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286:姦しい

「危ないだろう? 無理するなよ」

「ふふ、ありがとう。でも、ここでお姫様抱っこは恥ずかしいな」

「すまない。状況が分からず少し見ていたら、お前に怪我を負わせてしまった」

「本当に? あの言葉(・・・・)を聞きたかったんじゃないの?」

「ち、違うぞ。多分?」

「もぅ、本当に仕方ない人ね」

「俺を……怖くはないか?」

「怖くなんてないわ。見た目は変わっても、私は知っているよ。あなたは私の命を二度も救ってくれた、心から大切な人……ナガレだよ?」


 そうセリアは言うと、上半身を起こしてナガレの左頬にキスをする。

 突然の事に驚くナガレであったが、それ以上に周りの者たちは驚愕する。とくにルーセントなどは口を〝あんぐり〟と開け放ち、その様子を見ていることしかできない。

 そしてもっと酷いのがこの娘――。


『ああああああ!! ちょ、ちょっとアナタ、なにを勝手にキスしてるんですか!?』

「ヒィッ!? な、なに!? ど、どこから声が!!」

『もぅ、そうやって抱きつかないでくださいよね!? 前から思っていたんですけど、アナタ! 流様にくっつきすぎますぅ!!』

「ナ、ナガレ!? この声は一体なに? オバケなの!?」

『オバケじゃないですぅ~幽霊ですぅ』

「お前達、俺の耳元で叫ばないでくれ。うるさい」

『「あぅぅぅ」』


 アルギッドはその光景を呆然と眺める。突如現れた男に足蹴にされ、嫁を盗まれた。それだけで激怒ものなのだが、その意味の分からない現実を把握するのに時間がかかる。


(えぇぇと何だ? 俺はゾーランを受けて止めて? そんで、鼻が痛い……あ、蹴られたのか? あーでー……嫁を盗まれて……ん? 盗まれ……ァ゛!?)


「――――オイ……そこの人間もどきぃ……この龍人たるぅ俺様ぁ、アルギッド様に何してくれたんだぁおん? ただじゃあ~殺さねぇ……粉微塵には・か・い・してやんょぅ」


 突如覚醒したようにゆらりと起き上がるアルギッド。右手には短剣を持ち、滴る鼻血を左袖で拭い、幽鬼のようにふらり、ふらり、と血走った目で近づいてくる。

 流はそれを見ることもなく、セリアをゆっくりと地面に降ろすと、アイテムバッグから紫の液体が入った試験管を取り出す。


「セリア。その痛みの代償はキッチリと払わせて来るから、いい子で待ってるんだぞ?」

「もぅ、私は子供じゃないんだから……でもありがとう。気をつけて」

「そんな相手でもないさ。ほら、これを飲んでおけ。うさぎちゃん謹製の回復薬だ、よく効く」


 セリアは「うさぎちゃん?」と不思議そうだったが、高揚感が少し落ち着いたことで傷の事を思い出し、苦痛に顔を歪める。

 そんな顔を見た流は「ほら、早く飲めよ」と言うと、アルギッドへと向かっていった。

 

 アルギッドはブツブツと独り言を言いながら、いまだ止まらない鼻血を滴らせ歩く。

 やがてゆっくりとその手に持ったアイスブルーに輝く短剣――刃渡りが四十センチほどもあり、通常のものより長めのソレを〝だらり〟と下げなら止まる。

 流もその正面、三メートルほど前に立ち止まる。緊迫し張り詰める空気が、遠巻きに見ているリザードマン達を震え上がらせる。

 

「おいおい、酷い顔だなぁ、誰かに蹴られたのか? 鼻血を吹けよカワイソウニ」

「……お前は何をしたのか、分かってるのかぁね? この! 龍人の貴族たるオ・レ・サ・マを足蹴にしたんだぞ!?」


 アルギッドのその問と言うより叫びに、流は不思議そうに後ろを見る。

 その意味を分かったアルギッドは、額にブチ切れそうな血管を浮かべて流へ叫ぶ。


「後ろには誰もいない!! お・ま・え・だ!!」

「え? 俺? またまたご冗談を」

「――シネ!!」


 アルギッドは初撃から、残像を引く斬撃で流を襲う。それを流は驚いたように上半身をそらして避けると、美琴を抜き応戦する。

 だがアルギッドの剣戟は鋭く、重く、早かった。油断していたのか、流もそれを受けながす事で精一杯になっているように見えなくもない。

 それに気を良くしたアルギッドは、恨みの形を短剣に込め、ネジるように襲いかかる。


「ハア~ッハッハッハ!! どうだぁ? ヴァカメ!! こ・の龍人たる私に勝てるワケがあああ無い!!」

「……」

「言葉もでぇないかぃ? そ~らそうだ。ホララララララアアア!!」


 アルギッドは愉悦のあまり興奮したのか、さらに鼻血を吹き出し見るに耐えない血まみれの口元を歪ませて連続刺突をする。

 その攻撃は間の抜けた顔に似合わず、確実に流の急所を狙ってくる。だが流は美琴の先端である切っ先で、全て同じように打ち込み、その威力を相殺した。

 次第に愉悦の表情から真顔を経て、困惑、怒りと信号機のように顔色を変化させるアルギッド。

 

「な、なぜだ!? なぜ受け流せるうううううう? しかも切っ先でだと!? ありえん、この俺様の攻撃をな・ぜ・だ!?」


 ここにいたっても、いまだに攻撃をやめないアルギッドは思わず疑問を叫んでしまう。


「叫ぶな、鼻血が飛んできそうで汚い。おい、これで終わりか? じゃあ俺のターンだな」


 そう流は言うと、妖力を爆発させるように放出する。その圧倒的な力に恐怖を感じたアルギッドは、背中の翼を使い後方へと大きく飛び退く。


「――なっ!? なんなんだキサマはあああああああ!?」

「鑑定眼……ジジイ流・薙払術(ていふつじゅつ)! 岩斬破砕(がんざんはさい) 【改】!!」


 アルギッドの言葉を無視して流は鑑定眼を発動させる。そして見えた〝地面のほころび〟に狙いをさだめ、斜め下へと妖力を込めた一撃を一閃する。

 何の抵抗もなく地面へと潜る斬撃。直後、地面が隆起しはじめたのを見たアルギッドは、冷や汗を背中に感じ、上空へと逃げ去るのだった。

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