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323:えるちゃん、がんばる

 流たちはアイヅァルムの北門から急ぎ出る。

 隊列は徐々に速度を上げ走ること一時間を過ぎた頃には、全体の動きもまとまりつつあった。

 先頭は流をはじめ、セリア・ルーセント・エルヴィスがおり、Lは流の左側に付き従う。


「それでエルヴィス。見せたい場所ってどこだよ?」

「そうだな……それを説明する前に、次の町についてからにしようか。お前はトエトリーから来たんだよな。なら驚くだろうが」

「次の街? その感じだと規模が小さいから町か。そんなに違うのか?」


 その質問にセリアが馬を急がせ、流の隣にくると説明をする。


「あの町はね、元々はうちの領地だったんだよ。でも王宮から難癖を付けられて召し上げられてしまってね。今では過去の栄華が嘘のように……死んでいるわ」

「死んでいる? そらどう言う意味だよ」

「言葉のままよ。新しい領主による圧政と増税からくる貧困。そして魔核と魔具の摂取による生活環境の悪化による命の危機。さらに領兵による恐喝・暴行・強姦・殺人と、盗賊が兵士をやってるようなものになったわ」


 その言葉に流は絶句する。まるであの凶賊である、殺盗団が復活したのではないかと錯覚するほどに。


「そ、そんな事が許されていいのかよ!?」

「許すも許さないも、領主の采配一つ。それがこの国の法であり、自治権なのよ」

「なんなんだよ、どうかしているぞこの国は……」

「セリア様の言う通りだ。だからこそ、私が言った意味が分かってくれたと思う」

「国が腐っている、か」

「あぁ、そして……」


 エルヴィスは言いよどむ。ちょうど次の町「アルザム」が見えてきたからだが。


(ここを見てどう判断するか……ナガレ、お前の本心を見せてくれ)


 そう内心エルヴィスは思う。流の横顔を見つつ、彼が次の町への思いに少し浮かれているを感じ、少し心配するのだった。


「規模はアイヅァルムよりかなり小さいな。防御壁の高さもそれほどでも無いようだし」

「ええ、町の規模と人口はアイヅァルムの三割ほどね。人口は今はもっと少なくなっているとは思うけどね」

「そうか……ん? 騎兵が出てきたぞ? ワン太郎、装備と様子が分かるか?」

「ん~っとねぇ、あぁ。こっちを攻撃する気だワンよ。魔法師が詠唱を始めているワン」


 それを聞いたセリアは焦る。この距離でそんなモノを放たれたら死人がでてもおかしくないのだから。


「ナガレ、かなりマズイわ……楽観的に見て脅しの魔法。悪くてアロー系の魔法で串刺し。最悪、範囲で仲良くこんがり焼きあがって、彼らのディナーになるかしらね?」

「美人のおまえならそれもいいのかも知れんが、俺を食べても美味しくないぞ?」

「もぅ、ヘンタイみたいな事言わないでよ。(ちょっぴり嬉しいけど……)」

「ん? 最後何か言ったか?」

「べつに。それでどうするのかしら?」

「そうねぇ……なら本物のHENTAIにお願いしようじゃないの、なぁL?」


 ぽけ~っと流の横顔を眺めていたLは、主のオーダーにだらしのない顔を引き締める。


「はぇ!? マイ・マスターの仰せ、このLめにお任せあれ」


 そうLは言うと、体を震わせて自分を抱く。その様子に一同はドン引きであるが、本人はそれすら楽しんでいるようすだった。

 ほどなくして、アルザムの領兵が魔法師を護衛しながら、三十メートルほど手前で停止する。

 どうやら魔法師を中心にして陣をしき、いつでも攻撃出来るようにしているらしい。


「アルザム子爵の手のものか? 私はクコロー・フォン・セリア! アルザムへは補給と休憩の目的で立ち寄らせてほしい!」

「……セリア? あぁ、あのジャジャ馬女かよ」


 領兵を率いる隊長がそう言うと、全員が笑い出す。その不愉快な時間が数分続いた後、やっと隊長が口を開く。


「ハッハッハようこそ、アルザムへ。ただお前がセリアとの確証がない。よって、力で押し通れればよいのではないかな?」

「「「ハハハハハ」」」

「下品な連中ね……うちが統治してた頃だったら、迷わずクビね」

「チッ、女だと思って優しくしてれば、なめやがって……オイ」


隊長の言葉で領兵が割れると、魔法師がすでに詠唱を完了してたようだ。

あの馬鹿笑いは、この時間を稼ぐためのものであったのかと推測するセリアは、意外とこの男は抜け目がないのだと感心する。


「じゃあ、動けなくらいにはさせてもらいますがね? 放てえええ!!」

「困ったわね……ナガレ?」

「大丈夫だろ、ほれ」


 流が嵐影の上で片足をあぐらのように組みながら、あごで前方をしゃくる。

 するといつの間にか先頭にLがおり、白い槍を片手に立っていた。

 敵魔法師が放つ呪文は雷系統らしく、ビリビリと絡みつく光が魔法師の両手に集まりだすと、正面に魔法陣が浮き上がり、そこに魔法師が両手を突っ込む。


「束縛の雷錠≪ジ・リフィス≫」


 魔法陣より半円状に広がる光の網。それはまるで漁師が水面へと網を投げるように、高さ十メートル、幅二十メートルほどの広さに一気に広がると、流たちへ向けて襲ってくる。


「くだらない……龍人戦技・雷装」


 Lは白い槍、白竜の咆哮を地面に突き刺すと両手に魔力を込める。一気に両手両足に青色の光がスパークし、Lは表情も変えずに敵部隊へと突っ込む。

 その異常な速さで迫るLに、まったくついていけない敵部隊。気がつけばLは魔法師の目の前におり、その腹を蹴り上げて吹っ飛んだ事で状況を理解する。


「な、なな何んなんだ!?」

「魔法師が気絶すれば、途中で魔法も大抵は止まる。なら当然こうするでしょう? ばぁ~かねぇ」


 Lはそう言うと隊長以外の領兵を、いとも容易(たやす)く沈黙させるのだった。

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