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029:決闘!! デカイ奴

 ジェニファーには流の行動と業は見えていた、だからこそ思う「それは人の業では無い」と。


「ボーイ、貴方は何と言う……でもその子も巨滅級を狩る者。そう簡単には行くかしらん?」

「凄まじい剣技だったな。そしてアレにはまだ奥の手があったな」

「ヴァルファルド貴方、いつも突然現れるわねん。しつこい男子は嫌われるわよん?」

「……待て、俺は他人の女おまえに手を出す趣味は無い。誤解をするな」

「あら、そうなの? それは少し残念だわん」


 そう言うと二人は流を注視する。


(生命力は依然健在か。弱点判定は……二つ、左腰と左脇腹!)


「殺られる前に殺っちまえってな~」


 流は巨滅兵へ向けて走り出す。目標の左腰へ向けて斬撃を放つ刹那、第六感が警報を鳴らす!


「ッ!? 何だッ――」


 慌てて美琴を地面に突き刺し、車両のように急制動をかける。巨滅兵まで流の間合いがあと半歩と言った所で「ソレ」が起こる。

 

 先に切断した上腕部からは血が噴き出ていたが、その血が生き物のようにうねりだし、鞭のようにしなりながら、流へと向って来た。その長さ、約三メートル。

 流は美琴でガードをするが、美琴へ当たった瞬間そこを起点としてグネリと曲がり、流の左腕に強烈に直撃する。


「グウウ!! クッソ! 何だそれは、チートやチーターだろそんなん!」


 伝説の牙の王様が聞いたら『どの口が言うとんねん!』と、激しく突っ込まれそうな台詞を、流はまだ言えるだけ余裕だった。それは何故か?


 「いきなり助かったぞ因幡、お前のモフモフで体をコーティングしてなかったら今頃骨折してても不思議じゃなかった……」


 今回、酔狂な神々が解放した異世界へ持って行けるもの。

 その三つの内の一つが、〆が念入りに流へ四阿温泉郷で施した「因幡の白兎の加護」であった。

 効果は「ダメージの吸収」で耐久回数は五回だが、プとの戦闘からある程度予測した〆が、巨滅級程度の攻撃力ならば大抵の攻撃は吸収すると確信した優れものだった。


「やってくれたな巨滅兵。しかしこの世界の強敵は腕が生えるのがデフォなのか?」


 巨滅兵は鞭のようになった左腕をしならせ、流に向かって振り回す。変幻自在で襲い掛かる左腕は柔らかいが、当たれば大怪我間違いなしの威力だった。

 

「剣より使い勝手良いからって舐めるな巨滅兵! 三連斬!」


 流は襲い掛かる触手のような左手を細切れにする――が、次の瞬間再生して二本になった。


「噂には聞いていたがァァまさかの増殖かー!? 蛮勇者、大~ピ・ン・チの予感がしてまいりました! そして私の財布も膨らむ予感が増大です!」


「あのクソレフェリー、巨滅兵に賭けてるのかよ。って言うか増えるのかよ! オイオイオイ! 冗談は存在だけにしてくれよな、どうするよコレ……巨滅兵作ったやつ絶対、紅白の傘がロゴの会社だろ」


 巨滅兵は触手の自在さを生かし、頭上から左腕が襲い掛かると同時に、大剣が横からも迫る。

 それをギリギリ払いのけながら、後ろへと逃れ一端距離を取る。


「またこのパターンかよ! クソ、次の札を切らせてもらう」

 流はそう言うと、美琴を峰より口にくわえてしゃがみ込み、靴の紐に両手を添えて宣言する。


韋駄天、発動いだてぃんはつろう!!」


 何とも締まらない宣言だが、〆が見たら「何をしているのですか、念じるだけで発動しますよ?」と突っ込まれそうだが、言わないと気が住まい。だって男の子だもの!


 直後、靴紐が青く光りだす。

 

 宣言を待っていたかのように、巨滅兵が流へ向かって大剣を真っ直ぐに振り下ろす。

 

 観察眼で冷静に観察すると、幅は五十センチ、厚さは五センチ、長さは三メートル程で、最早鈍器と言っても良い重厚さを持っていた。


 その鈍器のような大剣を、流は美琴を器用に当て受け流し地面へめり込ませた。そこへ触手が追い打ちをかけるように右から襲い掛かる。

 タイミング的に完璧に捉えたはずだった……が、流はすでに触手へ向き直っており、その触手を切り刻みながら強烈に押し進む、そして――。


 「ジジイ流薙払ていふつ術! 巨木斬きょぼくざん!!」


 半円に弧を描く銀の斬撃が、切り刻まれた触手を尚駆け登り、巨滅兵の左肩付け根から斬り落とす。

 流石に触手が生えた状態では肩から斬り落とすのは不可能だと思われたが、切り刻みながら進むスピードが今までとは違ってた。


 韋駄天の発動――その効果は「韋駄天狗の髭」から作った靴紐で、脚力と足の筋力を八分限定で二倍に押し上げる効果がある。


 本来は祖父直伝の巨木をも一刀のもとに薙倒す荒業だったが、その足腰の強い押しと、押し込む速度が「肩の切り落とし」を可能にし、美琴の力が加わった事で奥義級にまで昇華していた。


