290:全ては俺のモノ
突如目の前に現れた娘、刀照宮美琴にセリアは短く〝ヒィ〟と声が出る。が、なぜか負けられないと思い、その大の苦手なオバケに立ち向かう。
内心、(コワクナイコワクナイコワクナイ)と、念仏のように唱えているのは秘密である。
「あ、あ、あ、貴女こそ何なんです!? 私はナガレの……こ、恋人の予定よ!!」
「な、な、な、何を言っているのかな、かな? 流様は私のその……あの……」
「主人だろ?」
「そう!! ご主人さまなんだから!! 私の体は髪の毛の先から、足の指先まで、全て流様のモノなの!!」
セリアはオバケ娘の不純な宣言に涙目になり、ルーセントは娘以上に大事にしているセリアが巣立って行く姿を見て涙目になる。
そんな女の戦いを苦笑いしつつ見ていた流は、ワン太郎へと回復薬を渡し、助かりそうな周りの人間を回復させる事にするのだった。
「モノって貴女不純よ! ナ、ナガレがそんな事をするはずがないわ!? そうよねナガレ??」
「え? いや、この娘は文字通り身も心も俺のモノだけど? まぁ死ん――」
セリアはその言葉に涙腺が崩壊する。無論ナガレの最後の、「死んでるけど」なんて言葉など耳に入らない。
「うわぁぁん!! 初恋だったのにぃぃ、こんな不純な娘がいたなんてあんまりだよぅ。でも今でも大好きだけどおおお」
「いや、ちょっと待て。俺と美琴はそんな関係じゃなくてな、もっと魂から結ばれた存在なんだわ」
「それ、慰めになっていないわよ!? て言うか、ますます酷いんですけどぉ」
「ちょ、ちょっと泣き止みなさいよ。私と流様は、そんじょそこらの男女と違うんだよ? 魂と魂が常に一緒の存在なんだから、あきらめて。ね?」
「オバケ娘、それ全然慰めになって無いんですけど!?」
ジャジャ馬姫の異名はどこへやら、周りで聞いている者たちはドン引きだ。
ついでに遠くで見ているリザードマン共まで、顔を引きつらせているようだった。鱗顔なのに……。
「美琴、お前が変なこと言うからセリアが泣き止まないぞ」
「ご自分で何を言ってるか、自覚あります?」
「「えっと……セリアさん、ごめんなさい」」
「二人して妙にハモって謝らないでよね!!」
そんなセリアの涙顔を見ていたルーセントは、我に返ったように奮い立つ。そしてワン太郎から薬をもらい、一気飲みすると試験管を放り捨てて流の元へとやってくる。
「貴殿……ナガレと言ったか? うちのお嬢様を救ってくれた事、そして我らの命と怪我まで治してくれたことには礼を言う。だが、なぁ……お嬢様を泣かせる事だけは許さん!! シネエエエエッ!!」
「ちょ!? ルーセント落ち着いて! やめて、ほら。あなた達もルーセントを止めて!!」
『『『ハッ!!』』』
セリアに呼ばれて騎士達も我に返る。直後ルーセントを複数で羽交い締めにし、取り押さえる事に成功するが、未だに鼻息荒くもがいていた。
「おいおい……こりゃどうなってるんだか。よ~、その腕章……最近噂の巨滅の英雄だろ?」
「ん、多分そうだと思うが……アンタらは?」
「悪い、助けてもらった。俺らは竜滅級の冒険者でドラゴンヘッドと言うんだわ。んで俺がリーダーのエドだ。よろしくな、巨滅の英雄++」
「そうだったのか、こっちこそよろしくな。それと、一つ先輩として聞かせてくれないか?」
「おう、何でも聞いてくれ」
「んじゃ遠慮なく。アレをどうしたらいいと思う?」
「ん、アレって一体……!?」
エドは流が指差した方向を見ると、空に数十の影が見える。それが高速でコチラへと飛んでくるのが見え、やがてその姿がハッキリと見える。
その姿は人が鎧を着ているようなものであり、先頭にいる人物のみが明らかに指揮官のような豪華な鎧を着ている。
「うっそだろ……ありゃぁ……全員龍人か!?」
エドの叫びで全員がその方向を見る。するとそこには龍人の軍団がおり、その瞳は怒りに震えているようだった。
目撃例がほぼ無い程ある意味幻の存在であり、出逢えば大惨事になる可能性もある恐怖の化身が空に殺到する光景は、冗談にしてはまったく笑えない。
奇跡的に助かったというのに、なぜか今度はより絶体絶命のこの状況に、誰もが口を開けるが言葉が出ない。
戦場全体が一気に静まり返り、人もリザードマンも全員空を見上げる。
「レティシャに持たせた〝白〟の気配がこの近くにある。レッド様は何処におわす!? 探せ!! 近くにおられるはずだ!!」
「エルギス様!! あ、あれを……」
エルギスと呼ばれた見た目が五十代ほどの龍人の男。そのいかにも武人といった無骨な顔つきに、モッサリとしたヒゲがよく似合う、右頬に傷がある人物が部下に指示をだす。
その様になっている姿の一因が、龍の彫刻が見事な銀色の鎧に、青いマントをなびかせて空中に静止している。
そんなエルギスに部下が何かを見つけたと報告する。
「んんん~? ぬおおおお!? アレは我が娘!! なぜ無様に転がっておる!? 今すぐ娘を――」
「エルギス様あああ!!」
「今度はなんだ!?」
「で、殿下じゃないですかあれ……」
「はぁ? あのレッド様が無様に転がってる訳が…………え゛?」
エルギスは混乱する。確かに見た目はレッド殿下の衣服に似ているし、赤い髪もそのように見える。
だがあの強靭なレッドが、あのようなマヌケな姿で地面とキスしているはずがない。
そう思う、そう思いたかった。だが――。
「あ……あの真っ赤な角は――で、殿下あああああああああああああ!?」
エルギスはそう叫ぶと、急降下してレッドの元へと向かうのだった。
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