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245:九条三左衛門

 流は走りながら懐に手を入れ、石亀の置物を取り出しそれに話しかける。


「さっきは礼を言えなかったが、ありがとう助かったよ」

『良かったね、堅亀の守りを持ってきて。今頃亀さんはどこにいるのかな……』


 先程、流を守った緑の球体の正体――。


 それは「堅亀(けんき)の守り」と言う中からは攻撃可能で、外からは使用中は完全防御できるが、動けないのが欠点の骨董だった。また、内部からの攻撃後は、一定の時間でその力が消失するので、使いどころが難しい骨董でもある。

 

 強力な守りの力を行使するため、使用後は中の付喪神が契約を解除し、その後は好きに行動出来ると言う条件での守りの力だった。

 なので今はただの石の亀であり、また別の付喪神が合力(ごうりき)してくれるなら再発動が可能となる、使い切りの骨董品である。


「ッ!? 崩壊が進んでるな……」


 足場にしている水路と並んでいるパイプが突如破裂し、内部の水が勢いよく吹き出す。

 さらには水が行く手を遮りはじめる――が。


「今なら問題ないッ!!」


 左横から高圧で吹き出す水を避けるため、足場のない右の空間へと大きくジャンプした流は、そこにある壁を蹴って水を躱し元の水路の上へと戻る。


『よくあの距離を……ますます人間離れしてきましたね』

「違いない。自分でも驚く……」


 途中何度か同じような状況に遭遇しながらも、身体能力と美琴の斬撃で難なく回避してエスポワールを追う。

 だが向かった方向は分かるが、水塔の構造が不明なのと、内部が迷路のようになっているので道に迷う。


「くそ……どっちへ行ったんだ。美琴分かるか?」

『ごめんね、よくは分からないかな』

「ワン太郎がいてくれればな……あいつ、うまく救助出来たかな」

『ワンちゃんは大丈夫だよ、だって王様だしね。あ! それで思い出した! 流様、私を床に刺してみて』


 突然の美琴の提案だったが、一瞬の迷いなく床へと突き刺す。

 すると美琴が抜け出し、悲恋に手を添えると〝ゾゥ〟っとした妖力を開放する。

 それはまるで――。


「ウォ!? そ、それは〝呪い〟か!?」

「うん……本当は嫌だけど、流様も覚悟を決めた以上、私も嫌だなんて言ってられないしね」

「そっか……美琴、ありがとう」


 それに美琴は苦笑いを浮かべて答える。そのドス黒い本流にはよく見れば〝顔〟が付いているのが見える。


「美琴さんや、何か顔のようなものが見えるが……」

「あはは、やっぱり分かるよね……これはね、私の『家臣』達なんだよ」

「家臣って、お前の家来って事か?」

「そんな感じかな。昔、悲恋に取り込まれた魂たちの成れの果てだよ……。私が覚醒してから、開放しようとしたんだけどね、なんか嫌だって言われて――」


 その言葉が終わらないうちに、顔の一人が実体化して話し出す。


「姫!? またそのような世迷い言を! 我らは貴女様に忠誠を誓い、未来永劫忠実な下僕にてございます!」

「ナンカ暑苦しいのが出たぞ!?」

「おおお!? 貴男様は姫の主人!! つまり我らの大殿と言うことでございまするな!! ワシは三左衛門と申す。昔々、姫を手に入れようとして、呪い殺された馬鹿者でござる! これからもよしなにお願いし申す!!」

「あ、ハイ……」


 あまりの暑苦しさに思わず真顔で答える流。ふと見ると、美琴はこれまた苦笑いに一筋の汗を浮かべていた……幽霊なのに。


「こ、こんな感じで私の話を何百年も聞いてくれないんだよ。だから諦めたの……」


 美琴は遠い目で壊れた壁から空を見る。


「ハッハッハ!! さぁ、姫! 我らにご下知を!!」


 いつのまにか、見ればかなりの人数が実体化していた。

 実体化した人物たちは実に多様であり、武将や陰陽師のような出で立ちから、坊主や浪人や商人までいた。

 その代表格の男、三左衛門は老練の武士であり、右目に刀傷が勲章のようにある男であった。

 よく見れば、亡霊たちは清々しい実にいい笑顔でこっちを見ている……コワイ。

 流は思う。「お前ら呪い殺されたのにいい笑顔だな!!」と。

 それを見た美琴は、「はぁ~」と溜息一つ。


「コホン、いいですか皆さん。何度もいいますけど私は姫でなく美琴です! 分かりましたね?」

「「「はっ!! 承知いたしました姫!!」」」

「どっかで見た光景だな……」

「と、とにかくです! 今は緊急なので、あなた達と馬鹿をやってる暇はないのです! いいですか、この水塔のどこかに私より少し年増で、む、胸の大きい娘さんが囚われています。一緒にいかにもな小物臭い男もいます。それを見つけ出してください」

「ハッハッハ!! 姫は胸が小さくてございますからなぁ」

「な!? 叩き斬りますよ三左衛門!!」

「おぉ~怖や怖や……して、此度の敵はこの肥溜め臭さすると……」

「ええ、予想通り死人(しびと)です。ですから『いつものように』……ね?」

「ハッハッハ!! それは腕がなりますわい! 承知いたしましたぞ姫! 者共、姫様の仰せじゃ! 久しぶりに狩りを楽しもうぞ!!」

「「「姫様の仰せのままに!!」」」


 そう一斉に叫ぶ亡霊たち。よく見れば後ろの方に先日美琴に呪い殺された盗賊の顔があり、隣の侍に思いっきり頭を殴られて教育されていた。色々哀れだ。

 三左衛門は亡霊たちの返事に、実に満足そうに頷く。


「では参る!! 散ッ!!」


 三左衛門の号令一つ、その瞬間亡霊たちはおぼろげな存在になり消え失せたのだった。

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