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030:決着!!! デカイ奴

 巨滅兵は右足の代わりに大剣で倒れないように体を支え、攻撃は触手で行って来る。

 その内の一本を斬り飛ばすが、右足の治療に全力を注いでいるからか同じ場所から生え戻るだけで、これ以上の増殖はしなかった。

 

 襲い来る触手をその場で流れるように捌き、そして斬り飛ばしながら、流はそのパターンを見極める。 


(三・二・五・一・四……この順が多い。そしてもうすぐ右足も完治しやがる)


 触手に番号を振り、その行動パターンを数度確認した流は「賭け」に出る。


「切り札は最後まで取っておくのが俺の流儀、使わせてもらうッ!!」


 流はそう言うと、左手で腰のアイテムバッグから「試験管」を取り出す。

 中身は炭酸のように泡立つ、メロンソーダーのような色をした物だった。

 

 襲い来る触手を右手のみで打ち払い、試験管の蓋になっているコルクを口で外し吐き捨てる。

 そしてその時が来た。右足の治療が完了した巨滅兵は、片膝を付いていた体勢から勢い良く立ち上がり、積年の恨みが形を成したかの如く、怒りを大剣のブレイドを「横にして」攻撃してくる。


 つまり斬るのではなく、剣の腹で流れを叩き潰す!

 よほど力を込めたのか大剣は地面にめり込み、片手で引き抜くのに時間がかかりそうだった。


「BIGチャ~ンス!」

 

 ちらりと流は腕時計を一瞥する。


「残り三十八秒、行けるか!?」


 流は試験管を口に銜えると、襲い掛かる大剣を韋駄天ブーストされたバックステップで躱す、そして――。


「なんだー!? 蛮勇者が後方へ飛んだと思ったら、今度は猛烈な勢いで走り出して巨滅兵の大剣を駆け上って行くぞおおお!!!!」


 会場も驚きの声で埋め尽くされる。


 大剣を駆け登る流。そこへ容赦なく襲い掛かる触手群が、流を払わんと攻撃する。

 その苛烈な攻撃は流を確実に捉え、ダメージを与えるかに見えたが、因幡の加護でそれを無視して突き進む!


(三・二・五・一! ここだ!)


 大剣のブレイドを駆け抜け、ガードを超えた所で最後のナンバー『四』が、因幡の加護が消え失せた流へ襲い掛かる。

 これまで先端が丸かった触手だが、当たっても効果が無いと判断した巨滅兵は、『四』の先端を槍のように尖らせた物を流に向かって放つ。 

 直撃寸前、流は巨滅兵の腕を駆け登りながら「間欠穿」を穿つ体勢に入る――が、最後の触手たる『四』が「これまで同様左太腿」に狙いを定め、死の先兵として流の足を貫いた!


 会場にはレフェリーの絶叫が駆け巡り、観客の悲鳴のような歓声と、怒号が巻き起こる。


 流は強烈な衝撃の後、得も言われぬ激痛に意識を失いかける。しかしそこは「覚悟済み」であったために、なんとかギリギリで意識を保ち、美琴で刺さった触手を斬り飛ばす。

 そして銜えた試験管を一気に煽り上げ、「緑色の液体」を体内へ流し込む。すると激痛は消え失せ、体内にあった異物たる触手を押し出すように排除して、傷口はあっと言う間に塞がった。


 流が使用した最後の切り札は『神速回復薬』と言われるものだった。

 効果は言わずもがな、破損した体内細胞と体力の即時回復と、異物排出である。


 ――巨滅兵は金縛りにあったかのように動けなかった。射殺したと思った敵が何故か自分の右肩に乗っているその現実に戦慄した。

 そしてそれは触手で攻撃するよりも確実に敵の方ナガレが早く自分を貫くと分かってしまった。

 巨滅兵の目からは、それが恐怖からなのか、命の最後を悟ったのか、それは分からない。だからなのか巨滅兵と流は刹那が永遠のように見つめ合う。


「よう、約束を果たしに来たぜ? 地獄こきょうへ帰りやがれ!! ジジイ流刺突術! 間欠穿!!」


 韋駄天の効果消失まで残り八秒。


 その脚力と筋力を十分に生かした踏み込みで、間欠穿を昇華させる。そこに美琴の妖力が注ぎ込まれ奥義級の威力となった〝間欠穿〟は、巨滅兵の眉間へ吸い込まれるように消え――。


 ――次の瞬間。


 巨滅兵は拒絶反応が起きたかのように体が真っ二つに分かれ〝バタリ〟と倒れると、断面から血飛沫を盛大に打ち上げ、絶命をしたのだった。



 流は残り二秒を使い巨滅兵が割れる刹那、その体から離脱して闘技場中央に戻る。


 会場はあまりの事に解説者レフェリーすら固まっており、これだけ人が居るのに関わらず奇妙な静寂に包まれていた。

 誰も言葉を発せず、まるで彫像のように固まっている観客達を「覚醒」させるように漢は行動する。


 流はゆっくりと、美琴を天に向かって突き立てる。そして――。


「勝ったぞおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 流が吠えた!! 瞬間、鉄火場に火の付いたコークスをぶち込んだかの如く、一気に会場の熱量が増大し、波紋が広がるように大歓声が巻き起こる。


