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307:身投げ

 昇降魔具を使わず、階段で下層へと降りるセリアたち。その途中は戦闘の後や、負傷者などで溢れており、凄惨な現場をちらほらと見かける。

 現在向かっている場所は、「空中庭園」と呼ばれている場所だ。そこは塔から張り出た平たい部分であり、それがこの塔には数ヶ所ある。

 広さは一つ二十メートルほどであり、木々が生い茂る場所や、水辺。美しい庭園などクコロー家の者が癒やしの場所として使っていた。


「酷いものね……。この下の空中庭園は、確かバラの園だったかしら?」

「ご自分のお庭をお忘れになりますな。あそこはお嬢様専用の場所なのですから」

「だって、興味ないもの。この城嫌いだし。まぁそのお陰で怪しまれずに利用出来るんだけどね」


 セリアは自分の家である城には滅多に帰宅しない。してもセルガルドに呼ばれて仕方なくであり、普段はルーセントの家に厄介になっている。

 だが万が一に備え、自分に与えられた空中庭園に脱出用の魔具を隠してあり、それを使って脱出するつもりだった。


「セリア様お待ちしておりました!!」

「ご苦労さま、状況は?」

「ハ、庭師たちもあの仕掛けには気がついていないようで、問題なく脱出できます」


 それに頷き庭園を進む。少し歩くと庭園の端にある「セリアの像」の前に到着すると、それの右手首を〝グリッ〟と一回転させる。

 するとセリア像の背中から、魔力で出来た光る紐が複数現れ、それを手にセリアは準備する。


「ほら、ルーセントそんな嫌な顔しないの。体に巻きつけて最後に魔力で結びなさいよ」

「そうは言いましてもなぁ……男にはいくつになってもあるんですよ。〝ひゅん〟とする瞬間がのぅ」

「? また意味の分からない事を。さぁ、みなも体に結び準備を。下に付いた順に魔力を断ち、紐を切って次の者に備えよ。始め!」

「「「……は」」」


 死をも(いと)わない屈強の騎士達だが、なぜかこの瞬間だけは皆嫌な顔をする。

 それに不思議に思いながらも、セリアは魔力の紐を腰に結び結束すると、迷わず外へと身を投げる。

 凄まじい風切り音が耳を満たし、高速で変わる風景を楽しみながら、落下するセリア。

 やがて地面が近くなった事で魔力を紐にながし、落ちるスピードを調整し地面に付いた瞬間、魔力の紐を断ち切ると紐は綺麗に消え失せた。


「よし、問題なく使えるわね。次は……ルーセントね」

「ヒィィ~、お嬢様どいてくだされ~!?」

「どいてるから静かに降りて来なさいよ!! まったくもぅ」


 上を見れば、ルーセント達が間隔をあけて次々と降下してくるのが見える。全員一様に顔を真っ青にし、引きつった顔で降下してくる姿に呆れるセリア。

 ルーセントが着地したのを皮切りに、即座にその場を離れ、次々と騎士たちが降りてきた。


「はい、お疲れ様。もぅ、なんであなた達はいつもそんな顔になるのよ……」

「「「男には色々あるのですよ姫……」」」

「そ、そうなのね? うん、深くは聞かないわ。では流への所へ向かうわよ!!」

「「「……ハイ」」」


 ゲッソリとした表情のルーセントを始め、騎士たちと正門前に来ると、そこも封鎖されていた。

 

「セリア様!? 危険ですので中へお戻りを」

「中のほうが大変な状況なのよ。で、こちらは大丈夫?」

「はい、ここは至って平穏ですが……」

「そう、ならいいわ。他の衛兵もみんな頼むわよ?」

「「「ハッ!!」」」


 衛兵たちと少し情報の交換しあい、街中へと入ると徐々に部下たちが集まり始める。

 それらからも情報を収集しつつ、南の駐屯基地へと向かう。


「どう思うルーセント?」

「ですなぁ、町中でも突如おかしくなった獣人の娘が憲兵隊に捕まった」

「そう、それで憲兵がいなくなった隙に乱闘騒ぎ……でも城には関係無いわね」

「そこですな。関係ないのになぜおかしくなったのか? 何やら実利と実験、両方行われた気がしますな」

「私もその考えに同意よ。アルマーク商会……一体何を企んでいるの?」


 そう思うと、先程助けた気骨ある青年の顔が思い浮かぶ。彼は邪な事をする人物に到底思えず、今回の騒動には無関係に思える。

 むしろ自分たちが到着しなかったら、今頃死んでいたかもしれないのだから。


「そういえば助けた商人達は無事だったのかしら?」

「あぁ、それも報告が入ってますな。無事にアイヅァルム内へ逃れたそうですわい」

「なら良かった……。でも困ったわね、私が父上の命令だと言って聞くと思う? あの屁理屈男が?」

「難しいでしょうな……。伝令のヨルムは令杖(れいじょう)を紛失してたようですし」

「そうね、令杖は父上しか作れない。あの魔力切れでは再度作るのは無理でしょうしね」

「となれば、保険にかけるしかありませんかな」

「ええ、間に合えば良いのだけど」


 セリアは遠く南の空を眺めると、ため息を一つ吐くのだった。

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