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264:因縁の茶室

「こいつらは馬鹿なのか? なぜ巨滅の英雄は知っていて俺の名を知らない」

『まぁ、大抵の方は流様を巨滅の英雄って呼びますからね』


 それにしても以外とマヌケな奴らだと思いながら、先を読みすすめるが特に目新しい話はなかった。

 ただ疑問は「なぜこの街に古廻の者が来る」と予想出来たのか? と言うことである。


 後に知ったことだが、この世界に少数の()(たみ)と呼ばれる民族がいるらしい。

 特に東方にある国の人種らしいのだが、どうにも姓名が日本人としか思えない。そんな彼らは小国であり、鎖国をしているが、一定数の人間は他国で生活しているらしい。

 どうりでこの世界で、(じぶん)を見ても驚かないわけだとその話を聞いて思う。


 そんな状況もあり巨滅の英雄、つまり「コマワリナガレ」の名前で、気が付かれなかったと言うことだったのかもしれない。


「どう思う? この指示書では憚り者は、俺が異世界へ来るのを予想していたのは分かる。だがどうしてこの街だと分かったんだ?」

『私もよく知らないんだけど、むかし〆さんたちの敵だったそうだよ。そして異超門が開いた場所がこの近くの丘だった。それが関係してるのかも?』

「だな……。チッ、一刻も早くメリサの奪還へと向かいたいが、ここは一度〆たちに聞いたほうがいいだろうな」


 背中の話を聞いていた嵐影は、速度を早めて幽霊屋敷へと急いで戻る。少しでも早く主の願いを叶えるために。

 嵐影が急いでいたおかげで、予想より早く幽霊屋敷へと戻る事ができた流たちは、滑るように正門からエントランスホールへと入る。

 そこにはセバスをはじめ、使用人たちがそろっていた。


「セバス、至急三人と会いたい」

「はい、〆様は異怪骨董やさんへ戻られていますが、お二方は三階執務室にてお待ちしております」


 流はセバスたちに礼を言い、そのまま階段を嵐影に乗って三階へと急ぐ。

 執務室のドアの前に来ると、(しん)のとても大きな鎧の式神がドアを開く。


「お帰りやす古廻はん。あらかた報告は夜朔(よざく)から受けていまっせ」

「フム……で、ついに現れましたか?」

「ああそうだ。アイツ、憚り者が出てきた」


 その言葉で壱と参は顔を青くする。もっとも壱は赤い折り紙が青くなったのだが……。

 

「そうでっか……。古廻はん、一度愚昧のところへおいで願えまへんやろか?」

「そのつもりで来た。いい機会だから話してくれるな?」

「フム、そうですな。では異怪骨董やさんへと向かいましょう」


 流は異超門を開く。妙に凝った彫刻が施された障子戸をくぐると、そこは馴染みの異怪骨董やさんの店内だった。


「おっふ!? な、なんだぁ!?」


 異超門をくぐると、毎度のことながら一瞬ホワイトアウトする。その隙を狙って? かは分からないが、流へと抱きつく妙に柔らかい存在がいた。


「お客じいいいいん!! お久しぶりなのです!!」

「んあ!? 因幡か!! なんかまた大きくなってないか……一部だけ」


 見れば人化した因幡が以前よりさらに大きくなっていた。特に柔らかいところだけ……。


「お客人!? どこを見ているのです!! そ、それより無事で良かったのです。色々聞いて泣いちゃったから目が腫れてしまったのです」

「いや、それは白うさぎだからだろう?」

「酷いのです! でも本当の事だから何も言い返せないのです! ぅぇぇん」

「な、泣くなよ。悪かった! ごめんな? ほ、ほら壱なんとかしろ!」

「そんな無茶ぶりで僕にどうせいと!?」


 そんなやり取りを見ていたのか、店の奥へと伸びる廊下から雛人形の折り紙が、牛車の骨董品に乗ってやってくる。


「ハァ~。もぅ何をしているのですか。古廻様おかえりなさいませ、そして因幡も泣き止むのですよ? ほら、古廻様にお渡しする物があるのでしょう?」

「ぐすっ。そ、そうなのです。久しぶりに会えたので嬉しくて泣いてしまったのです」

「「「嬉しかったのかよ!?」」」


 思わずつっこむ流たち。その様子にさらに呆れた〆に店内の一室へと案内される。

 そこは茶室にしてはかなり広い、十畳ほどの落ち着いた茶室風の部屋だった。

 だがよく見るとそこは、流にとって因縁の場所とも言える。


「〆もまた趣味の悪い場所を選んだものだな」

「申し訳ございません。ただ報告からすれば、この部屋が適当かと存じます」

「そう……かもな。それでどこまで聞いている?」


 流が案内された部屋。それは流が「憚り者と邂逅した場所」であり、異怪骨董やさんの汚点でもあった場所だ。

 以前〆から壊滅的ダメージを受けた様子は無く、ただ柱の一つに【封弐】と札が貼られていた。

 その【封弐】札を左横に眺め、流を上座にして三人が横に並び、因幡は流の右斜め後ろに座る。


「あの不逞の輩……憚り者の手先と遭遇したと」

「その通りだ。そしてそいつが俺にこう言った。『お待ちしておりましたよ、古廻……いや、鍵鈴(けんれい)様』とな」


 その言葉で三人の表情は曇る。それは確実に古廻家の敵であり、異怪骨董やさんの不倶戴天の滅ぼすべき存在なのだから。

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