表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

269/539

268:愛しのあなた

「さぁ始めましょう。その生命が燃え尽きる前に……おいでませ異世界への扉」


 弐は封座の体を貫くと同時に絶妙に施した治療術で、指一つ動かすことが出来ない状態だが、今すぐ即死するほどにはしなかった。

 封座は朦朧とする意識でそれを睨みつける。それに気がついた弐は以前と変わらぬ優しい視線で、封座を見つめると静かに語りだす。


「これは〝魔法陣〟と呼ばれるものです。西洋の魔術とこの魔方陣に貴方様の〝妖魔を封じる血〟と言うか……鍵鈴の魂の継承者が必要だったのです」

「……な゛に゛を……言って」

「ごめんなさいね。ここまでこの子が墜ちた理由を知り、私はこの子の境遇があまりにも不憫でしてね。それに人と言う存在にも疑問があった所でしたの」


 それを睨む事で返事とする封座。


「あら怖い。でも貴方様の事は今も大好きですよ? でも、本当にこの子はかわいそう……今の貴方よりずっと、ずっと、ね。ですから私を恨んでも、この子は恨まないであげてくださいね」


 そう弐が言い終わると同時に、魔法陣に魔力が充填され立体的に浮かび上がる。


「まぁ!! 本当に上手くいったみたいね。これで時空神の目も欺けると言うものかしらね? それと申し訳ないのですが、ここに貴方の神気を注ぎ込みたいので使わせていただきますね?」


 弐は悲しそうに封座にそう告げると、血塗れの右手より白金の神気を開放し魔法陣へ少しづつそそぐ。

 それはまるで命の水を乾いた砂漠へと吸わせるように、魔法陣へとながし込む。

 やがて不思議な文字列の一つが光り輝くと、その隣、斜め前、対面と、次々文字の光が輝き出す。


 しかし輝きがますにつれ、封座は力が奪われるのを感じる。それにより弐がやろうとしている事の全容を理解した。


(そうかよ……そう言う事かよ……俺の封印の力で『(ことわり)』を騙そうってんだな? ついでに時空神も巻き添えたぁ恐れ入る……だがなぁ弐)


「鍵鈴を舐めるなよおおお!!」


 残された力と命、全てを使い封座は「抜かれた神気」を遠隔操作する。

 神気というものは、汚れなき一点の曇りもなく、練り上げた気に神を降ろす事で初めて使えるものだ。

 だがそれはとても不安定なものであり、封座ほどの実力者ならいざ知らず、他の者は神気を練ることすらとても困難であった。


 その神気に対して封座は「怒気」をながし込む。弐の手からこぼれ落ちている白金の光の糸は、瞬間濁り赤くなった。

 すでに魔法陣に描かれている文字の九割九部が発光しており、残りの一文字が空いている。


「封座様っ!?」


 封座がすでに動けないと確信していた弐は、まさかの行動に驚愕する。

 が、時すでに遅く、一変の汚れがない神気は「怒により汚染」されてしまう。

 さらに儀式を中断することが出来なない状態で、最後の一文字が赤く光り弐は美しい顔を歪める。


「がはっ……はぁはぁ、どうだ弐ぁ……こいつで、てめぇらが何処に逃げたが『(ことわり)』にばれちまうなぁ?」

「くっ……貴方様というお方は本当に……。ふふふ、これだけ一緒にいても見誤っていましたか」


 そう弐が話した時だった。突如空間がに亀裂が走るが、瞬時にそれが回復する。それが何度も繰り返した後に、無機質な声が響き渡る。


≪【警告】 ソノ行為、ハ。 到底認メラレルモノデハ、アリマセン。 今、スグ、儀式ヲ中断、シナサイ!!≫


「見つかってしまいましたか……こうなっては仕方ないですね。不完全ですけど、今更ですね……」


 弐は諦めた表情になると、封座の元へとやってくる。そして血塗れの右手で封座の頬へ触る。


「封座様、これまで本当にありがとうございました。今でも本当に愛していますよ」


 そういうと弐は、封座の吐血で真っ赤な部分へと唇を重ねる。数瞬時間が止まったかのような錯覚の後、弐は鮮血したたる唇を妖艶に光らせながら離れる。もはや増悪の対象としか見えないはずだったが、一瞬心が奪われてしまう。


 だが――。


 ちょうどその時、下層から戦闘音が響き「封座様はいずこにおいでか!?」と声が聞こえてくる。どうやら下層の敵を排除した双牙達が駆けつけたようだった。


「ふぅ……やれやれですね。愛しの旦那様との最後の別れを邪魔するとは……『(ことわり)』も双牙も犬に食われて死ねばいいのに」

「ぺっ……誰が旦那様だ。もぅてめぇは鍵鈴の敵だぜ?」

「寂しいことを言わないでくださいな。それでは時間も無いので失礼します。あの世への良き旅を心よりお祈りいたしますね」

「てめぇに言われると、地獄に行きそうだからやめてくれ」


 弐はそれに花の咲くような笑顔で応えると、人形と魔法陣の中央へと乗る。

 徐々に魔法陣の光が怪しく咆哮をあげるようにうなり始め、薄紅白色に染め上がった光に包まれる。


「さようなら鍵鈴封座様。鍵鈴家に幸があらんことを」

「うっせぇよ……さっさと行っちまえ……二度と面ぁ見せんな」


 外部では『(ことわり)』が狂ったように結界を破壊しているが、どうやら間に合いそうもないと思った封座は、弐へと悪態をつく。

 だがその心は未だに弐を愛しており、そのあまりにもマヌケな感情に笑いすらこみ上げる。

 

 そんな封座の気持ちが分かったのか弐は寂しそうに手をふると、まばゆい光の彼方へと消えていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