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242:悪党を超えた悪党

 流は美琴を刃の後ろ、峰から口に咥えながら浮上する。水昇双牙に斬られたせいで、水位が下がり始めたゴンドラから急いで這い上がる。

 そして目的の人物が斬られていないことを確信し、その斬撃が飛んでいった方向を見た。

 視線の先には余裕の表情が消えた男、エスポワールがこちらを睨みながら、隣のゴンドラの上にいた。

 どうやら無事のようだが、服はあちこち破れており、それなりにダメージは入ったと流は思いながら隣のゴンドラへと移り飛ぶ。


「やってくれましたな……古廻様。危うく落下してしまうところでしたよ」

「それは良かった。いや、残念と言うべきか? そのまま落下してくれれば、話しは早かったんだがな」


 お互いともに何時飛びかかる隙があるかを(うかが)う。

 なぜか先に動いた方が殺られる……そんな緊張感が狭いゴンドラの上で濃密に広がった。

 そんな緊張感を壊すように、流は何を思ったのかポツリと呟く。


「疲れたな。そう言えばさっきの話しだが……王貨五枚と言うと、日本円にして大体五億か……まぁ、悪くないな」

『ちょ!? 流様あああ?』


 流は美琴を納刀すると、おもむろにエスポワールへと差し出す。モチロン美琴は大激怒である。


「おお!? なんと考え直していただけましたか!! 商人として機を見る目がお有りですね。では早速お預かりして……ん? ふ~む……ですが……匂いますなぁ? その妖刀……祟りますなぁ?」


 騙されそうになったエスポワールは、喜びの表情から一転して苦々しくにらみつける。

 そんなエスポワールを流は見ると、呆れたように返事する。


「まぁ~うまくいったら、ラッキーくらいに思ってみたんだがな……残念だったな美琴。せっかくお前の一番得意なワザを出せると思ったのにな」

『やめてください! もうそう言うのは、店仕舞したんですから! 多分』

「ふ~む、やはり危険な代物でしたか……危なく騙されるところでしたよ」

「それは残念……」


 ここまでのやり取りで、エスポワールは驚くほど隙を見せない。

 流は思う――「敵に隙がないならば作ればいい」と。そして「計算通りに納刀」した美琴を左手に持ちながら――。


「――ジジイ流・抜刀術! 奥義・太刀魚!!【改】」


 なんのアクションもなく、いきなり太刀魚を放つ。本来なら上位の【極】を使いたいところだが、あれは美琴の妖力と混合業であり、行った瞬間見破られるだろう。

 だから今回は、ノーアクションから使える最高の斬撃として妖力を圧縮した【改】を選ぶ。


「くうううううううッ!? 卑怯なああああああああッ!!」

「悪党に言われると最高の褒め言葉だ」


 銀鱗の光を()きながら、太刀魚は舞い襲う。突然の事に驚きの表情を張り付かせたエスポワールへと、太刀魚は獲物を噛み砕く(アギト)で斬り割く。

 

 曲刀での防御が一瞬遅れたせいもあり、左手に向かう太刀魚はそのままエスポワールの左上腕あたりから斬り飛ばす!

 たまらずエスポワールは飛び退き、苦痛に喘ぐ――と思いきや。


「やはりな……。お前、人じゃないな?」


 左腕を失った事で、大ダメージから勝負ありと思われたが、驚くことに左腕を無くしたまま平然と立っていた。

 そしてそれを知っていたかのように、エスポワールをジット見つめる流。


「ククク……ハア~ハッハッハ!! その通りでございます。いつからお気づきで?」

「うちのワンコの鼻は特別性でな。最上階へ入る前に気がついていた。そして戦っている最中に気がついた。お前の動きは明らかに『人を超えた動き』だと言うことをな」


 そうなのである。エスポワールの動きは明らかに人のソレを超えていた。

 驚くことに、あのシュバルツを凌駕すると言ってもいい、速度とパワーだったのだから。


「ふ~む、さようでございますか。やれやれ、あの子犬も侮れませんなぁ」

「それで……お前は何者で、一体何が目的だ?」


 ゴンドラは横運動から、縦に動きが変わり下方へと下るコースに入る。

 メリサまでの距離はまだ十分追跡可能であるが、焦る気持ちを落ち着かせ目の前の得体の知れない男へと視線を戻す。


「なに、簡単な事でございますよ。わたくし達アルマーク商会は貴方様の敵……そう、不倶戴天の敵……と、言う間柄でございますれば」

「ならどうして、俺を抱き込もうと?」

「それも簡単な事でございますよ。一番厄介な敵を味方と出来たら、それはさぞ快適でしょうからなぁ」


 そう言うとエスポワールは左手で髭を撫で――ようとしたが、無いことに気がつく。


「ふ~む……長年わたくしめの相棒だった左腕が無いのを忘れておりましたか」


 残念そうにそう言うと、エスポワールは曲刀で落ちている左腕を突き刺す。

 それに驚く流であったが、一瞬たりとも気は抜けなかった。

 いや、逆に先程より隙がなくなった。だから攻撃する事をやめ、今は敵の出方を待つ。


「と、そろそろ残念ではございますが、そろそろ今回は終幕とさせていただきます。あの小物が、娘さんに何かしないとも限りませんのでな」


 エスポワールは突き刺した左腕を〝ブン〟と上に放り投げた瞬間それは起こった。

 放り投げられた腕は、まるで意思があるように指がウネリだし、赤黒く光ったかと思えば、あっという間に巨大化してくる。


 やがてそれは手の平の部分が昆虫のような形状に変化し、腕部分が人の形になってくる。

 そう、その形はまるで――。


「ク、クモ人間かよ……」

 

 思わず絶句する流が見たのは、アラクネーのような下半身クモで、上半身がエスポワールの気色悪いバケモノがそこにいたのだった。

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