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028:決戦! デカイ奴

 エルシアが出て行ってしばらくすると、ケモ耳の受付嬢がやって来た。

 ニンジン屋の獣人とは違い、耳と尻尾のみが〝けもけも〟しく、顔立は愛嬌のある可愛い感じの黒猫獣人で、スレンダーな娘だった。


「ナガレ様、お待たせしましたのニャ。只今より会場へ案内するニャ」

「ありがとうニャ。じゃあ案内よろしく頼むのニャ」

「!? ま、まさかナガレ様は同族かニャ?」

「違うニャ、俺の『デキル今日から様式美』三巻の第一章にある、汝・獣人を愛せよにある一節だニャ!」

「よく分からニャイが凄い自信ニャ……」


 よく分からない一体感を感じつつ、二人は練習場へと移動する。

 出口が見えた頃に会場からマイクパフォーマスが聞こえて来た。


「レッデ~ィィッス・ゥア~ンドゥ・ジェントゥ~メン! ついでにそこのオッサン&婆さん!」

「アタシを指差して婆さん言うんじゃないよ!」

「馬鹿野郎! 俺は最近間違われるが二十代だぜ!」


「アイダッ!! 物を投げないでくだっさ~い。間もなくやって来るのは希代の馬鹿か、それとも勇者の再来か!? 全てはもうすぐ明らかになる時がやって来たあ~! ――さあ! お前ら準備はいいか!!」


『『『『『オウ!!!!!!』』』』』


「賭け札に全ツッパした馬鹿野郎はケツの毛まで毟られる覚悟はいいか!?」


『『『『『オウ!!!!!!』』』』』


「よく言った! これから来る蛮勇者にお前らの熱いリビドーを大地に刻め!!」


 瞬間、それは起こった。

 大地を揺るがすような重低音が響き、地鳴りまで始まる。


「なんだ!? 何が起こっている?」

「凄いのニャ……ナガレ様、このままお進みくださいニャ。ご武運をお祈りしてるのニャ!」

「よし、行く!」


 美琴をグッっと握りしめると、それに美琴は答えるように強く震える。

 正面にあるゲートを潜ると地鳴りと重低音は更に激しさを増す。


 『『『『『オオオオオオオオ!!!!!!!!』』』』』


 ドン、ガン、ドン、ガン、ドン、ガン、ドン!!!!!!


 最早練習場の面影は無く、完全に闘技場のように様変わりした会場は、すり鉢状の観客席がそこにあった。

 そこで行われている観客達の足踏みと雄叫び、そして槍や鈍器の石突や、剣の鞘を地面に打ち当てている衝撃と振動で、会場は揺れに揺れていた。


「さ……流石にこれは圧巻だな……」


 闘技場の中心にはハットと首元のみ、紳士然とした何かが仁王立ちで待ち構えている。


「よく来たわねボーイ。ど~かしらん、凄いでしょう? みんなボーイの雄姿にゾクゾクしたいのよん。もちろん、あ・た・し・もよん♪」

「一人称が微妙に変わっているが、まあそれはいい。で、この後どうすればいいんだ?」

「あはん、せっかちなボーイねぇ~。それじゃあそこで待っててちょうだい。ミーが離れてから召喚するから、そいつを倒してちょうだい」

「了解した。確認なんだが、自分の持ち物を戦いに使ってもいいのか?」

 流は腰に装備した、黒い革製の正方形のアイテムバッグをポンと叩きながら言う。


「ええ、それは無論ですとも。これは試合でもなんでもなく、純粋な『殺し合い』なんだからん」


 流は思う。殺し合いと聞くと一瞬躊躇うが、この世界に来てからの事と、元の世界で祖父との鍛錬の日々とやってる事は変わらない……と。


(俺の人生、殺伐としすぎだとあらためて気が付て泣きそう)


「あらん、どうしたのかしらん?」

「いや、何でもない。じゃあ召喚よろしく」


 ジェニファーは流に背を向けると、中央から少し離れた場所に歩き出す。


「じゃあ……イクわよん!」


 ジェニファーはステッキを素早く七回地面へ打ち付けると、今までと違い三重の立体魔法陣が流れの前に現れる。

 

