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277:セリアの覚悟

 ゾーランはそのまま、なすすべも無く地面にめり込むと動かなくなる。

 嵐影はおもむろに前足でゾーランを踏みつけてみるが、それでも反応が無いのでどうやら気絶しているらしい。


 それを再度防壁に上がって見ているイズンは、何が起きているかが理解出来なかった。

 最強格の龍人が出てきたかと思えば、いきなり地面に転がっているのだから。

 だがそれを知るのは防壁の上にいるものだけであり、セリアを始め外で戦っているものの大部分はリザードマンの壁に阻まれ状況を把握出来ない。

 

「何が起きているの? 誰か状況を説明出来る者は!?」

「セリア様、斥候魔法師がいませぬので分かりませんが、龍人が現れた時の圧が消えました。倒されたのは、ほぼ間違いないようです」

「龍人が……一体誰が」

「とにかく今は出来る事をしましょう。まずは分断に成功しました、これより西に向かい虐殺されているキャラバン隊を救出に向かいます」

「そうね、それが今一番する事だったわね。イズンのヤツ……」


 セリアはここに来る前に見た、目を覆いたくなるような惨劇を思い出す。

 街に入るために待っていた商人・旅人・女子供までが、リザードマンにより残虐に狩り殺されていると報告を受けて南門へと到着する。

 そこには人の血肉で酒宴を開いているかのような、狂気の宴が始まっていた。

 すでに到着し、南門の指揮をしていたイズンを見かけたセリアは、彼の胸ぐらを掴み一喝する。


「イズン!! なぜ出撃しない!!」

「これはこれはセリア様。私もしたいのですがね……御覧ください。門の前までギッシリです。これで開門しようものなら、一気になだれ込まれてしまいますが?」

「クッ……それをどうにかするのが貴男の役目でしょう!?」

「これはしたり。セリア様は町の住民を危険に晒してもよい、と?」

「そんなわけ無いでしょ!! 弓兵や魔法師に上から攻撃させて、活路を開きなさい!!」

「それが残念ながら、まだそれら二隊の準備がまだでして。ハイ」

「なッ……!? 今まで何をしていたのですか!! もういいです、私が出ます!! 部隊を編成しなさい!!」

「それは出来ませんね。クコロー泊より南門の守護を任せられている以上、軽率に兵を失うわけにはいかないのですから」

「もういい!!」


 セリアは唇を噛み締める。イズンの緩慢(かんまん)な采配のせいで、無駄に犠牲者が増えている事に激しい憤りを感じる。

 その後、三度出撃要請をしたが、その全てをくだらない理由で拒否されてしまい、仕方がないので直衛の二十騎で救出へと向かう。


「お嬢様! おやめください!!」

「止めないでルーセント。あなたの気持ちは痛いほどよく分かるわ。でもね、私はこの街……いえ。『トエトリー守護職』としての責務を果たします」

「お嬢様……くっ、承知いたしました。このルーセントめが地獄のそこまでお供いたします!」

「ふふ、ありがとうルーセント。でもそこは天国がいいな?」

「これは失礼を。さて……では者共! セリア様の覚悟を聞いたな!? 我らはトエトリーのためにあり、トエトリーの盾であり剣だ! その覚悟を示されたなら、全てに優先する!! したがって、トエトリーから来た客人を守らぬゲスは同胞にあらず! 我ら精鋭二十騎、力の限り推して参る!!」


『『『ハッ!!』』』


 それを満足げに見たセリアは、一言「ありがとう、みなの命を預かる」と言うと、強制開門させて出撃したのだった。





 セリアは馬上より槍を振るい、リザードマンを蹴散らしながら先頭を進む。

 それを守るように左側へ猛将とも言える男、老いてますます盛んな白髪の騎士、ルーセントが大槍を小枝のように振り回しながら追従する。


「ルーセント、何か変じゃない?」

「さようですな。彼奴(きゃつ)らの動きが鈍い……いや、一部では止まってる者もおりますな。それが進めば進むほどそう見えます」


 好機到来とうそぶき門をなかば強制開門させたが、どうやら本当にそうらしい事にすこし戸惑う。

 なぜかリザードマンの動きが止まり、その後鈍くなったおかげでリザードマンの一部を本隊から分断し、その先にある商人のキャラバンへと進む。

 動きの鈍いトカゲ共を蹴散らし、二十一騎は稲妻のように駆ける。そのかいあって、目的のキャラバンが見えてくる。

 護衛の冒険者たちの奮闘もあり、何とか間に合ったようで、セリアは彼らの無事を確認してホット一息つく。

 

「あれは……援軍だああああ!! 援軍が来たぞおおおおおおおお!!」

「何!? それは本当か? 助かるのか!?」

「ウオオオオオオオ!! 神よ! 明日からマジメに商売します!!」

「お前は今からマジメにやれ。それにしても……奇跡ってあるんだな……」


 冒険者と商人達は、死ぬのは時間の問題だと思っていた。地平の彼方から突如現れた黒い影。それが津波のように押し寄せ、気がつけば包囲されていたのだから。


「すまない待たせた! みんな無事!?」

「はい! うちは何名かは殺られましたが、おかげさまで何とか生きています! しかし別の商隊がかなり殺られました」


 セリアはルーセントに少しだけ頼むと言うと、馬から降りキャラバンの商隊長らしき男へと頭を下げる。


「そう……。遅れてしまって本当にごめんなさい」

「な!? 何をおっしゃいますか!! こうして来ていただけた事に一同感謝しております。それにその胸の家紋は、クコロー様のもの!! 噂に名高いセリア様が直々に救出に来ていただけるとは……」

「ハァ~、一体なんの噂かしらね?」

「い、いえその……」

「ふふ、まぁいいわよ、どうせジャジャ馬ですよ。それより今は――」


 セリアは龍人が落ちた場所を睨む。リザードマンの抵抗が弱くなっている原因が、あの龍人が落ちた場所にある。そんな気がしてならないセリアだった。

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