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348:無自覚な悪癖~レンダ

 その後なんとか、喜ぶ住民から開放された流たちは、酋滅級の冒険者であるヨシュアと共に冒険者ギルドへとたどり着く。

 このヨシュアという男、酋滅級だけあって動作に隙がない。見た目はとぼけた感じで、無精ヒゲを生やした茶髪の人物であり、年齢は三十前と言ったところか。

 ここまで来るのに必死だった流は、そんなヨシュアをやっと落ち着いて見る事が出来、あらためて町並みを見回す。

 

「ふぅ~やっとついたな。しかしこの町はこう……歴史がある感じだな」

「私も来たのは初めてだけど、話では知っていたわ。ここは古く、トエトリーより歴史があるのよ」

「ははは。セリア様もナガレも観光気分だな。まぁ、この古くさいが伝統ある町並みは圧巻だからな」


 エルヴィスはそう言うと、両手を広げイルミスの古き良き町並みを宣伝する。

 それを聞いていたヨシュアは、呆れるように話し始めた。


「おいおい、その案内は俺のやくめだっつーの。久しぶりだなエルヴィス坊、今日はこんなんだから挨拶もままならねぇ」

「いやいや、私もだよヨシュア。そちらも元気そうで良かったよ」


 そう言うと二人は固く握手をする。どうやら既知の間のようで、エルヴィスの幼少期から知っているようだった。


「んじゃ、とっとと報告を済ませようぜ? ナガレは俺と来てくれ。他の奴らはホールでくつろいでいてくれよ」


 そう言いながらヨシュアは冒険者ギルドへと入る。どうやらこのギルドは扉が無いらしく、開放的であった。

 寒くはないのかと流は思いつつも、新参者歓迎イベントが無いことに残念に思う。あぁ、トエトリーのプロの雑魚(心の友)が懐かしい。


「もどったぞ!! レッド・ドラゴンは無事に追い払った!」

『『『オオオオオ!!!!』』』

「だが俺らじゃねぇぞ? やったのは、この男! 極武級にして、『極武の英雄』の二つ名を持つ、ナガレがやった!!」


 その宣言で、一気にギルド内は火の入った鍛冶場のような熱気に包まれる。

 

「待て待て、今からギルマスへ報告してくる。おい、そこのプロの酔っぱらい! お客様がおいでだ、その場所を空けねーか!」

「うぃっぷ……。お? りょ! 今すぐあけるわょ~っと」


 うさぎの獣人の娘。プロの酔っぱらいと呼ばれた人物は、フラフラとボトル片手に人混みにまぎれていく。

 それを見たヨシュアは、「まったくアイツは」と悪態をつくと、エルヴィスへと話す。

 

「エルヴィス、ここで待っててくれ。そちらのお嬢さんと爺さんもな」

「分かった……と言いたいところだが。お前のせいで落ち着いていられんようだが?」

「あぁ。こいつはミスったな、スマン!」


 見ればすでにセリアとルーセントは、冒険者たちから歓待を受けており、その対応に大忙しだった。

 ヤレヤレとため息を付くエルヴィスは、ヨシュアに「貸しひとつな?」と言いながらセリアの元へむかう。


「んじゃ、行こうかね」

「アンタも役者だな。わざとだろ、アレ」

「ははは、何の事かな?」

「まぁいいさ。おかげでコッチは静かになった。セリアたちには頑張ってもらおうじゃない。で?」

「こっちだ、付いてきてくれ」


 ヨシュアに連れられギルドの奥へと進む。トエトリーと違い内部はそんなに広くはないが、作りは似ている。

 酒場兼レストランのような作りのカウンターが一つあり、そこから料理と酒が運ばれる。

 どうやら肉料理が自慢のようで、大抵のテーブルには白く肉厚で、ゴロリとしたものに赤と緑のソースがかかっている。実にうまそうだ。


 それを眺めながらギルドカウンター前へ来る。どうやらヨシュアの馴染みの受付嬢らしく、ニマニマしながら右手を差し出す。

 ヨシュアは「チッ」と舌打ちをすると、ポケットから一枚の金貨を取り出し、指で弾き受付嬢の額へと張り付かせる。


「あ痛ッ!? もぅ、ヨシュアさん何をするんですか!」

「ほらよ。約束の報酬だ。なんで分かるんだよいつもいつも」

「なぜと問うの? しらないわよ! ふふん、凄いでしょう? もう一枚追加してもいいのよ?」

「アホウ。それよりギルマスは?」

「ちぇ、つまんないの。お部屋にいると思うけど……一緒にいるって事は、その子が私が言ってた人?」

「ああそうだ。お前が言い当てたとおり、こいつがレッド・ドラゴンを退けた」


 ヨシュアはそう言うと、流の左肩に右手をのせる。それを見た受付嬢は、目を見開き白い耳をピョコリと動かす。

 その顔は目の下に薄っすらと筋があり、レッサーパンダと似ている。体毛も濃く、この娘は人より獣に近いようだったが、愛嬌ある可愛らしい表情が実に魅力的だ。


「あ、レッサーパンダ!」

「え? そうですけど、失礼な人ですねいきなり」

「あぁすまない。おもわずその可愛らしさにやられそうになった。うん、可愛い。と言うより、可憐だ! うっすらと生える目の下の体毛が、レッサーパンダを強烈にアピールしつつも、人のきめ細やかな肌の質感が、それを優しく包む。あざといほどに完璧な愛くるしさだッ!!」

「な・な・な、いきなり何を言うんですかアナタ!? そりゃ可愛いです。可憐です。でも、でもぅ~」

「おいおいナガレ大丈夫か? 見た目は小動物見てーなツラしてるけど、中身はヤベーから気をつけろよ? こいつ、お前がレッド・ドラゴンを撃退すると言い当てた、なんだか分からんがヤベーやつだ」

「失礼ですね! こいつじゃなく、私はレンダって言う名前があるんですからね!!」

「だ、そうだ。まぁ俺はゲンカツギにこいつ、レンダに毎回聞くわけだ。今回の戦いはどうなるってな。で、コイツと逆に賭ける事で、無事に帰ってこれるかどうかを楽しんでいるってわけさ」

「へぇ~、レンダは凄いんだな。見た目は可愛いのにな」

「も、もぅまたそんな事言って……今夜、私の予定はあいてるわよ?」

「すまんな、急ぎの旅の途中でな。また時間があったら来るよ」


 その言葉にレンダはがっかりとしながら、頬を染める。そしてカウンターから身をのりだし、ナガレの手をガッチリと掴む。


「絶対、時間ある時は来てね!!」

「あ、あぁ。うん、そのうち、な?」

『ハァ~。どうしてそう無自覚に、次々と女の子を籠絡(ろうらく)するのかなぁ?』


 美琴さんは静かに怒る。激おこである。そんな不穏な妖刀が怒るのも気にせず、流は話を進めるのだった。

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