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274:もーぜ?せ?

「まったく凶暴なワンコだなぁ」

「えへへ~。ほめるなら〝ちゃ~りゅ〟を添えてほしいんだワン」

「たく、仕方ないやつだなぁ……えっと、ほら」

「わーい! あるじ大好きだワンよ!」


 ワン太郎は短い前足で器用に袋を破くと、中にはいっている半生な何かを口に入れる。

 どうやらとても美味しいらしく、尻尾が高速で動いている。


『もぅ、ワンちゃんばかり優しくして』

「お前にも十分優しいだろ? ほら」


 そう言うと流は美琴の鞘をなでる。


『ぁぅ……もぅ。そういうのは誰もいない所でしてくださいよね!』


 どうやら鞘を撫でられるのは、とても恥ずかしいらしい。そんな妖刀の意味の分からない感覚に首をかしげながらも、流は嵐影と話す。


「嵐影、この先にある町があるって聞いたけど、お前は分かるか?」

「……マーァ」

「そらそうだな、何度も行ったことあるなら安心だな。町までどのくらいで着く?」

「……マ」

「意外と近いな。まぁお前の走り方なら、それもそうか」

『流様、今後の予定は?』

「まずは王都は北にあるらしいし、ちょっと寄り道していきたい所もある」

『寄り道? そんな所へ行っても大丈夫なの?』

「まぁな。それに約束もある……」


 障害物が何もない草原を爆走する嵐影。やがて遠くに横に広がる構造物が見えてくる。

 それはトエトリーと同じような石壁があり、外壁からのぞく建物の構造はトエトリーと同じような感じである。


「おおお!! アレが異世界で二つ目の町になるのか! トエトリーがあまりにもデカすぎて、他の町の事なんてあまり意識してなかったが、目の前にあるとやっぱり違うな!!」

『ですねぇ! まだまだ行っていない場所がおおいからねぇ』

「おいしいのあるかなぁ? あるじぃ何か買ってほしいワン!」


 三人が遠くに見える町に期待を込めて見つめる。だが……。


「『「んんん??」』」

「あるじぃ~アレは争っている感じに見えるワン」

『ワンちゃんが言うんだから、間違いなさそうだね』

「俺にはまだよく見えんが、何か争っているのは分かるな。それで何と争っているんだ?」

「う~ん。ワレは異世界の事は知らないけどね、人間と魔物ぽいのが戦っているんだワン。見た目はトカゲ人間ぽい感じかな?」

『あ! それ知ってるよ。ゲームによく出てくるやつだよね?』

幽霊(おまえ)はゲームもするのかよ……あぁ、間違いないだろう。トカゲ人間と言えば、リザードマンだ」


 目の前の町にある大門へと攻撃を加えている、多数の凶暴なトカゲが人の姿になったかのような生物リザードマン。その数は数百はいそうだった。

 身長は人間より大きく、全員鎧のようなものと槍や鈍器を装備しているようだった。


「あるじぃ、どーするんだワン?」

「何体いるんだあれ? まぁ、どーするもこーするもねえわなぁ……」

『普通は避けるのでしょ、当然。でも流様だから、ね?』

「そう言うフリは、やめてくれよ美琴さん。そらお前当然――突っ込め嵐影!!」

「……マアアアア!!」


 さらに加速する嵐影は、リザードマンの後方へと突撃する。嵐影は大きくジャンプすると、前足に装備した〝嵐の鉤爪(かぎづめ)〟でリザードマンを真っ二つにしながら、突き進む。

 その様子にリザードマン達はパニックになりながらも、何とか立て直して流を半包囲する。


「おお!! 凄いな嵐の鉤爪は! 嵐影の意思で本当に出し入れ自在なんだな」

「あるじぃ~。ワレも頑張るから後でほめてワン」

「んじゃ、ワン太郎は左側たのむ。嵐影は右側だ。二匹(ふたり)とも無茶はするなよ?」


 それに頷くワン太郎と嵐影は、流から弾けるように左右に散っていく。

 嵐影は前足に装備した嵐の鉤爪を自在に出し入れし、リザードマンを切り裂いたかと思えば、殴りつけて吹き飛ばす。

 後ろから襲いかかって来た敵には、後ろ足で蹴った――はずだったが、真横に真っ二つになっていた。

 これは後ろ足に装備した嵐の鉤爪で行ったものだ。


「やるなぁ嵐影! ワン太郎は……え゛!?」


 嵐影の活躍に驚く流だったが、さらに驚きの現実が左側に広がる。

 ワン太郎は小狐状態のまま、リザードマンの足元を疾走する。そしてリザードマンの体に触れながら、糸を縫うように無軌道に走る。

 そして触れられたリザードマンは、そこから凍りつき、やがて動かなくなった。


『ワンちゃんも、嵐影もやりますねぇ~!』

「まったくだ。さって……主としての矜持ってやつを、魅せつけてやりますかねぇ」


 左右の事に呆然としているリザードマンの本隊、中央へ向けてゆっくりと歩をすすめる。

 それに気がついたリザードマンの一匹が、流へ向けて「ジャアアアアア!!」と叫ぶと、周囲も我に返り流へと襲いかかってくる。


 そんな状況でも鼻歌でも歌いそうな雰囲気で、不敵に歩をさらにすすめる。

 馬鹿にされた!! 奴らはそう感じたのだろう。それが(かん)(さわ)ったのか、益々激怒して襲ってくるリザードマン達を見て、「まぁ、今更だしいいか」と流は開き直ったように呟く。


 ぽつりとした呟きはリザードマンが猛る轟音により消し飛び、深緑の波が一人の漢へと殺到する。

 突然背後から襲われた怒りはリザードマンたちを益々猛らせ、流までの距離は残り二メートルほどになった瞬間――。


「ジャアアアアアアアアア――ァ……ァ、ァ……」


 いきなりだった、唐突だった、その暴力的でありえない何かが目の前に現れる。

 人間より格段にわかる、「命の危機」を感じられる本能が悲鳴を強烈にあげ、恐怖が波紋のように一気に広がる。


「よ~トカゲ野郎。今日は蹂躙されるにはとても良い日だと思わないか? お前らがそこの人達にしてたように、ゆっくりと楽しもうぜ。なぁ?」


 流は恐怖の塊の視線より少しでもハズれようと、バックリと割れたリザードマン達の先にいる「死体」を見つめながら威圧するように言い放つ。 

 リザードマン達は戦慄する。目の前にいる人間が突如見た目が変わったと思えば、明らかに自分たちより凶悪なバケモノが、恐ろしい視線で睨みつけているのだから。

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