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024:折り紙は愚か者を許さない

「これは外から見るよりも遥かに広いな……」


 正面の扉を開けると、そこには洋館のテンプレとも言える広いエントランスホールがあり、正面にはオブジェをディスプレイするためか、大きな台座があった。

 その台座を挟むように左右から階段が半円を描くように二階へと伸び、ホールから二階は吹き抜けとなっている。


「この規模の屋敷が金貨十枚……いいのか本当に?」

「はい、それはもちろんです」

「それは助かる、ありがとうメリサ。お前のお陰だ」

「い、いぇ……そんな事は……」

「じゃあ俺はちょっと用事があるから、また近いうちにギルドで会おう」


(私のお陰……そ、そんな事言われても困っちゃう! どうしよう、ガンバッテお仕事しなきゃ! ナガレ様のためにも……って違うのよ、私! ギルドのためにお仕事するんでしょ!? でもそれがナガレ様のためになるんだからいいじゃない? って!? ああ何を考えているの私ったら恥ずかしいぃぃ)


「おーいメリサ? 聞いてるのかー? おーい?」

 

 メリサの顔の前で手をヒラヒラ振ってみるが反応が無い。


「なんだ? 事務的な性格だったのに、予想外のやさしさを見せたからプログムが暴走してCPUがフリーズでもしたのか?」


 ある意味合っているのだが、人を人と思わない流の言葉を、本人が認識出来ないのがせめてもの救いである。


「メリサー? おーい? だめだこりゃ。仕方ない、このまま放置して行くとするか。玄関前とは言え別に危険も無いだろうし」


 やれやれとメリサを数度振り返り確認するが、今だにそのまま動かず固まったままだが、このまま付き合っても居られないと、流は屋敷の中で良さそうな場所を探す。

 途中おかしな気配を複数感じたが、美琴が少し震えると気配が霧散した感じになるのが不思議だったが、丁度いい大きさの部屋を見つけたので、そこに異超門を顕現させて異怪骨董やさんへと向かった。



◇◇◇



「おーい、〆~。因幡~帰ったぞ~」


 するとピンク色のひな人形の折り紙が、金属製の牛が引いている牛車に乗って空中を飛んできた。


「〆:おや、古廻様お帰りなさいまし。本日は如何なさいました?」

「いや、それがさあ……」


 流はこれまでの経緯と、この後待っているイベントについて相談する。


「〆:そうですか……普通の大きさならまだしも、その巨滅級ですか? それはかなり巨大で、しかも防御力も高そうな感じですものね」

「そうなんだよ、だからいい方法が無いかと思って来てみたんだ。それとふと気になったんだが、お前折紙の時は文字はどうなっているんだ?」

「〆:ええ、一応内側に話していると同時に書かれていますよ? ご覧になります?」

「いや、何かいけない事をしている気分になるからいい……」


 何か乙女の日記を盗み読むような気分になった流は、そのまま話を続ける事にする。


「〆:時に古廻様、健康手帳はご確認しておいでですか?」

「それな! 忘れてたわぁ」

「〆:あのエセ関西弁が鬱陶しい愚兄の事を見たくないのはよ~く分かりますが、一応は役に立ちますのでご覧くださいましな」


 すると「呼ばれてないのにババババーン」と、イントネーションが狂った鬱陶しい声が聞こえたと思ったら、緑色の和紙がヒラヒラと舞い落ちて来た。

 落ちながら緑の和紙は違和感無く、カエルの折り紙に折りたたまれて囲炉裏のテーブルの上に立ち上がる。


「おい、お前が余計な事を言うから、何か鬱陶しいのが降って来たぞ?」

「〆:ハァ~噂をすれば何とやらですか。そこの赤々と燃える菊花炭の中に落ちて、灰すら残らず燃え尽きてしまえばいいのに」

「壱:ちょ! 待ちーな!! 二人してなんやねん! そらあまりに酷ないかい!? もう僕は傷ついたさかい帰ったる! 止めても無駄やねん!」


 流と〆はおもむろに出口を指差し――。


「「お帰りはあちらです」」


「壱:なんでやねん! ケッ、今日の所はこの辺で勘弁したろうか。で、古廻はん。健康チェックが最近ご無沙汰とはいけずでんなぁ」

「どこの雑魚の勝利宣言かと思ったがまあいい。ご無沙汰ってもなぁ……だってさ、健康手帳を見るには『あの言葉』を言わないとダメなんだろ?」

「壱:そら当然そうなりますわ。古廻はんもよ~くご存じの『様式美』ってやつですがな」

「〆:何の事です? 健康手帳は念じるだけで見れるはずですが?」


「…………」

「壱:…………」


「それを言っちゃ~」

「壱:おしめぇよ~」


「〆:ハァ~。それで話を進めますよ? まずは健康手帳を見せてくださいましな。

「そうだったな。ではあらためて……『ステータスオープン!』」


 すると流の前にA4用紙程の大きさの手帳が出現した。

 流は一仕事を終えた満足感から額の汗を拭う。

 壱もその見事な一連の動作に拍手喝采を送る。


「〆:何をしているのですか、マッタク。はあ~、何かどっと疲れました……」

「ロマンだよ浪漫。さて、これは……何だ?」

 手帳の中身はやはりと言うか、先の戦闘の結果からなのか変化があった。


――――――――――

【現在見れる健康状態】


生命力:平均的?        ←NEW

魔 力:未開放

攻撃力:平均的+やばすぎ

防御力:薄い本三冊分+妖刀の加護←NEW

魔法力:未開放

速度力:殺られる前に殺っちまえ!←NEW

幸運値:あらすごい


【魔法】

ーー未開放ーー


【特殊能力】

観察眼(上級) 気配察知(上級) 第六感(上級) 一撃必殺(初級)


