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294:HENTAIの矜持

「キサマ!! 殿下に何をする!?」

「いいから黙って見ていろ、悪いようにはしない。で、向日葵なにか分かったか?」

「あ~このHENTAIさんはダメですねぇ。大殿のせいで真性のHENTAIになっています」

「はぁ? なんで俺のせいなんだよ」

「いいですか? あの時この龍人たちを操っていた、寄生虫みたいなの。あれ、邪法です」

「向日葵ちゃん……それって」

「はい姫様。アルマーク商会の手のものでしょうね。それがどういう経路かは不明ですが、彼らの角の中に『寄人操脳(きじんそうのう)』を埋め込んだようです。だからあの邪法特有のイヤラシイ術式の痕跡があります。ほら――」


 向日葵はレッドの折れた角の断面に扇子を、なでるように這わす。

 すると、断面に「滅・印・操・忘・魂」の五つの文字が浮かび、それらが逆五芒星に輝く。


「つまりコイツらは、邪法で操られていたということか……。まて、そこまでは分かる。が、どうして俺のせいなんだよ?」

「それは簡単ですよ大殿様。あれは通常摘出が大変困難です。なぜなら、脳細胞にまで密接に絡んでいますからね。昔はそういうのが分からず、と~っても苦労しましたよホント。科学バンザイ」

「まさか……それを俺が断ち切ったからか?」

「そうです。えっと、そこのヒゲ面のおやじ、ええアナタです」


 エルギスは突如指さされて「え? ワシ?」と一瞬困惑するが、その呼び声に応じる。


「龍人は脳細胞の治療は可能ですか?」

「脳細胞と言う意味がまずわからん。だが脳というのは頭に入っているアレだろう?」

「ええそうです。治療が可能なら、元に戻せる事も可能かと思いますが……まぁそうでしょうね。魔法とやらでも無理でしょう」

「ちょ、ちょっと待て!? じゃあ何か? この男が殿下と我が娘をおかしくしたと言うのか!?」

「ええそうですよ。大殿様が全ての元凶です! バーン!!」


 向日葵は効果音を口で言い放ち、腰に手を添えて扇子で流を指す。

 たこ焼きパジャマからのぞく生足が妙に場違い感を演出しているが、本人はまったく気にしていない。


「なんだと!? フ、フザケ――」

「だまりなさい。大殿様が悪いとは言いましたが、逆に言えばその話からすると『操られていたこの二人を、治療する手段が無かった』という事……違いますか?」

「そんなのはやってみないと分からん!!」

「じゃあ問題ありませんね。どうぞそれが出来るなら治療をしてみなさいな。寄人操脳を排除するより、格段に簡単ですからね。大殿様の無駄な愛に感謝なさい」


 そこまで黙って聞いていた流は、タラリと冷や汗を額からこぼし確信に迫る。


「えぇっと? なんで俺が原因なの?」

「ニブイですねぇ。いいですか大殿様、細かく脳に張り巡らされたあの触手を、大殿様は妖力で断ち切った。ずぱーんとね……それであの触手は人の喜怒哀楽を司る部分にも、当然入り込んでいます。思考を乗っ取るくらいですから、その複雑さは外科手術でも排除は無理でしょう」

「それは分かった、で?」

「そこで大殿様は妖気を電気のように触手を伝わせ、内部より破壊に成功した。その弊害でしょうねぇ、大殿様の妖気は極上の味なのは私も理解するところ。それがダイレクトに脳に打ち込まれたら?」


 流と美琴は「あ!!」と口をそろえる。そしてお互いに目を見てから、その原因に思い当たる。たしかに流の妖力は特殊で、もっと言えば邪気がない妖力とでも言う感じだ。

 だから破壊と回復じみた、ある意味で奇跡的な変化を得て、流の妖力の虜になったHENTAI脳になったのだろうと推測する。もぅ流様無しじゃいられな~い〝ビクン〟的な何かだろう。


「美琴、俺は学んだ……」

「そうですね、流様にはおかしな人が集まる運命なんだよ……」

「そこは違うと否定してほしい」

「無理だよ、だって向日葵ちゃん達を見れば分かるじゃない」

「お前が一番おかしな存在だが?」

「知っているだけに何も言えない……」


 ガクリと落ち込む二人を見て、レッドとレティシャは焦りだす。


「何を申される!! ご覧くだされ天上の御方様!! この無くなった角こそ、御方様への忠誠の証……尊いッ!!」

「そうです!! このスパっと無くなった断面……なでるだけでもぅ――たまらない!!」

「……だ、そうですよ流様」

「もぅいい。俺は全てを受け入れることにした……」

「まったく大殿様も酷いことしますね。私ならおかしいと判明した時点で首を切り落としますよ?」

「「向日葵、お前のほうがよっぽど酷い」」


 現実感のない、夢の中にいるかのような会話の連続から目覚める男、エルギスは思う。

 そう。こんな事が許されていいものではない、と。


「もういい、分かった。つまりキサマらを殺し、殿下と我が娘をもとに戻せば全て解決……そういう事だな?」

「大殿様。やっぱり馬鹿ですよこの人。ヒゲ生えてるし」

「お前はだまっとけ。まったくお前が余計なことを言うからお怒りだぞ、ヒゲの旦那は」

「うるさい……全軍突げ――」


 瞬間、恐ろしい魔力が吹き上がる。龍人の「天災」と呼ばれた二人は、その本来の力を開放するように両目を龍のように輝かせて全軍を睨みつける。


「エルギス……我が主にして天上の御方に対する無礼、万死に値する。それにお前も知っているだろう? 我ら龍人は力こそ全て。我は主様に力でも完膚無きまで叩きのめされたのだ。従うのは当然の事」

「父上、今までお世話になりました。これからは幸せな余生をお過ごしください。もっとも……今、その余生も終わりそうですが」


 流を背後に守るように立つ二人。約立たずだった宝剣「アイ・ス・ダガー」と、白と呼ばれた宝槍「白龍の咆哮」を片手にゆらりと立ちふさがるのだった。

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