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352:欲望に忠実な女

 やっと出発する大型の馬車三両。イルミスの領主の馬車は外装がハデだ。しかし内部は地味、と言うより、魔法てきな力を感じるが。


「う~ん。これはやっぱり魔法の結界みたいな感じか?」

「あら、よくお分かりになりますわね。ええ、そうですよ。ナガレが言うとおり、この馬車は外観の華奢(きゃしゃ)な感じとは違い、本質は守り。小さな要塞と言ってもよいほどには強化してありますのよ?」

「ナガレ、この強欲領主様の馬車はな。わ・た・し・がご用意したものだ。だがな、内部が地味で気に食わないと、難癖をつけられ買い叩かれたのだ。非道だろう?」

「あらいやだわ。エルヴィスったら何を言うのかしら? わたくしは言いましたわよね、豪華な馬車で、内装も豪華にしてねと?」

「ええ、そう聞きましたよ。ですがその後ちゃんと内装は魔法陣の設置と、魔具の設置ができないので、地味になるといいましたが?」

「ええ、聞きましたわよ。しかし契約書に、私の同意があっても『最大限の努力をしなければいけない』と記載してますが?」


 エルヴィスは額に青筋を浮かべ、とてもいい笑顔でそれに応える。


「ええ、ですから最大限の努力をしましたがね?」

「あらいやだわ。これが最大限ですの? ほら、窓のふちを御覧なさいな?」


 全員その言葉で窓枠にふちを見る。すると外にある街灯の魔具に一瞬目がいった瞬間、室内が変化する。

 それは驚くべきものであり、何が起きたか流は全く理解できなかった。

 視線を戻すと、そこには地味な木製だった内装は無くなっており、見事な壁紙。洒落た調度品。室内を照らす魔具まで小型のシャンデリアのようになっていた。


「……イルミス様。また……やりましたね?」

「いやですわエルヴィス。そんな常習犯みたいな言い方はよくなくてよ? ただ貴方の努力がたりない、それを形にしてお見せしただけですのよ」

「性悪がぁ……」

「お、おい。いきなり変わったけどこれは一体?」


 流をはじめ、セリアとルーセントは驚く。ちなみにLは嵐影に乗っているので外にいる。

 

「これが性悪領主様の魔法『パラダイス・シフト』だ」

「パラダイス・シフト? 何だソレは?」

「嫌だわぁエルヴィスったら、女の秘密をペラペラと。ふふ、ナガレ。これはね、わたくしが思った通りに変更出来るのよ。どう、ステキでしょう?」

「そんな事が可能なのか……」

「ああ、私もな幻術の類かと思っていたんだが、この魔法はそういう次元じゃない。本当に変えてしまうんだ。私も駆け出しの頃にこの噂を聞いてな、どうせ幻術だろうと思い、一泡吹かせようと乗り込んでこのザマだ」

「まぁ人聞きの悪い。契約を守れなかった貴方が悪くてよ?」


 エルヴィスは苦虫を噛みしめ、吐き捨てるように流へと話す。


「だ、そうだ。しかしコイツも欠点が無いわけじゃない」

「もぅ、またそうやって女の秘密を暴露する。本当に嫌な殿方ですわね」

「そうですか? 貴女にそう言ってもらえると、嬉しくて小躍りしますがね」


 またお互いに青筋を立てながら、実によい笑顔でほほえむ。

 それに「ひぃぅ」と情けない声がするが、今は聞かなかったことにして流は確信へと迫る。


「ん……これはアレだな。制約が多そうだ。多分だが、効果は限定的。もしくは、かなりの触媒か何かが必要なんだろう?」

「ふふ……あはははは!」


 その言葉を聞き、イルミスは大笑いする。そのあまりにも本気の笑いに、また「ひぃぃ」と声が聞こえるが、それどころではない。

 イルミスはしばらく笑うと、ゆっくりと口を開く。


「はぁ……よく。分かりましたね?」

「なんだろうな、俺も魔法とかド素人なんだが、そういうのが見えると言うか分かる」

「ええ、当たりです。私の魔法はかなりの制約がありますの。中身はお教えできませんが、それでも色々あるのはたしかですわ」

「ナガレ……おまえそこまで分かるのか? 私はアルマーク商会の力を使って、やっと表層の事実を知った程度だぞ? 触媒やらが必要だとは知らなかった」

「まぁ、な。何故かそういうながれと言うか、力が見える気がする」


 その言葉に美琴は思う。やはり流には視えているのだと。そして自分の事も今すぐ見てほしいと!


「あのぅ……みなさん。私を無視しないでくださいよぅ……」

「ん? あぁ。どうだ、極上の枕の感じは?」

「サイテーデス」


 美琴のその言葉で流はイルミスを見る。そこには美琴が抱き寄せられており、頭をムギュっと胸にうめ込まれている。

 もう美琴さん涙目である、幽霊なのに泣いちゃっている。ポロポロと。


「ま、そういうワケで、この領主様と契約する商人は大抵泣くのさ。だが人柄は悪いが、商人は絶対に損をしない。そんなイヤラシイさじ加減で金払いはいいから、泣く泣く商人は付き合うのさ」


 エルヴィスのその言葉に、面白くなさそうな表情をする領主。だがナガレを見るその瞳は期待と欲望に満ちあふれていたのだった。

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