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311:統率者は誰だ?

「言われるまでもなく知っているわよ。私達はその最前線で戦っていた。アナタと違って命がけでね」

「で、ございますれば……」


 イズンはセリアに背を向けると、民衆とギロチン台を左右に置き、民衆へと語りかける。


「諸君!! 聞いてくれまいか? 先のリザードマンが進軍して来たのは皆も知っていると思う。さて、通常リザードマンが、あれだけの規模で襲ってくることはない!! じゃあ誰か統率者がいたのではないかな?」

「そうだ。俺も街へ逃げるときに、奴らが組織だっていた気がしたんだ!!」

「そう言われれば、イズン様の言うことも一理ある」

「大体なぜ、お城の防衛機構が働かなかったんだ? それもあの男の策略?」

「やはりあの男が今回の首謀者か!!」


 イズンの言葉に扇動される民衆。それをイヤラシイ瞳で見るイズンに怒りを感じながらも、セリアは冷静に話し始める。


「まってみんな!! 落ち着いて!! 私達は命がけでその最前線にいたわ! そして見た事を正直に話す。だから聞いて!!」

「そうじゃ、落ち着けみなのもの! セリア様の言うことを聞いてから判断するのじゃ!!」


 老人がそう言うと、民衆も落ち着きを取り戻す。それを苦々しく見つめながらイズンはセリアの言葉を待つ。


「ありがとう、おじいちゃん。じゃあ話すね。あの時私達は決死の覚悟でリザードマン共を駆逐しながら、大規模な商隊の元へと駆けつけた。そしてなんとかそれを防いでいたんだけど、それも限界に達したの。それはリザードマンが組織だって陣を組み始めたから。その原因は……」


 一瞬言いよどむセリア。それを見逃さず、イズンは間髪入れずに口をはさむ。


「それはあれでしょう? そこにいる娘、『龍人』が指揮をとっていたから……ですね?」


 どよめく観衆。それが騒ぎ始める前に、セリアは次の言葉をつなげる。


「そう、龍人が指揮を執っていたのは間違いない。だけどこの子は今アナタが殺そうとしている人物、ナガレの仲間になったわ!! だから危険はない! 私の言葉の真偽、それは一緒にいたアルマーク商会の商人も保証するわ!!」

「聞きましたか民衆のみなさん? セリア様の言う通り、そこの龍人が今回の襲撃の指揮官。それを『仲間』と呼び、配下に収めるこの男こそ、やはり危険な人物!! ならば処刑が妥当でしょう?」


 イズンの煽りに民衆は扇動される。死刑を叫ぶ者がチラホラ現れ、それがいっきに広まりかけた瞬間、またしても入り口に複数の人物が現れ声を張り上げる。


「待ってほしい!! みんな落ち着いてくれ!!」

「あなたはエルヴィス!! 聞いてはいたけど無事で良かった!!」

「ジャ……っと、セリア様もご無事でなによりでした。みんな、私はアルマーク商会会長の長男で、アルマーク・フォン・エルヴィスと言う!! その私が宣言する! セリア様は誓って嘘を言うような人物ではない!!」


 突然現れた男、アルマーク商会の息子と名乗る男に驚く民衆。それもそのはず、その名声はこの国はおろか世界に名を轟かせているのだから。


「おお!! あの方は間違いなくウチと取引がある、アルマーク商会のエルヴィス様だ!!」

「なに? ではやはりセリア様が言うことが正しいのか?」

「だからわしの言う通りじゃろう? セリア様はいつも民衆の味方じゃ!!」


 またしても変わる空気にイズンは頬をヒクつかせながら、つぎの手に出る。


「あぁ~そうでしたね。確かにアナタの言うことには間違いはない……が、それはアナタが逃げた後の事を知らないから言える、『無責任な発言』と言えますねぇ」

「確かに私はセリア様に逃がしてもらった。しかしその行動と言葉に嘘偽りはない!!」

「それではまったくダメ、ダメダメですねぇ。例のモノを投影しなさい」

「ハッ!!」


 イズンは兵士に指示を出す。すると駐屯基地の壁に映し出される魔具の映像。

 それは斥候魔法により記録された、「龍人が指揮する映像」であった。その後イズンにいいように「切り取られた」場面が次々と切り替わり、最後は流が龍人の二人を配下に収める様子が映し出される。

 上からの映像とは言え、それは確かに龍人が流へと跪き、配下に収めたと言える決定的な瞬間だった。

 それを見た民衆は怒り、悲しみ、そして怒号を上げる。


「諸君!! 落ち着きたまへ!! これで分かってくれたと思うが、この男は龍人をあやつり(・・・・)私達の家族や友人知人を殺した……絶対に許されることではない!!」


 怒りが頂点にたっする民衆。それを見たイズンは「自分で考えようとしない」民衆を嘲笑う。

 やがてそれらが静まり出した頃、セリアが静かに語り始める。だが先の見える最後の抵抗とも言える言葉であった。


「何を馬鹿な事を言っているのかしら? いいことイズン。父上がこの人を連れて来いと命令しています。それだけでここから連れ出す十分な理由でなくて?」

「ほぅ……セルガルド様がねぇ。ではその証をここに」


 イズンは「証」が無いことを確信していた。なぜなら、あれば最初に出していただろうからだ。

 そんなイヤラシイ男の考えを理解しつつ、セリアはその言葉に苦虫を噛み締めながら、静かに話す。


「無いわ。アナタも知っているでしょう? 城の混乱を。それに巻き込まれて、伝令が所持していた〝令杖(れいじょう)〟が紛失してしまったわ」

「なんと……城でそんな事態に!!」

「やめなさい、白々しい! アナタの出世の道具にナガレを殺させたりしない」

「では真に残念ですが……形式上、このまま刑の執行をせざるを得ませんね」


 絶対的な証拠、民衆の支持。それを覆せない材料の無さに絶望するセリア。

 せめてセルガルドが見た手紙の内容だけでも分かればと、今更ながらに後悔するのだった。


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