「キ・タ・ゾーー!! またまたやってくれた蛮勇者! あの巨滅兵の片腕を肩からぶった斬ったああああああ」 

 

 沸き上る観客席、それを煽る解説兼・レフェリーの男が更に会場を沸かせる。


 「くぁぁ、反動がキッツイわ! 美琴と業、そしてこの脚力でここまで昇華するのかよッ」


 すぐに斬りかかりたかったが、体がしばしの休息を欲している。

 巨滅兵は肩から失った事で呻き声を上げる。が、最初程ではなく寧ろ力を溜め込んでいるようだった。


「まぁ~そうなりますわな……」


 巨滅兵の肩の付け根から触手が五本生えてきており、それが巨滅兵と同等の長さにまで成長する。しかし――。


「で、狙い通りって訳ね。でもあれじゃあまり意味が無い……のか?」


 流はプ戦で失敗した経験から、常に相手の「生命力」を確認するようにしていた。そして今回、巨滅兵の生命力は二度の再生により著しい低下をしていたが、弱点の位置が変わっていた。

 

 最初に腕を切り落とし、その後腰回りに集中していた弱点は、現在巨滅兵の眉間になっている。


「あれは届かないわな。クソ、もっと真面目に剣の修行をしとけば良かったか? ジジイ、ちょっとだけ見直したぞ。微妙にな」


 まさか現代日本において、異世界で命を賭けて戦うなんて思うはずも無く、逆にこれまで祖父の理不尽さに怒りこそすれ、感謝などした事が無かったが、ここに来て「パエドフリン・アマウンシス」程度の大きさで感謝をする。


 完治したのか巨滅兵はゆっくりと動き出し、流へ迫って来る。


「巨滅兵先輩余裕ッスね。残り……四分か」

 

 戦闘用に腕時計をしていたものから時間を確認し、韋駄天の残り時間が四分を切り始めた事で、更に気を引き締める。


因幡の白兎の加護もふもふがーども後四回、韋駄天の効果も残り僅かで弱点は届かない。ならやる事は一つ!)


「届かねえなら届くまで斬り伏せればいいだけだろッ!! 美琴、ちょっと待っててくれよーー!!」


 流は韋駄天の助力で更に後ろへ飛びながら、美琴を途中の地面に突き刺す。

 そしてクラウチングスタート擬きのような体勢から爆走するッ!!


 正当な古流派がこの行為を見たら「馬鹿め!!」と言える剣の放置。しかし流は「名を捨てて実を取る」漢であり、勝つ為なら剣士にあるまじき行為も平気で行うリアリストであった。

 その流が取った行動は、未熟な我が身では美琴を持ちながら爆走するにはバランスが悪い。つまり――。


「このトップスピードでーーー! 美琴ッ待たせた!!!!」


 流は最高に速度が乗った所で美琴を回収し、そのまま巨滅兵へと滑り込むように右太もも目掛けて一閃!


 巨滅兵も流のあまりのスピードに触手と剣のガードが間に合わず、容易く懐へ入られてしまい太ももの大腿四頭筋を斬り割く。

 流石に弱点じゃないからか、斬り落とす事は無理だった。しかしそれでも十分なダメージがあるらしく、巨滅兵は右膝から崩れ落ちる。


 「つあ~何だ~?? 蛮勇者がとんでもない速さで走って来たと思ったら、巨滅兵が地に片膝をついてー。ん!? ッアアアア~! しかも大ダメージを右足に負ったあああ!! 巨滅兵大ピンチ! ついでに私の財布も大ピンチだあああ!!」


 歓声と怒声が入り混じるカオスな声援が会場を満たしきる頃、流は次の行動に出た。


「あわよくば切り落とせるかと思ったが、やっぱり無理だったかッ! あれだけの速度を乗せた渾身の一撃だっつーのに。が、こっからが勝負! 結局最後は俺の女神様みこと頼りか。手帳の小言確定だが……頼むぜ~あの長い触手を見極めろッ!!」


 そう覚悟を決めると、流は〝アツイハート〟と〝コールドヘッド〟で「鑑定眼」を発動させた。



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