表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

339/539

338:別れは感謝とともに

 あまりにも静まり返っている広場に、流はどうしたものかと考える。そこにワン太郎が短い足で〝ぽむぽむ〟歩いてくると、呆れたように話す。


「あるじぃ~。もう少し苦戦なりこう、『戦った』ってのを演出しないと、何が起きたか分からないワン」

「くッ!? そ、それはエンターティナーとしてどうなんだ、俺!!」

『二人とも、遊びじゃないんですからね。ほら、それよりどうするの、コレ?』

「う~ん……あ、そうだ!」


 流は一瞬、妖人(あやかしびと)になる。そして妖力を込め、どこまでも響くような乾いた音で、両手のひらを勢いよく合わせた。

 それは大きい爆竹が炸裂したかのような音と、妖力を込められた〝ぶるり〟と身震いする波動を撒き散らす。


 妖気と音の波動を受け、呆然としていた観客(?)たちは覚醒する。

 全員例外なく「うっぉ!?」と、マヌケな声で身震い一つし現実に戻り、倒されたエッジ・エッジドラゴンをもう一度みるが。


「え、ナガレ? ……やっぱり……え?」

「お嬢様、お気をたしかに。間違いなくあの男の仕業です。ありえませんが」

「ナガレお前というやつは、どこまで驚かせる。どうやったらああなる」


 セリア・ルーセント・エルヴィスの三人が話しはじめた事で、村人や騎士たちまで騒ぎ出す。

 そんな状況を見かねて、美琴もまた苦笑いするが……。


「「「さすがセリア様の認めた男!!」」」

「村長! 俺たちは助かった、そうですよね!!」

「ああそうだ。お前の言う通り、たすかった! あの冒険者によって……いや、あの剣。そうだあの剣が!!」

「剣? そ、そうだあの剣に女神様が吸い込まれて!!」

「そうだ! 冒険者も凄いが、あの女神様の剣があればこそッ」


 そんな状況を見た美琴は、幽霊なのにタラリと冷や汗を落とす。

 このままではまた良くない誤解が始まると、勢いよく飛びだす。それを見た流は「あ、馬鹿」と言うがもう遅い。


「おおおおおお!! 女神様が! 女神様が降臨されたぞおおおお!!」

「みなの者!! 分かっておるな!?」

「「「はい、村長!!」」」

「皆さん、落ち着いてください。エッジ・エッジドラゴンを討伐したのは、私じゃなくてナガ――」

「「「オバ女神様ありがとうごぜぇますだあああああ!!」」」

「だから、それ、ちっがーうよね? ねぇ、聞いてます皆さん??」

「「「ありがたやああああ!!」」」


 涙目の美琴は背後を振り返る。すると流とLはひざまずき、ワン太郎はフセの体勢で。


「「「オバ女神様ぁぁぁぁ!!」」」

「もぅいいです……泣けるッ」


 そんな様子を呆れるように見ながらも、セリアはクスクスと笑いながら美琴のそばへと来る。


「まったく酷い人たちね。ふふ」

「貴女もですけどね? もぅ……」

「ごめんね、それにしても凄い威力だったね」

「ええ、流様の業。そして私の宿る悲恋の力。それが合わさると、ああなるんだよ」


 セリアは「そう」と呟くと、騎士と村人に囲まれ、モミクチャにされている流を見て微笑むのだった。


「ぐぇぇ。た、助けてくれ美琴、セリア!!」

「「しりません、自業自得です」」

「それはそうと、これからどうするの?」


 いつの間にか、氷の彫像と入れ違いに出てきた流にセリアは問う。

 どうやらワン太郎がいい仕事をしたらしく、微妙に動いているのが不気味だ。


「ふぅ助かった。そうだな……まず村人だけを、アイヅァルムへ向かわせるのは危険だな」

「そうね、途中魔物も出るしね。なら護衛とアレを運ぶのに、私の騎士達をつけようかな」

「そうしてくれるか? 助かる。それとジャバへアレを見せれるのもいいな」


 セリアと流はアレと呼ぶ視線の先に転がる、ドラゴンの死体を見る。

 その後村人をまとめ、騎士たちに指示をセリアが出すと、村にある馬車に死体を詰め込む。

 村人も脱出の準備ができ、馬や馬車に詰め込めるだけ荷物を積む。どうやら見張りの兵たちに略奪されたり、燃やされたりしたせいで元の荷物が少ない。

 そのこともあり、短時間で脱出の用意が出来た。


「セリア様、どうかご無事で!」

「ええ、副長も頼むわね。それに私にはルーセントがいるから心配しないで」

「ハッ! 隊長、セリア様をお願いします!」

「だれにモノを言っとる? ワシに任せておけ。それより道中気をつけてな」

「はい、では準備が整ったものから俺の後に続いてくれ!! マックントッシュ村長は最後尾のグループで脱落者がいないか確認を」

「はい、分かりました。オバ女神様、セリア様。そしてナガレ様、本当にありがとうございました。このご恩は死ぬまで忘れません!!」

「副長の言うことをよく聞いてね? それと父上にこれを」


 セリアは待っている間に父へしたためた手紙を、マックントッシュへと渡す。

 それを涙をながしながら受け取ると、村人全員でお礼を言って去っていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