「な……何と言う事だあああああ!! 蛮勇者が巨滅兵に貫かれたと思ったら、逆に巨滅兵が真っ二つになっていた!? 何を言っているのか分からないが、とにかく魔法とか幻術の類じゃない、もっとヤヴァイ片鱗を見たのは間違いないぞおおおお!?」


 レフェリーが混乱気味に結果をまとめるが、言っている本人もよく分かっていないようだった。そして……。


「とにかくだ! ヤヴァイ漢が今! ここに! 爆誕した瞬間を目撃したのは間違いな~い! 巨滅級の単独討伐、しかもその巨滅級を狩る最上位の巨滅兵を倒した実力は、見紛う事なく巨滅級の称号が授与される!! さ・ら・に・だ!!」


 レフェリーは驚く内容を会場に告知する。


「巨滅兵の単独討伐を加味すれば――そう! 『巨滅級++』の称号を私の権限で贈ろう!!!!」


 その宣言により会場はすでに興奮の坩堝と化していた。そこへ、この男が更に燃料を投下する。


「どうだ、驚いたか紳士淑女ども! そして賭け札が木くずとなり果てた馬鹿野郎共はケツの毛を準備しとけ!」


 さらに――。


「私なんか、今月の給料全部持っていかれたぞ!! どーするんだ、今月大ピーンチ!! ワハハハハハ」


 会場から悲鳴のような怒声と、落胆の声と共に賭け札が観客席の空に舞飛ぶ。

 するとどこかで聞いた声が、レフェリーのマイクが拾う。


「アンタ!! 笑いごとじゃないよ! どういう事だい!?」

「お、お前、帰ったはずじゃ!?」

「こんな面白いもの見てから帰るに決まってるさね、それより今月どーすんだい!?」

「ま、待ってくれ! 話せばわぎゃブヴォッ!!!!」


 それっきりレフェリーは沈黙する。代わりにこれまた聞いたことがある声が会場に響く。


「え、え~っと。当ギルドのサブマスターは、ご家庭の事情で退席しましたニャ」


『『『あいつ、あのサブマスかよ!!!!!?』』』


 思わず流も突っ込む程の衝撃だった、あの神経質そうな男があの解説者レフェリーだなんて信じられない思いだった。


「そんな訳で私、サブマスターの次席たる受付室長のミャレリナが宣言するのニャ! 此度の『公開・巨滅級討伐ぅ~クエスト!』勝者は~!! 『巨滅の英雄』コマワリ・ナガレ様ァァ!! そして、先程サブマスターのリットンハイムよりありましたとおり、ナガレ様には『巨滅級++』の称号が授与されます! 生還と勝利、本当におめでとうございまーーす!!」


『『『『『ウオオオオオオオ!! ナガレ!! ナガレ!! ナガレ!!』』』』』


 会場に巻き起こるナガレコールに合わせ、武器を打ち鳴らす音で会場は最高の盛り上がりを見せる。そこに「あの変態紳士」が、流の元へと歩いて来るのが見える。


「あははん。まずはおめでとう♪ そしてこの歓声が聞こえるかしらボーイ?」

「ああ、なんか凄いな……俺が知っている競技スポーツとは比べ物にならない程の狂える熱気だ」

「これはね、人の本能なのよ。死地から生還した者への無条件な称賛、そして憧れ……大体は純粋な思いからあふれ出て来るわ。だから忘れないで、この『一瞬のために、ミー達冒険者は生きている』ってねん」


 冒険者として人々を救い、その結果賞賛されたらそれは嬉しい事だ。

 流は思う、これは〆が言っていた「素晴らしい人生と義務の遂行を」と言う事柄に相当するのでは? と。


「はぁ~。ここまで心にクルものがあると、また帰れなくなりそうな案件が増えたかもな……」

「……ボーイ?」

「いや、良く分かったよジェニファーちゃん。一気にここまで来たから実感が無いが、冒険者の生き方ってやつは理解したさ」


 そう言うとジェニファーはとてもいい笑顔で笑ったが、見ている流は気色悪さでドン引きだった。

 そんなジェニファーの隣には、黒いフルアーマーの男が流を面白そうに見ている。


「ナガレ、今日は最高のショーを見せてもらったぞ。俺の部下達すらあの動きと剣技は無理だ」

「ありがとよ。で、誰だいおたくは?」

「おっと、これはすまない。俺は今日からここの領主様に雇われた独立遊撃隊の隊長ってやつヨ。名はヴァルファルドって言う。よろしくな、ナガレ」

「そうなのか、こっちこそよろしく頼むよ」


「さあ~ボーイ。ヒーローはそろそろ場を移すべきよん? まずはギルドホールで大宴会と洒落込みましょうか?」

「よし、行くぞナガレ! お前の剣の事も聞きたいしな」

「おいおい勘弁してくれよ。って言うか洒落込むには、ちと役不足な場所だと思うが……」


 ギルドの様子を思い出しながら、流は大声援を背中に受け闘技場を後にした。

読んでいただきまして、本当にありがとうございまっす!

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