293:生粋の特殊能力者
(なんと頼もしい……)
思わずそう思ってしまうほど、レッドと我が娘であるレティシャの行動に、思わず涙腺が緩む。
それほど二人の敵である男への態度は、じつに堂々としたものだった。
エルギスはその二人を誇らしく思い、傷など無いように立ち上がると二人の後ろへつく。
上空の龍人達も、その勇ましさに奮い立ち〝ざわり〟と波打つように動き、それを見越したかのように、レッドが口を静かに開く。
「先程は世話になった」
「殿下ほどじゃありませんが、あたしも世話になりました」
「なに、いいってことだ。それで……このまま俺と敵対して、明日の朝日を拝まずに逝くかい?」
「オイ、不遜なる人間よ。殿下と我が娘は、龍人の中でも特別な存在。いい加減にその汚い口を閉じろ」
「静かにしてください父上。御方のお言葉が全てです」
「う、うむ……」
我が娘の御方、つまり「主」であるレッドの言葉を待てと恐ろしいほどの気迫。
それが振り返りもせず、静かな言葉からヒシヒシと伝わり思わず頷く。
「我ら龍人の誇りは貴殿はご存知ですかな?」
「知らん、知っていてもどうでもいい」
「キサマッ!!」
「父上、三度は申しません」
「う、うむ」
「失礼した。我らの誇り、それは命より大事なモノはこの角なのです。それが――」
「ええ、殿下のおっしゃるとおり――」
「「見事に無くなっている」」
二人は天を仰ぐように涙する。その無念さがエルギスへと伝わると、二人の無念を思えばこそ怒りがとめどなく沸きあがる。
「それは大変な事だな。で……来るかい?」
流がそう言うと、龍人二人は魔力を残された角へと込める。
レッドは真紅の角をより赤く。レティシャはコバルトブルーの角をより青く。まるでそれらが一つの命のように輝きを増す。
「分かるか人間よ。お前達人間が億人死ぬより、我らの角の価値は遥かに高いッ! それをキサマアアアアア!!」
「エルギス、口を閉じよ」
「いいえ、コレばかりは殿下と言えど言わせていただきます」
「父上……警告はしましたよ?」
「レティシャ? なにを言って――ぶぎゃばあああああッ!?」
突如右側の顔面に感じる、衝撃を理解出来ずに背後へ倒れる。その後にくる頬への痛みで、何があったのかを理解する。
見ればレティシャが手に持った〝白〟と呼ばれるスピアで、自分を殴ったのだと。
「レ、レティシャ!? お前この父に何を!!」
そう叫んだ時だった。思わずマヌケな声が自分から出ている事に気がつく。
「ほぇ??? はぉ???」
『『『ナッアアアアアアッ!???』』』
「何してんだお前達……」
「「我が主、我らは貴方様のために生き、貴方様のために死にましょう」」
突然、二人の龍人が流の前で跪く。
そのあまりの出来事に龍人をはじめ、騎士や冒険者たちまで驚く。唯一、流だけが呆れた顔で見ているのだが……。
「おお、偉大なる我が主よ。そのような顔で見られたら……くッ、照れます!!」
「うぅッ!! あたしなんかもう……震えちゃいますぅ……ぁぅッ!!」
「うわぁ……」
ドン引く流。それもそのはず、龍人の男女は流の顔を見て興奮しているのだから。
それを見て嫌そうな顔をすると、ますます興奮しているようだ……これはつまり。
「お前ら……まさか、あの、生粋のHENTAIか?」
「「あぅぅぅッ!? そんな本当の事を言われたらッ!!」」
なぜか頬を染め〝ビクン〟としている二人。正直気持ちが悪いと、流は二歩後ずさる。
思わず周囲に助けを求めるかのように、敵であるエルギスへと視線を向けるが、彼は青い顔をして顔を左右に何度もふっている。
「ちょっと待て! どうしてそうなる!? お前らは俺にこっぴどくヤられ、普通お怒りモードだろうが?」
「オオ~偉大なる御方。我ら二人を、あの寄生虫から救って頂いたことをお忘れか?」
「そうです! あの時あたしたちは……あの憎き虫人間に寄生され、心も体も乗っ取らていました。それを御方様がお救いにぃぃ!! ハァァァたまらない!!」
そう言うと二人は自分の体を抱きしめ、流を上目遣いで見つめる。流はその様子を見てさらに一歩後ずさる。怖い。
「あの時、我の角を斬り飛ばした瞬間、不快な存在であるアルギッドが消失したのを感じました。それと同時に、脳内になんとも言えない……そうあれは……」
「殿下、あれでですよ。極まった快楽のような衝撃が!!」
「そうだ!! それだ!! あぁ、それが時が立つほど明確に我を支配していったのです!!」
「あたしもおなじく! その後は偉大なる御方様の事だけしか、考えられなくなりました!!」
「なんだそりゃ……」
ドン引きを通り越して、恐怖しか感じなくなりかけた頃に悲恋から声がする。
『ふぇ~もぅなんです姫ぇ。せっかく寝たばかりなのにぃ』
『向日葵ちゃん、たこ焼き柄のパジャマをそこで脱がないでよ。ほら見たがってたでしょ? 本物のHENTAIさんだよ!!』
『うそ!? 見せてもらおうか、新しいHENTAIの性能とやらを!!』
「おい向日葵、あいつらには乗れないぞ? はぁ、お前ら楽しそうでいいな……で、理由はなんだ?」
向日葵はいそいそと悲恋から抜け出てくると、跪くHENTAIに向けて歩き出す。
それを追いかけるように美琴も焦って抜け出てくると、たこ焼き柄のパジャマの下を持っていた。
「ちょ、向日葵ちゃん下を履いてないから~」
「あ、そうでした着替えている最中でした。大丈夫です姫、ちょっと上は長いので見えません」
「お前らなぁ……この状況で本当にフリーダムすぎて泣けてくる」
「ふふふ、照れます」
「褒めてねぇよ! それで?」
「そうですね……」
そう言うと向日葵はパサリと扇子を開き、レッドとレティシャの頭部へと向けるのだった。
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