026:【戦準備を始めよう】
ついに10万文字を超えました!
見てくれてありがとうございまっす!
流が店内へ戻ると破れて何かで貫かれたような穴が空き、所々燃えているボロボロの健康手帳があった。
「おいお前ら。他人の物を汚したり破ったりしていけないと、誰かに教えてもらってないのか? ん?」
「壱:ち、違いまんがな。ちょっとコイツが生意気やってん、すこ~しお灸を据えただけですねん」
「〆:ええ、そうなんですよ。すこ~しおいたが過ぎましたのでね……」
「全く……で、どうすんだよコレ? ボロボロで見れなくなってるぞ?」
「〆:そこはご安心を。古廻様が一度収納後に、もう一度出すと元に戻っているはずです」
呆れながらも流はとりあえず戻し、例のポーズを経てから出してみると。
「おー 本当に戻った! でも中身は……何だこれ?」
見ると先程まで無かった物が、幸運値の下に追加されていた。
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【現在見れる健康状態】
生命力:平均的?
魔 力:未開放
攻撃力:平均的+やばsぎ
防御力:薄い本三冊分+妖刀の加護
魔法力:未開放
速度力:殺られる前に殺っちまえ!
幸運値:あらすごい
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【手帳の小言】←NEW
糞狐とエセ関西弁め! 許さんぞ、許さんぞ×千、許さんぞ、ぜーったい許さんぞ!
流、お前は悲恋美琴に頼りすぎだ。己の業をもう一度見極めよ。
それとA4サイズでも手帳なんだったら手帳なの! お分かり?
本日のメッセージは以上となります。
ご利用、ありがとうございました。
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「……お前達、一体何をしたんだ? 何か凄く怒ってるぞコイツって言うか、呪いの手帳みたいで怖いんだけど!」
「〆:ふふふ。古廻様も手癖の悪い犬には躾が必要だと思われませんか?」
「壱:せやで~時にはガツンといわせなアカン」
「しかし何だ? 俺にもアドバイスがあるぞ。もう一度業を見直せ……か。まあ確かに美琴頼りだからなぁ。肝に銘じよう」
そんな言葉を呟く流を二人は静かに見守っていた。
「でだ。対策なんだけど、何かいい案があるか?」
「〆:はい、それは用意致しております。古廻様があちらで過ごした結果、その『満足度』により解放されたのは今回は三つですね」
満足度とは何だ? と思っていた流は今の気持ちを素直に言ってみた。
「満足度ねぇ 俺は満足してるぞ? 特に〆を愛でたから今日は格別だ」
「〆:ちょ!? 古廻様! それをここで言わないでくださいまし!」
「壱:お~っと? 聞き捨てなりまへんな~、うへへへへ~」
「〆:ほら~愚兄が反応したじゃないですか……」
「聞きたいか壱よ? だが教えてやらん! 最高の時間だったからなぁ~」
「壱:そない殺生な~ちょっとでいいんや! 先っちょだけでいいがな~」
「お前は何の事を言っている、芸術を理解しない愚か者め」
「壱:はあ、古廻はんも酔狂でんな~。こんなんが芸術でっか? 大事な事だからもう一度いいまっけど、『こんなん』でっせ? 妹が、ねぇ? あ、なんでもありまへん、ほんま! ごめんなさい!!」
見ると〆がひな人形の袖からキラリと光るものをカエルの首筋に当てていた。
「それで俺は満足しているが、解放基準って何なんだ?」
「〆:そうですね、良い機会ですのでお話します。ここのある道具はご覧になりましたよね?
「ああ、それはもう穴のあくほど『ねっとりと嬲る様に』拝見したが?」
「〆:そ、そうですか……」
〆はひな人形の折り紙の頬を赤く染める。
「壱:何赤くなっとんねん、気色悪いっつ~――ぎゃああああ!!」
壱は口を金色の針で貫かれていた。
「〆:と、とにかくですね、ここに在る品には魂が宿っている物が多数あります」
「ああ、だから最初にここへ来た時、品を手に取ろうと思ったら拒否されたのか」
「〆:そうでしたか。多分鉾鈴へ誘導するためにそうしたのでしょうね」
「まあ分かる気がする……で、それがどうしたんだ?」
「〆:その魂が籠っている道具の多くは神化しています。つまり付喪神になっていると言う事ですね」
「それは以前に聞いた気がするが……え? まさか、俺の満足感では無く、その付喪神達が満足するかって事か?」
「〆:はい古廻様、慧眼でございます」
流は店内をぐるりと見渡す。
「ちょっと待て! お前らは俺を見て楽しんでいるのか!?」
――ざわり。
店内に不気味な声が耳と心の中に木霊する。
『ふぉふぉふぉ、お若いの。わし等も暇でのう~、楽しませておくれ』
『あはは! いいねいいね、その表情。何百年ぶりかに見る顔よのう』
『狐に騙されて可哀そうな子、私が慰めて食べてあげよう。魂までも』
『然り然り、妖刀に魅入られし狂った魂。さぞや甘露であろう』
『み、みんな! そう言うのは良くないよ、やめなよ』
『人の営み、さらに異世界と来れば最高の余興よの~だから、死んでくれぬか?』
『久しぶりの人間か。どれ、味おうてくれようか』
『下品な方々ばかりで嫌になる。いっそ〆様滅してくださらないかしら』
『くははは。擦り切れるまで楽しもうぞ』
数えきれない不気味な声が店内を支配する。流石の流れも圧倒されてしまったその時――。
