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273:天の氷つぶ

「主!! お待ちしておりました! ささ、参りましょう!」

「お前は何をしているんだ? ん??」

「夜朔をここに運んで来たついでに、暑いのでちょっと涼もうかと?」

「そうか……」


 流はそう言うと、鑑定眼を発動させて氷狐王の首筋に一閃する。そして中身だけをくり抜き出すと落ちて来たワン太郎を〝むぎゅ〟っと掴む。

 それを見た恐怖にパニックになりかけていた門番はじめ、住民たちが唖然とするなか、流はワン太郎を掲げて宣言する。


「え~っと……討伐したからもう安心だ! この氷は好きに使ってくれていい!」

「「「おおおお!!」」」

「もう安心だから、心配しないでくれ。この子犬は俺の……そう、従魔だから心配いらない!!」


 その言葉を聞き、わき上がる住民たちと衛兵。コツリとワン太郎の頭に拳を落とし、軽くお説教をしていると、何やら背後から気配がする。


「あのぅ、アナタはもしかして巨滅の英雄++のコマワリ・ナガレさんですか?」


 声がした方を振り返る。そこにいたのはヒゲヅラで体格が妙に筋肉質……いや、筋肉が鎧を着ているような門番のようであったが、なぜか自信なさげだった。


「ん? そうだが、あんたは?」

「あ、はい。オレはここの門番長をやりたくないけど、やっているナイス★ガイです」

「はぁ、えっと。ナイス・ガイさん?」

「いえ、ナイス★ガイです!」

『はぁ~またおかしな人が……』


 美琴がため息交じりに呆れるように言うと、ナイス★ガイは不審者のようにあたりを見回す。しまいには流の後ろに隠れて、顔だけを背後よりのぞかせ顔を真っ青に染める。そして……。


「キャアアアアアア!? おばけえええええ!?」

「うっさいわ!! 叫ぶなナイスガイ!」

「いえ、オレはナイス★ガイです」

「あぁもういい。それでなんだ?」

「領主様よりこの書状を預かっています。ご確認を」


 領主と聞いて一瞬誰だと思ったが、すぐにカーズの事を思い出す。手紙の裏にはカーズのサインと、トエトリー家の朱色の封蝋がしてある。

 それを丁寧に開くと、手紙の内容を見てから懐へとしまう。


「たしかに受け取った。それとカーズからの伝言だ。『ちゃんと門番しないと、来月の給料半分にするぞ!』との事だ」


 その言葉を聞いて、ナイス★ガイはガクリと膝から崩れ落ち泣き叫ぶ。


「うおおおお!? どうしてオレをやりたくもない門番長にするんだカーズ様ああああ」

「おい。そんにやりたく無いなら、俺が言ってやろうか?」

「ほ、本当ですか!?」

「本当でもダメよ、門番長?」


 呆れたように衛兵の中から一人の女が出てくる。年の頃は二十代中頃であり、気品ある美しい顔立ちから何処かの貴族かもしれない。

 そんな金髪が美しい娘に、他の衛兵は自分の胸に右腕を当てる。どうやら周りの態度からするに、上位の衛兵のようだった。


「大体なんですか、門番長をやめたい理由が『盗賊がコワイ』からって?」

「だっだだ、だって、おばけの次にコワイじゃないかよ!?」

「その盗賊をコワイからと言って、単身アジトに乗り込み殲滅してきたのは誰ですかね?」


 その言葉で茶色のヒゲズラが激しく歪む。それもニッコリと実にイイ笑顔で……。気持ち悪いから、本当にやめてほしいと流と美琴は思う。


「まったく……。あ、これは失礼したわね。私はここの副長を務めています、トエトリー・フォン・ヴァネッサと申します」

「トエトリー? って、まさかカーズのお姉さん?」

「ふふふ、そうです。弟がいつもあなたの話ばかりするから、妬けちゃうわ?」

「あぁ! そうだったのか、だからどこかで見たことのある顔だと思ったんだよ」

「よろしくね、英雄さん」

「こちらこそな。それで、なんでこんな臆病なヤツが門番長なんだ?」

「この男、ナイスガイは見た目はこんなのですが、武力はトエトリーでも上位に入ります。ここは王都からの守りの要ですからね、それで彼をここに置いているわけ」


 見ればナイス★ガイは心配そうに流たちを見ている。ぷるぷるしていて実に気持ち悪い。


「人は見かけによらないって本当だなぁ」

「ええ、本当にね。まぁそれで私がお目付け役として、ココに居るってわけね」

「なるほどねぇ。カーズのお姉さんなら、やつに伝言を頼む。『ありがとう助かる』と」

「分かったわ、確かに伝えておくから」


 流は感謝すると伝えると、嵐影へと騎乗する。ワン太郎は急いでそれによじ登り、ふぃ~と一仕事した汗をポロリとながす。


「もっと話をしたいが……悪いが急ぐので、これで失礼する。カーズによろしく頼むよ」

「ええ、行ってらっしゃいお侍様」


 それに返事をして応える流は、嵐影と共に高速で走り去っていく。嵐影の速度はすでに百キロ以上は出ている感じで、聞けばまだまだ出せるそうだ。

 周りの景色が文字通り飛ぶように、背後へとながれていく。


「まったくお前のせいで、いらない手間がかかっちまったろう?」

「ごめんねぇ。だって暑かったんだワンよ」

「ったく……で、わざわざあんな事をした理由は?」

「さっすがあるじ~。あれはアルマーク商会の手のものと思われる、商人に扮した奴らが見張ってたんだワン」

「それで目くらましにって事か。それで、そいつらは?」

「さぁ? 今頃は氷の粒になってどこかのお空にでも浮かんでいるワン」


 骨まで粉微塵に凍らせ、痕跡すら残さない氷狐王の力に額に汗を浮かべる流。だが当の本人はどこ吹く風だった。

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