? 愚兄は何故か分かってるようですが」


 流と壱は顔を見合わせて不思議そうにしている。


「壱:だから、なぁ? 古廻はん?」

「うむ、まあなんだ……」


「壱:突然でっけど、アタックゾーン! 外で酷い目にあった時に、家に帰ったら真っ先にする事とはなんですか??」

「家で惰眠を貪りながらスイーツを食べているまるっこいのに泣きつく!」

「壱:大正解!! と、いう訳なんだよ、〆衛も――ぎゃああああ」


 そう壱が言うが早いか、〆は高速で金の針を複数飛ばし、せっかく戻った黄色の蛙を青く染め上げ、さらに囲炉裏に叩き落とす。

 青いカエルは赤々と燃え盛る菊花炭の中へと落ち、あっと言う間に燃え上がる。


 良く見るとその燃え上がるカエルの折紙の指が、何故か器用にサムズアップしていた。


「おいいいい!! 壱の奴燃えちまったぞ!! ど、どうするんだよ!?」

「〆:知りません! 私はまるっこくも、惰眠も貪っていませんがスイーツだけは食べます! だからあんな失礼な愚兄は居なくなればいいんですよ」

「スイーツは食べてたのかよ……」


 とばっちりを受けた壱の残骸が、灰になるのを唖然としながら見ている流だったが、突如灰が光りだす。

 すると灰の中から一羽の真っ赤な折紙が飛び立った。


「壱:不死鳥になり華麗に復活!! って、何すんねん!! 危うく死にそうになったやんけ!!

「モ、壱! お前生きてたのか!! 良かったなぁ、ウンウン」

「壱:古廻はん、いい男ってのは何度でも蘇るさ!」

「〆:はぁ~やっぱり生きていましたか、残念です。ここ百二十年の中でも断トツで」

「壱:くッ、なんて女や……いつか鼻から手え突っ込んで奥歯ガタガタいわしたるさかいな! しかしあれですな~古廻はん。様式美ちゅうもんも命懸ですがな」

「む、分かるか壱よ? 漢にはやらねばならん時がある。それが、今だ!」

「壱:分かりまっせ、古廻はん!」


 そう言うと二人は陽気に笑いだす。


「〆:はあ~、盛大な前振りに私を巻き込まないでくださいましな。本当に心配したのですからね、本当に……」


 そう〆は言いながら、少し涙声になっていた。


「い、いやあ~ごめんな? まさかそこまで心配してるとは思わなかったからな。でも、心配してくれてありがとうな。〆のお陰で今回も無事に生き残れたんだからな」


 そう言うと〆はとても、本当にとても嬉しそうに頷くのだった。


 流は〆の勧めもあり、そのまま四阿温泉郷へと向かったので、〆は夕餉ゆうげの支度を始める。



「壱:おい、妹よ。いささか度が過ぎるのではないか?」


 壱はいつもと違う真面目な口調で妹に問いただす。


「〆:それは分かっていますよ、だけど兄上も分かるでしょう……。もう嫌なんですよ、主を失うのは」

「壱:…………」

「〆:過保護と言われても、今度は『私の存在自体をかけても』必ず流様をお守りするのが私の存在意義だと、今は強く思っています」

「壱:それは私とて同じだ。だがまだ、流様が我らの主と決まった訳ではあるまい?」

「〆:いいえ、私には分かります。例え『鍵鈴けんれいの印』が無くとも、あのお方は私たちの主として、相応の資質みたまをお持ちなのですから」

「壱:そう、だな……」


 そう言うと二人は無言になり、夕餉の支度を再開するのだった。

今日も見てくれてありがとうございます。

書いていて思ったんですけど、〇〇って何だろう? 

決めてなかったんですよねΣ( ̄ロ ̄lll)


読んでいただきましてありがとうございまっす!

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