「〆:それ以上の古廻様への暴言、万死に値するぞえ? 今より一言でも腐った言葉を発すれば、その矮小な存在を滅すると知れ――。
そう〆が魂も凍てつく言葉を発した瞬間、店内は水を打ったように鎮まる。
「〆:古廻様、大変失礼をいたしました。まさかあのような愚かな事を言い出すとは思わず、私の落ち度にてございます……」
「い いや、気にするな。一番驚いたのはお前の変わりようだがな」
「〆:っ!! 恥ずか……しいです……」
そう言うと〆は器用にひな人形の頭を下に向けた。
するといつの間に復活したのか壱が同意する。
「壱:まったくや、つまらんミスしよってからに。だから言うとんやないか、兄より優れた妹などおらへ――ぎゃあああああ!!!!」
見ると壱は口と脳天に金色の針が打ち込まれていた。
「まあなんだ、口は悪いが愛すべき骨董達じゃないか……たまらん! お前らもそのうち愛でつくしてやるから楽しみにしとけよ?」
〆は遠い目をしたような口調で一言呟く。「口は災いの元」って言うのは本当なんですからと……。
「そう言えば〆。ふと思ったんだがお前はここの番頭なんだろ? じゃあ自由に解放条件を変更出来るんじゃないのか?」
そう誰もが思う事を聞いてみるが、〆は折り紙の首を器用に横にふる。
「〆:はい、そう出来たら良かったのですが、異界を超えるには相応の神の力が必要になります。そしてそれらは一柱一つと『理』により定められています。ですので、私個人では他より大きいですが、一つの力しかありません。
「理? 以前も言っていたが、それは何なんだ?」
「〆:そうですね、例えば……てい」
〆は一言「てい」と言いながらひっくり返っている壱を蹴り飛ばす。するとヒラヒラと下に落ちていった。
「〆:これが理にございます。重力に魅かれ落ちる魂もまた理、空を飛ぶ鳥も理、光があれば闇もまた同時にあるのも理、そしてそこの『無様にひっくりかえってるカエル』もまた理にてございます。
それはお前がやったんじゃないか! と流は思ったが、口には出さない優しがある漢に隙は無かった。
「つまり自然の摂理や物理現象みたいなものか? そしてそれを無視したのが例の人形って訳か……」
なるほど、と流は納得して確信に迫る。
「……と言うと、一つの物に対して一柱と言う事では無く、許可をするのに一人一票みたいな感じで、何かを持って行くには一定数の許可がいると?」
「〆:その通りでございます。異界を超えると言う理を無視した現象を、神の力の一つとして行使する事で可能となります。それを無視して渡る事は可能ですが、双方の世界に多大な被害が出る可能性があります。ですので、忌々しいのですが、この愚物共の協力が必要になってしまうのです」
「まあ、別に〆のせいでは無いのだから仕方ないさ。それより、そこのひっくりカエルが痙攣したままだけど、大丈夫なのか?」
その後、復活した壱を交え、三人で打ち合わせをしてから異世界へと旅立つ用意をするのだった。
今回持って行く荷物をまとめ、いざ異超門を開錠しようとすると、奥から因幡がトテトテと走って来る。
「お客じーん。もう行ってしまうのです? 寂しいのです……」
「またすぐに来るよ、今度あのニンジンを作っている村へ行く事になったから、その時にまた沢山買ってくるからな?」
「わ~本当なのです? 楽しみだな~」
そう言うと因幡はピョンと一回跳ねた。
「あ、そうなのです。これを持って行って欲しいのです」
そう言うと因幡は、背中に背負っていた唐草模様の風呂敷を流に渡す。
「これは?」
「ボクが作ったおにぎりなのです。温泉に入って、お腹減ってるかと思って作ったのです」
「お~! 因幡は気が利くうさぎさんですね。でも、よくそのモコモコのお手々で握れるなぁ」
「えへへなのです。ボクは直接握っているのではないのですよ? こんな風に作りたいな~って思うと作れる物が厨房にあるのです」
「そうなのか? 色々不思議すぎる場所だなここは……さてと」
流は荷物を背負いなおすと、店内を見て挨拶をする。
「それじゃ行ってくる、皆またな!」
「〆:古廻様なら、必ず成し遂げると確信しております。ご武運を」
「お客人行ってらっしゃ~い。無事に帰って来るのですよ~」
流は美琴を腰に佩き、片手を上げながら異界への門を超えて行く。
新しく記憶したポイントは正常に認識したらしく、異超門は流が先程出発した屋敷の中に繋がっていた。
落ち着いて良く見ると、この部屋は屋敷の食堂らしく、長いテーブルがそのまま置かれていた。
「さてと……今はまだ日も高いな。異怪骨董やさんと、こっちの世界では時間の流が違うのか……?」
屋敷の出口へ向かう。行く前に放置したメリサの姿は無く、広々とした空間だけが広がっていた。
そこで流は健康手帳の中の人? の言葉を思い出す。
「時間もまだ少しあるようだし、剣筋をもう一度浚っておくか。美琴、おかしな所があれば教えてくれよ?」
腰の美琴はふるりと震えそれに答える。
「まずは受けからの三連っと……」
これまで使った業を順に浚って行く。その見事な剣舞のような動きに、もし観客が居たら息を呑んだだろう。
そのまま続けると、不思議とこのエントランスホールに立ち込めていた、雑草が手足に絡まるが如く、鬱蒼とした淀んだ気が吹き飛んだかのように感じる。
そのまま他の業や他の型との連携を上げる練習をしてから、冒険者ギルドへと流は向かった。