246:生粋の国産モノ
「なんつーか……亡霊なのに生き生きとしていて逆に怖いんだが」
「い、嫌ですね。怖くないですよ、ほら、ここにも元気な私がいるし!」
流はジットリと美琴を見つめると、すこしドンヨリとした表情で頷く。
「……今更だったな。もっとおかしな幽霊がここにいるしな」
「うぅ。本当のことだけに言い返せないのが悲しい」
「さて冗談はここまでだ。この後どうする?」
「そうですね……まずはあの者、才蔵を呼んでみますか。才ぞ――」
「はっ! 姫様! 才蔵ここにおりまする!」
美琴が才蔵を呼ぶ刹那、突如背後に男が現れる。
その出で立ちは黒装束に頭巾をかぶり、目だけ露出し、それを怪しく光らせる。最早誰がどう見て忍者だった。決してNINJAではなく、生粋の国産物だ。
「うぉぁ!? NINJAだと!?」
「はぁ~。普通に出てきなさいと何度言えば……」
こめかみを押させ、頭をふりふりしながら頭痛を紛らわす幽霊を尻目に、男は話し出す。
「チチチ、大殿。発音が違いますれば。それがしは『忍者』でございます。『忍者』です。大事なことなのでニ回言いました」
「あ、すみませんでした……って、違う!! 冗談言っている場合じゃないんだって、今は――」
そう流が言いかけた時、どこからともなくカラスが飛んできた。だがそのカラス、明らかに生物ではなく、おぼろげな黒い影のような不気味なものであった。
不気味な影のようなカラスは、およそカラスとは思えない声で〝ジャアア〟と一鳴きする。
「姫、死人の痕跡を見つけたとの報告が入りました。これより才蔵めが先行いたしますので、大殿と姫は笹舟に乗ったつもりでご安心めされ」
「安心していいのかダメなのか、どっちなんだコレ……」
「だ、大丈夫です流様! 才蔵はこう見えても優秀な忍びなんですよ? 私を盗み出し、国一つ超えることが出来るくらいの力を持っています!」
「左様でございます。まぁ、途中で姫の怒りと呪いの双撃でめでたくここにおりますれば」
「……美琴の信徒は、全員おかしなやつばかりなんだな」
「ちょ!? やめてください、狂信者みたいな言い方は!! まぁ、あたっていますけど……」
「では大殿、私めの後にお続きを」
そう言うと才蔵は影カラスを腕から解き放つと、その後を追うように走り出す。
流もそれに続き、同時に美琴は悲恋の中へともどる。
『流様、一つ伝えることがあるよ』
「どうした?」
『今、悲恋はかなり力を落としているの。理由は三左衛門達を出しているからなんだ』
「あぁそういうものか……」
流は思う。確かに呪いの力が妖力へ変換されていたのは感じていたし、その力の根源が呪いそのものだと言うことを。
「しかしお前を始めとして、幽霊のくせにどうなってるんだ? 物を持てたり触ったり出来るなんて、おかしいだろう? 過去お前と母上殿とのやり取りで、不思議に思ってたんだが……」
『そうだね……私が一番特別だけど、その他の家臣達も普通の状態ではないの。一番わかりやすく言うと、生霊と思念の塊が濃すぎて具現化したって感じかな』
「つまり、死んでいるけど半分生きているみたいな感じか?」
『そうそう、流様は理解が早くて助かるよ。普通これ言っても意味が通じないんだよね。私達もどういう理屈かさっぱり分からないんだけど、なぜか持ったり触ったり感じたりが出来るの。唯一出来ないのが肉体が無いってだけで、生きているより自由に出来るから便利だね……でも……』
そう美琴が最後に言うと、悲しい感情が悲恋を通して流へと伝わってくる。
なんとなくその意味を理解した流は、腰の悲恋美琴を優しく〝ポンポン〟と二度叩く。
「でも触れ合えるだろう? 俺はそれで十分さ」
『そう……ですね。うん!』
「姫、いやらしい欲情はそこまでです。敵の索敵範囲に入りました」
『ちょ!? 誰がいやらしいんですか!!』
「ほら、静かにしろ。それでこの後はどうする?」
才蔵の案内した先には、緑色に輝く壁に囲まれた広めの空間へと到着する。
そこは水塔に相応しくないような空間で、とても美しい鍾乳洞のような場所だった。
『うぅ~。もぅ、才蔵のおバカ! で、どこに潜んでいるの?』
「はい姫。敵は目の前の光る壁の内部におりまする。入り口は――」
才蔵はそう言うと、手裏剣を投げる。どこから出したのかと疑問に思う流であったが、その手裏剣は光る壁の一角に当たると、〝ガゴッ〟と何かが外れる音のようなものして、人が三人並んで通れるほどの壁が下がっていくのが見える。
「あちらが入り口のようです。なお死人はすでに最下層へと到着しており、小物と見られる男と口論をしているとの事です」
「そこまで分かるのか……。やるな才蔵!」
「は! 忍者ですから。そう、忍者でござりますれば!!」
「あ、ハイ。ってお前のこだわりは分かったから行くぞ!!」
そのやり取りを美琴は見て溜息を吐くが、肉体が無いと言うことの意味を思うと心が少し痛かった。
なぜ今こんな大事な時にと自分の心の動揺に驚きながらも、目の前の敵に意識を集中する事にする。
「階段になってるのか……。罠はありそうか?」
「いえ、ございません。強いて言えば、死人に気がつかれたと言うことでしょうか」
流は「そうか」と一言呟くと、通路全体が緑色に発光する階段を慎重に下りていくのだった。




