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335:キース&マックントッシュ

 流たちが窪地を出てしばらくすぎた頃、窪地の方から狂ったような猛獣の声が聞こえる。

 やがてそれは怒りの咆哮へと、変わるのが空気で伝わってくるが。


「お~お~お怒りだねぇ~」

「ちょっとナガレ、一体何がいるっていうのよ?」

「そうだぞナガレ。私は正直恐ろしい……」

「見極めるんだろエルヴィス? なら俺を信じて付いて来いよ」


 そう流は実に悪い笑顔で、エルヴィスに話す。

 エルヴィスも「わかった」と青い顔でそれに応え、震える体にムチを打ち村へと進む。

 ほどなくして狩猟村へたどり着く一行。そして流はここまで来る間に、エルヴィスに一つの策を授ける。それは――。


「た、助けてくれええええええええ!! 今そこでバケモノに襲われたんだ!! もうすぐココへと来る!!」

「ッ!? オマエはたまに来る商隊長の男か! 一体何が来ると言うんだ?」

「何じゃ無い! いいか、来るのはドラゴンだ!!」


 門番の男は絶句する。その言葉はこの狩猟村の壊滅を意味しており、良くて再起が難しいほどのダメージを負うだろうからだ。

 その情報はすぐに村中へと伝播し、やがて村長たる警備隊長がやってきた。


「オマエはエルヴィス。一体どういう事だ?」

「ああ、キース村長。大変なんだ、ここに来る途中いきなりドラゴンに襲われた。多分この食料の匂いを嗅ぎつけたのだろう」

「それは本当か?」

「間違いない、ここへの物資を積んで来たんだ。ほら馬の上を見てくれ」


 キースと呼ばれた中肉中背の、顔がいやらしい中年の男は馬の背を見る。確かにそこには食料が積まれているようであり、干し肉の香ばしい香りもしていた。

 いつもならそれを歓迎するのだが、今回の騒動を引き起こしたと思うと苦々しくそれを見る。

 キースは「チッ」と一言吐き捨てると、部下へと即座に指示を出す。


「おい! 今すぐ得物どもを連れてこい! それと斥候魔法師もだ!!」

「分かりました! 何人ほどで?」

「馬鹿野郎聞いてなかったのか? ドラゴンだぞ、全員連れてきてそこへ並ばせておけ!! その間に俺たちは脱出する!!」

「わ、分かりました!!」

「おいエルヴィス、キサマとんでもないヤツを引き入れてくれたなぁ……だがキサマには借りもある。キサマらも得物どもが食われている間に逃げると良い」

「それはありがたい。ではそうさせてもらいますよ。おい、荷物はそこの家の影に放置し、私達も逃げる準備を!!」


 その言葉を聞いたキースは、エルヴィスの荷物から干し肉を。隣にいた流の荷物からは、ぶら下がっていた金の入った袋を両手いっぱいに引き出すと、そのまま脱出の指揮を取り始める。

 どうやら斥候魔法でドラゴンの存在を確認したらしく、その動きは迷いがなく、機敏だった。

 セリアも驚くほどの統率力で、キースはあっという間に泥舟である狩猟村から脱出の支度を完了させてしまう。

 実は有能な男なんじゃないかとセリアは思うが、次の瞬間その思いも霧散する。


「よし、全員ヒモでくくりつけてあるな? そのまま家の外壁に巻きつけておけ!! それが完了次第脱出する!!」

「ハッ!!」


 得物と呼ばれた村人、総勢二百名はいるだろうか。その老若男女が殴られ、蹴られ、棒で打たれながら連れられてくる。

 もともとこの村人であっただろう彼らは、自分たちがどういう状況かを知り涙する。


「うぅ……こんな最後なんてあんまりだ……」

「お願いします、この子だけは助けてください!!」

「怖いよ母さん! ぼくたちどうなるの!?」

「わしはいい。だが若いものたちだけはなんとか……」

「もうおしまいだ。あんな領主になっちまったばかりにッ! クコロー様どうかお助けください!!」



 村人たちは、最後の時をさとる。兵士から聞いた、もうすぐ来るであろう死を知ったのだから。

 やがて村人は家の壁に数珠つなぎに巻かれると、キースはエルヴィスへと言い放つ。


「では俺たちは行く! エルヴィス、世話になったがこれでチャラにしてもらうぞ?」

「ええ、私たちも命あっての物種。キースさんのご厚意に感謝を」

「フン、ではな。オイ出立だ!! イラルダへ撤退する、俺に続け!!」

「「「ハッ!!」」」


 後ろも振り返らず、全力で狩猟村から逃げ出す兵士たち。その後ろ姿を見る流は右手を大きく振る。


「おたっしゃでぇ~。まぁもうすぐ絶望がやって来るだろうが、な」

『もぅ、趣味が悪いですよ流様』

「知らんよ、盗んでいったのはキースとか言うやつだからな。さて、邪魔者はいなくなった事だし……ヤルカ」


 流は嵐影から降り、おもむろに美琴を抜刀すると村人へと迫る。

 その様子に村人は恐怖を感じ、子供は泣き出してしまう。

 迫る流。その足音は自分たちの最後が迫る死神の足音のように、村人たちには聞こえた。

 流は目の前の男に斬りかかる。男は「ぎゃあああ」と悲鳴をあげ、もうおしまいだと思った次の瞬間、流は消え失せたかのように高速で動き、次々とロープを斬り落とす。


「ぎゃああああれ? 斬られて……いない?」

「ひぃッ!? っれ? 痛くない?」

「うわああああん、こっちに来るなあああ!! あれぇ? ぼく……たすかったの?」


 最初に流に斬られた男が悲鳴から一転、自分のロープが〝ぱさり〟と落ちるのを、現実感のないように見つめる。

 他の村人たちも同じようにそれを見ると、何が起きているのか理解できないようであった。


「ま、こんなもんだろ。ほらお前達、ぼーっとしてないでこっちへ来いよ」

「え……あ、あの……これは一体?」

「あんたは?」

「俺はここの本当の村長をしてる、マックントッシュと言います」

「そうか、俺は古廻流。探――」

『偵じゃないですよね? まったく』


 そうかぶせるように美琴は言うと、悲恋から抜け出し嵐影の荷から一つの菓子を取り出すと、子供へと向けて歩き出す。

 まだ呆然としながらも、涙で濡れた少年のほほを袖で拭う美琴。

 腰を折り、少年の目線まで顔をちかづけると、にこりと微笑む。


「ごめんね、驚かせてちゃって。もう大丈夫だよ、はいこれ食べて元気だして、ね?」

「えっと、おねえちゃん……ありがとう……」

「うん、男の子は元気じゃないとね!」


 その様子を見て、村人たちは初めて自分たちが助かったのだと、心から安堵するのであった。

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