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258:子爵様

「あ~ら、こんな小狐に俺はやられたのか?」

「むむむ!? 失礼なヤツだワンねぇ。まぁ、あるじが許してるから、ワレも許してヤルンダワン」

「おっと、そりゃ失礼したねぇ子狐ちゃん」


 その後ワン太郎は不本意そうな表情を浮かべながらも、シュバルツが助かった理由を得意げに話し出す。

 どうやらあの氷の棺は「氷眠の棺」と言って、最大百年生きたまま保存し、その間にゆっくりと体を修復する事が出来るらしい。


 あの時、流に「頼む」と言われたワン太郎は、即座にこの氷眠の棺を思いつく。

 それは緊急で、止まれと言って止まるやつではない事からの判断だった。

 今回シュバルツは体表の火傷と体力の極限状態で、魔力がかなり少なくなっていたが、それでも高度な遅効性の回復魔法で自己修復中だった。

 さらに運が良かったのは、火傷に最適の封印治療術と言うこともあり回復がより早い。

 だがあくまで火傷と外傷をある程度治しただけであり、魔力や体力は無いのは変わらない、むしろ最低限まともに動けると言うだけであった。

 ちなみに失敗することもあり、中の対象者が死ぬと花が開花せず蕾が落ちるらしい。


「と、言うわけだワン!」


 二足で立ち上がるワン太郎は、得意げに短い右足で胸をポンと叩く。

 しかし予想より強く叩きすぎたのか、少しむせているのを見て何やってるんだ? と思う流である。


「あ~らまぁ。氷に閉じ込められたら、普通死ぬだろそんなん。アニキ、びっくり!?」

「ま、そういう事も出来るみたいだな。俺も驚いたが、一応コイツは王様らしいからな」

「そうなのか……。まぁ本当にありがとよ、子狐ちゃん。さて……」


 シュバルツは体を支えてくれている、イリスとラーゼを見ると一人で立ち上がる。


「アニキ、そしてナガレ。この後はオタクらの好きにして構わない。俺たちはもう観念するさ」

「……どうするナガレ? 今回はお前の手柄だ。憲兵に突き出すもよし、ギルドでコイツらの悪行からの賞金をもらうのもよし。処分はお前にまかせる」

「なに、考えるまでもないさ。生きるためにやってた事だし、聞いた話では恨まれる殺しとかもしなかったんだろ? 以前アンタと戦った後に、冒険者ギルドのサブマスが言っていたぞ」

「あ~ら、よくそんな事まで調べたものだな。まぁ、それでもゴミは斬り捨てたぜ?」

「それも聞いた、だが犯罪者だろ。その件は逆に賞金が出ると聞いたぞ? アンタの斬り口には特徴があるらしく、すぐに分かったそうだ」

「あ~ら、マジカヨ……悪いことできないな。アニキショック!?」

「まぁそんなわけでだ、アンタの境遇も知ってるし、商業ギルドのマスターが会いたがってる。だからその人に任せるさ」


 シュバルツはその言葉を聞いて苦笑いしつつ、「そうか、感謝する……」と一言呟くと、どかりと地面へ倒れる。そしてそのまま気絶するように眠るのだった。


「スマンなナガレ。この馬鹿が面倒をかけてしまって……」

「いいさ、アニキのアニキもこれで胸のつかえが取れたろう?」

「おいおい、お前までホント勘弁してくれよ。それと言うのも……」


 ヴァルファルドはイリスとラーゼの頭を〝ぽかり〟と殴ると、優しい目で語りかける。


「お前たちもよくシュバルツへ尽くしてくれた。今までの苦労、このヴァルファルドが生涯覚えておこう。感謝する」

「「ヴァルファルド将軍……」」

「よせ、それは捨てた名だ」

「「はッ! 承知しました、アニキのアニキ!!」」


 こめかみを抑えながら、ヴァルファルドは姉弟に〝ボガリ〟と二度拳を落とす。

 涙目になりながらも嬉しそうにしている、姉弟に苦笑いを浮かべてから流へと向き直る。

 流の配下らしい男女をチラリと見て、その手に資料を持っている事から大体の予測をしたヴァルファルドは、部下に指示を出し水塔と屋敷へ向かわせた。


「それでナガレ。この後どうする? こちらへ渡してもいい情報があれば頼む」

「そうだな。その事で俺も色々話したいことがあるんだ、まずは――」


 アルマーク商会が殺戮兵器を開発していること、死人(しびと)と言う不死者を使役していること。


 そして――。


「――と言うことは、その地下が聖域と呼ばれる程に清浄な空間であり、水源と聖域を守るためにナガレのその……ツクモガミと言う存在を宿らせて、崩壊を防いだと?」

「だいたいそんな所だよ。あのままならこの一帯は吹き飛んでいたかも知れないし、確実に水源が壊滅してただろうから」

「フム……。分かった、その件に関しては俺から領主様へ報告しておこう」

「助かるよ。それとやはりアルマーク商会はこの街の敵だ、さっき言った聖域から呪いを施し、この街の水脈からこの地の霊的守護を破壊しようとしていたみたいだ」

「なに? そんなモノがこの地下にあるのか?」

「ん~、地下と言うよりこの街そのものが、そう言う力に守護されている感じがする」

「そこまでか……」


 ヴァルファルドは自分がトエトリー子爵(・・)に呼ばれた意味を考える。

 ただの子爵風情に王国の近衛将軍が従うはずもなく、階級的にはヴァルファルドが上である。

 だがそれを全て捨ててやってきた。そしてトエトリー子爵にその価値がある事をヴァルファルドは知っていたからこそ、喜んで参じたのだ。


「分かった、宿った存在の事も俺がなんとかしよう」

「助かるよ、いつも世話になってばかりですまない……」

「それこそ気にするな。ここの領主様のためだ、あの方のためならなんの事はない」


 トエトリーの領主……それは流がこの街であった同族嫌悪のあげく、天敵とも呼べる存在であった。

 だが同じ娘(骨董品)を愛した同士であり、そこから氷解したとも言える男だ。

 そんなトエトリー領主のカーズは、今では流の心の友と言える存在。


「カーズか……あいつ元気してるかな……」


 その呟きにヴァルファルドは一瞬驚くが、流の顔を見てどうやら本当のようだと確信するのだった。

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