 魔法陣からゆっくりと姿を現した物体は――巨大だった。


 右膝を地面に付け、左膝は立てており、頭を垂れていた。

 その姿はまるで流に最敬礼をしているかのよな形で蹲っており、手には幅が広い大剣と、ラウンドシールドのような丸い盾を持った、赤黒い肌で筋肉の塊のような巨人が居た。


 巨人がゆっくりと立ち上がる……。


 その身長は六メートル程あり、ビキニのようなパンツを一枚装備し、足元は膝までフルアーマー鎧のような装備で固められており、頭には左右に角が二本生えた兜を被っていた。


 それを見たレフェリーの男は驚愕の声を叫ぶ。


「こ、これはーーー!! こんな事が許されていいのかーー!? 何と出て来たのはあの有名な巨滅級を狩る者、通称『巨滅兵』が召喚されたあああ~!!」


 それを聞いた観客の興奮は更に増大する。


「つまり巨滅級の中でも最上位に位置する化け物中の化け物が降臨してしまったあああーーー! どうする蛮勇者! まさかの棄権をするなら今なら間に合うぞ!!」


 逆光で見えないが、観客席から心配を装って煽りに来るクソ野郎。

 そんな司会者に苦笑いをするジェニファーが流れに問う。


「だ、そうよボーイ。どうするのかしらん?」

「愚問、俺と美琴の前に立ちはだかる敵は全て切り伏せるのみ!!」

「アハン♪ それでこそ、ね。聞いたかしら司会者……いえレフェリーかしらん? 死合・・は続行よん」


「聞いたか? 紳士淑女! ェア~ンドゥ~ クソ野郎ども! この世に神も仏も居ないのか? 否! 信じるのは自分の力のみ! その言葉を体現するかはこの男、ナガレが決定する!! 富と名誉を毟り取れ!!」


「美琴……先日死にそうになったつーのに、何だか楽しいな……たまらん、これぞ異世界で生きている実感だ!!」

「アハン♪ 勝負はお互い戦闘不能になるまで、勝負は一本勝負よん。周りは多重障壁と、強化土魔法で作られた観客席の土台があるから、気にしないでハデに暴れてちょうだいねん」


 流はこくりと頷くと開始位置と思われるラインまで進む。


「双方準備はいいか?? それではこれより公開認定死合を開始する!! 思う存分殺りやがれ!! ――始め!! 」


 会場は割れんばかりの歓声と熱気で炎天下の昼間より、尚熱い風が熱波となって流を刺激する。


「グゴオオオオオオオオ!!」

「吠えるな獣、すぐに故郷じごくへ送ってやる」


 両者の睨み合いが激しくなり、今にも斬りかかろうと巨滅兵が流を威嚇する。


(プの時のような早鐘を打つ危機警報もない……よし、やれる!)


 流れは美琴を納刀したまま、ごく自然体で佇む。

 それを見た巨滅兵は剣と盾を上方に掲げ叫んだ後に、流へ向けて突進する。


「お、おい! 蛮勇者が剣を抜かないぞ?」

「チッ、あいつこの熱気と巨滅兵に呑まれてやがるんじゃねーのか!?」

「どうしたのよ! 早く動きなさいよ~!」


 観客達が流の無防備な姿に、焦りと落胆を合わせた怒号が飛び交う。

 そんな流は冷静に巨人を「観察」する。


「俺は殺れる時に躊躇はしない。――まずは一つ!」


 巨滅兵はその体格差で侮ったのか、盾を大きく振りかぶり流へ叩きつける。

 轟音と土煙が流が居た場所から爆発的に打ち上がり、会場は悲鳴のような叫びと、歓声で満たされ後、流の安否に会場が一瞬静寂に支配されたが――。


「ジジイ流抜刀術! 奥義・太刀魚!!」


 巨滅兵が盾を振り下ろす瞬間、流は腰を落とし素早く巨滅兵の懐へ入ると同時に、斜め上へ美琴を抜き『太刀魚』を解き放つ!

 照明に照らされた銀光は怪く光りを曳きながら、巨滅兵の左上腕を斬り飛ばす。

 

 流を叩き潰さんとした盾は、そのまま重力の鎖で引きずり落とされるかの如く、地面へと激しく落下し、一度地面にバウンドした後に観客席の中段へ向けて高速で飛んでいき、そのまま障壁に当たって粉々になる。

 そして盾を握っていた腕は地面に強烈にめり込み、双方その原型を喪失したのだった。


「グモオオオオオオオオッ」

「だから叫ぶな、鬱陶しい」


 土煙が晴れた時、観衆は目撃した。そのありえない現実を。

 そこには左腕を失った巨滅兵が苦しそうに、失った腕の先から血飛沫を撒き散らして呻き声をあげており、威嚇するように流に大剣を向けている姿を。


「な……何が起こったーーー!? 巨滅兵が蛮勇者を攻撃して潰されたかと思いきや、逆に巨滅兵が腕を斬り飛ばされている~~~!!」


 静まり返った会場は息を吹き返す。

 それに呼応するかのように、大歓声が場外からも聞こえた。



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