317:極武級
ドズルの言葉に処刑をひやかし気味に来ていた見物人は、観客となりその激レアな場所にいる事に感動し、体を震わせ沸き立つ。
民衆は先程までの流への負の感情は一切感じられず、それを呆れ顔で見ているルーセントも、その熱に呑まれ熱い視線を流へと向ける。
「ではお二人、準備はよろしいかな?」
「あはん♪ いいわよ~ん」
「問題ない、始めよう」
「ではナガレさん、私の前に来てください」
流はドズルの言葉に少し戸惑いながらも、その前に進み出る。それを半包囲するように、ドズルを中心に左右にジェニファーとヴァルファルドがおり、ニヤリと口角をあげている。
配置が整ったのを確認したドズルは小箱を左手に持ち、右手の平を流へと向けると儀式を始める。
その様子は冒険者ギルドの職員とは思えず、まるで神職が神への誓いをたてる仕草のようなものか。
神々しさすら感じるその様子に、観客たちや駐屯所から出来ていた兵士たちまで静まりかえる。そしてドズルが静かに口を開く。
「冒険者ギルドの最高の『称号』を汝、コマワリ・ナガレへと下賜するものなり。我はドズル。冒険神・ヤミルの代理とし、これを承認する」
ドズルがそう宣言すると右手が光りを放つ。すると流の足元に魔法陣が出現し、幾何学模様のような文字がせわしなく動く。
「コマワリ・ナガレが極武級の『極』を体現する事をここに認め、極武級のジェニファーの名において、これを承認するわん」
「コマワリ・ナガレが極武級の『武』を体現する事をここに認め、極武級のヴァルファルドの名において、これを承認しよう」
ジェニファーとヴァルファルドが、ドズルと同じように右掌を流へと向け、右手を白く光らせながら宣言する。
その瞬間、流の腰のあたりと頭の上に魔法陣が出現し、薄くも青い円柱状の光に包まれた。
「「「これをもって、コマワリ・ナガレの極武級の昇格を全ギルドの総意と認め、『極武の証』をその体へ与える」」」
三人が声を揃えて総宣言すると、三重魔法陣が光をより一層激しくさせ、文字の動きもますます加速する。
それが限界に達した瞬間、魔法陣が天へと抜けるように消え去り、その中に流が呆然と立っていた。
だがその頭上には魔力で出来た旗がはためき、その旗に『極武』の文字が踊っていた。
それを見た民衆は火が付いた花火のように、一気に沸き立つ。
誰かが大声で「ナガレ!!」と叫ぶと、それがあちこちから聞こえだし、最後はナガレコールとなる。
セリアは両の手を前に組み、その様子をうっとりと見つめる。
Lは両の手で自分を抱きしめ、実にだらしのない顔で見つめる。ついでに、よだれも少し垂れて見た目が実にやばい。
「え……ええと?」
「あらためてお祝いを。冒険者の最高峰の称号と栄誉の獲得、本当におめでとうございます」
「そうよんナガレ。これで名実ともに、冒険者として最強よん♪」
「うむ、これで俺たちは肩を並べた存在となった。が、今のお前はそれ以上……だろ、ナガレ?」
ドズルはその言葉に真剣な眼差しで流を見つめる。そのあまりにも人間離れした姿と言うより、その内面からくる恐怖心を隠しながら。
ジェニファーとヴァルファルドは、そんなドズルの気持ちを代弁するように、先の言葉で流を祝いつつも見極める。
「あぁ。見た目はこんなになっちまったが、これが修行の成果だよ。強者には無条件で恐怖を与えてしまうようだが、俺はいつも人の味方だし、これからもそうありたいと願っている」
「あはん♪ その言葉、ミーは信じるわん」
「俺もだ。ナガレはナガレのままだ」
「……私はナガレさんと会ったのは初めてですが、この二人はよく知っています。その二人が言うのですから、私も当然あなたを信じましょう」
流はありがとうと言うと、拙い魔力を使い旗を大きく振ってみせる。
それは魔力を初めて使用したのだが、なぜかすんなり使えてしまった。より正確に言うと、「使い方が分かっていた」かのような自然さで使えた。
これに不自然さを感じながらも、今はこの降って湧いたような話を素直によろこび、民衆にへと陽気に手をふる。
『流様……やはりあなたは……』
「女幽霊も気がついていたのかワン? あるじは確実に……異常だワン」
観客へと陽気に踊りながら手をふる流を眺めつつ、ワン太郎は床に突き刺さる悲恋美琴の側に寄り添うように、美琴へと語りかける。
「先のRとLの件……たしかに名付けの儀式の発動条件である、『心根からの完全敗北』は満たしているワン」
『ええ、でも代償が無かった』
「そうだワン。あれだけの存在を従えるなら、それ相応の代償が必要だワン。が」
『それすら無く、あの二人をあそこまで変えた』
「そしてワレも同じだったワン。さらに今『自然に』魔力を使ったワン……」
美琴は思い出す。鬼の夫婦が言っていたことを。
やはり流は全属性を自由に、しかも無意識に引き出せるのではないか。
その反動がいつか来るのでは無いかと、美琴とワン太郎は不安に思うのだった。