――――――――――


 見るとステータスが成長? していた。

 生命力は「?」が付き、防御力には「薄い本三冊分+妖刀の加護」があり、速度力に至っては「殺られる前に殺っちまえ!」と、どこぞの山賊が言いそうな台詞が書いてあった。


「なあ〆。これ書いてる奴は馬鹿なの? それともBAKAなの? わけがわからないよ。どうしてA4サイズなのに手帳にこだわるんだい?」

「〆:そこの愚兄に聞いてくださいな、私にもさっぱりですね」

「壱:ちょ! 僕かて意味が分かりまへんがな。これを管理しているのは僕でっけど、勝手に更新されるんで困ってるんですわ~」


「管理者失格だな」

「〆:愚かな兄ですみません」

「壱:愚かな僕ですんまへん」


 ひな人形と、カエルの折り紙が器用に頭を下げた。ちょっと可愛い……。


「しかし前から疑問に思ってたんだが、一体何が『平均的』なんだ? 誰と比べて平均なんだこれは?」

「壱:それは僕も疑問に思ってましてん。こう言ってはなんやけど、古廻はんの力は向こうの世界で一般人より遥かに高いと感じますねん。ここ数日見ていてそれは実感出来たよって、それは間違いあらへん。

「そうなのか? だとすると一体誰と……」

「〆:それに『現在見れる』と言う件も気になりますね。はっきり申しますと、この手帳の内容は私達が知らない情報ばかりです。本来ならば数値で表示されるはずでしたが、こんな曖昧で意味が不明な表記にはなるはずがありませんでした」


 壱もそれに頷き続ける。


「壱:そうでっせ。僕も古廻はんが最初に健康手帳を呼び出した時に、質問に答えられない所があったのは、これが原因の一つですよって」

「お前達まで分からないならどうしようもないな。そう言えばこの手帳を触った事が無いな、浮いてるだけだし……」


 流はそう言うと何気ない動作で手帳に触れた瞬間〝ゾロリ〟とする妖力が立ち込める。


「ん? 何か変な感じがする……のか?」

「〆:……あ! 古廻様、忘れておりました。少しお疲れの様ですし、この後戦闘があるのでございましょう? それに万全で臨んでいただけるように、因幡にお風呂の準備をさせていましたので、疲労回復と気力を補充してきてくださいまし」

「いや、そこまで疲れていないが……」

「壱:ああ……そうでんな。古廻はん、風呂場で因幡が耳をなが~くして待ってますよって、行ってあげてや。それにその包みの中身も渡すんでっしゃろ?」


 あまりに二人がすすめるのと、因幡へのお土産を早く渡したい事もあり風呂場へと向かう事とする。


「そうか? じゃあ少し入ってリラックスしてくるか」

「〆:はい、その方がよろしいですよ。たぬ爺も喜びますからね。後、もう少し健康手帳を調べてみたいので、このまま置いてくださいましな。

「ん? それはいいけど、たぬ爺ってあれか? 別にそっちは待ってなくていいんだけど」

 

 そう言いながら流は手帳を触った手が気持ち悪いのか、手を数度振りながら風呂場へ開いた回廊に消えて行った。

 

 そして回廊が閉じた瞬間――店内の様子が激変する。壁は石牢のようになり、品は消え失せ、囲炉裏すら無くなっていた。

 その何もない空間の中心にある「健康手帳」に対し、火縄銃が縦横十段にずらりと整列し標準を狙い澄ます。


「お前には何でもないような事かも知れんが、我らにとっては流様に対するお前の愚行は敵対行為そのものだ」


 火縄銃群の中心部分に玉座のような物があり、そこには細身で燕尾服を粋に着崩し、大抵の淑女が惚れそうなチョイ悪風な顔付きに、無精だがヒゲを小奇麗に整えた顔立ちの四〇代程の男が居た。

 その男は脚組をしながら片肘を付き、対象を見下すように魂すら凍てつく眼光で睨みつけている。


 そして更に最悪なのが――。


「キサマ……ここを、いや。流様に対する狼藉と知っての事かえ? 返答次第によっては、未来永劫地獄すら生温い狂気の責苦を味わう事と知れッ!!!!!!!!」


 常人なら見ただけで「恐怖に擦り潰されて体はおろか魂ごと滅ぶ」程の滅殺気を放ちながら、そこに不釣り合いな傾国の美女が居た。


 深紅の艶やかな絵踏衣装に身を包み、金髪より尚明るい長髪を靡かせ、切れ長の目は黄金色に輝き、瞳孔は縦に黒く割れている。

 頭部には大きな耳があり、背後には太く荒ぶる黄金色の尾が九本蠢いていた。


 絶対的な――終焉。


 それ即ち『死、そのものが顕現』した姿だった。

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