338:別れは感謝とともに
あまりにも静まり返っている広場に、流はどうしたものかと考える。そこにワン太郎が短い足で〝ぽむぽむ〟歩いてくると、呆れたように話す。
「あるじぃ~。もう少し苦戦なりこう、『戦った』ってのを演出しないと、何が起きたか分からないワン」
「くッ!? そ、それはエンターティナーとしてどうなんだ、俺!!」
『二人とも、遊びじゃないんですからね。ほら、それよりどうするの、コレ?』
「う~ん……あ、そうだ!」
流は一瞬、妖人になる。そして妖力を込め、どこまでも響くような乾いた音で、両手のひらを勢いよく合わせた。
それは大きい爆竹が炸裂したかのような音と、妖力を込められた〝ぶるり〟と身震いする波動を撒き散らす。
妖気と音の波動を受け、呆然としていた観客(?)たちは覚醒する。
全員例外なく「うっぉ!?」と、マヌケな声で身震い一つし現実に戻り、倒されたエッジ・エッジドラゴンをもう一度みるが。
「え、ナガレ? ……やっぱり……え?」
「お嬢様、お気をたしかに。間違いなくあの男の仕業です。ありえませんが」
「ナガレお前というやつは、どこまで驚かせる。どうやったらああなる」
セリア・ルーセント・エルヴィスの三人が話しはじめた事で、村人や騎士たちまで騒ぎ出す。
そんな状況を見かねて、美琴もまた苦笑いするが……。
「「「さすがセリア様の認めた男!!」」」
「村長! 俺たちは助かった、そうですよね!!」
「ああそうだ。お前の言う通り、たすかった! あの冒険者によって……いや、あの剣。そうだあの剣が!!」
「剣? そ、そうだあの剣に女神様が吸い込まれて!!」
「そうだ! 冒険者も凄いが、あの女神様の剣があればこそッ」
そんな状況を見た美琴は、幽霊なのにタラリと冷や汗を落とす。
このままではまた良くない誤解が始まると、勢いよく飛びだす。それを見た流は「あ、馬鹿」と言うがもう遅い。
「おおおおおお!! 女神様が! 女神様が降臨されたぞおおおお!!」
「みなの者!! 分かっておるな!?」
「「「はい、村長!!」」」
「皆さん、落ち着いてください。エッジ・エッジドラゴンを討伐したのは、私じゃなくてナガ――」
「「「オバ女神様ありがとうごぜぇますだあああああ!!」」」
「だから、それ、ちっがーうよね? ねぇ、聞いてます皆さん??」
「「「ありがたやああああ!!」」」
涙目の美琴は背後を振り返る。すると流とLはひざまずき、ワン太郎はフセの体勢で。
「「「オバ女神様ぁぁぁぁ!!」」」
「もぅいいです……泣けるッ」
そんな様子を呆れるように見ながらも、セリアはクスクスと笑いながら美琴のそばへと来る。
「まったく酷い人たちね。ふふ」
「貴女もですけどね? もぅ……」
「ごめんね、それにしても凄い威力だったね」
「ええ、流様の業。そして私の宿る悲恋の力。それが合わさると、ああなるんだよ」
セリアは「そう」と呟くと、騎士と村人に囲まれ、モミクチャにされている流を見て微笑むのだった。
「ぐぇぇ。た、助けてくれ美琴、セリア!!」
「「しりません、自業自得です」」
「それはそうと、これからどうするの?」
いつの間にか、氷の彫像と入れ違いに出てきた流にセリアは問う。
どうやらワン太郎がいい仕事をしたらしく、微妙に動いているのが不気味だ。
「ふぅ助かった。そうだな……まず村人だけを、アイヅァルムへ向かわせるのは危険だな」
「そうね、途中魔物も出るしね。なら護衛とアレを運ぶのに、私の騎士達をつけようかな」
「そうしてくれるか? 助かる。それとジャバへアレを見せれるのもいいな」
セリアと流はアレと呼ぶ視線の先に転がる、ドラゴンの死体を見る。
その後村人をまとめ、騎士たちに指示をセリアが出すと、村にある馬車に死体を詰め込む。
村人も脱出の準備ができ、馬や馬車に詰め込めるだけ荷物を積む。どうやら見張りの兵たちに略奪されたり、燃やされたりしたせいで元の荷物が少ない。
そのこともあり、短時間で脱出の用意が出来た。
「セリア様、どうかご無事で!」
「ええ、副長も頼むわね。それに私にはルーセントがいるから心配しないで」
「ハッ! 隊長、セリア様をお願いします!」
「だれにモノを言っとる? ワシに任せておけ。それより道中気をつけてな」
「はい、では準備が整ったものから俺の後に続いてくれ!! マックントッシュ村長は最後尾のグループで脱落者がいないか確認を」
「はい、分かりました。オバ女神様、セリア様。そしてナガレ様、本当にありがとうございました。このご恩は死ぬまで忘れません!!」
「副長の言うことをよく聞いてね? それと父上にこれを」
セリアは待っている間に父へしたためた手紙を、マックントッシュへと渡す。
それを涙をながしながら受け取ると、村人全員でお礼を言って去っていくのだった。




