240:アルマーク商会・トエトリー支部長
「キャアアアアア!?」
「メリサッ!!」
流は瞬間走り出し、メリサの元へと向かう。そしてその手がメリサまで残り二メートル――。
「ぐぅ!? 何だこれは!!」
「ヴぁあがあめええええ!! ごれでギザマヴぁこっぢへ来れヴぁい!!」
突如現れた水の壁。それがウォーターカッターのような鋭さで行くてを阻み、
流の歩みを止める。
それを確認した流は、即座にワン太郎へと指示をだす。
「ワン太郎!」
「承知!!」
ワン太郎は水の壁めがけ氷結させるが――。
「くッ!? あるじ、駄目だワン! 凍ったそばから吹き飛んでしまうワンよ!!」
「氷狐王になればいけるか!?」
「いけるけど、この場の全員が凍死するワン!」
「くぅ……やってくれたな、アルレアン子爵!!」
その言葉にアルレアン子爵は、吹き飛び欠けた前歯を見せつけ狂ったように嗤う。
「ギャヒャヒャヒャヒャ!! 馬ガめぇぇぇぇ!! ぞごで死ぬヴぁで後悔ぢでど!! 来い女!!」
「や、やだ!! こっちに来ないで!?」
「ふ~む、小物ながら良い仕事をしました。褒美にまだ生かしてあげましょうか……ほら早く脱出しなさい、娘がいる場所を起点に、水圧で下がるギミックなのでしょう、それ?」
「グッ!? ど、どぼぢでそれを!?」
「知らないのは小物のアナタのみ。それを開発したのは我が商会ですよ? やれやれ馬鹿の極みですね、ホント」
「ぐぞっ!! なら逃げるまで時間がせぎをしろ無能!!」
「ふ~む、自分より下等な存在に言われても腹が立ちませんなぁ。さ、おいきなさい。下で私の部下が待っておりますれば」
「そうはさせるか!! ジジイ流・肆式! 四連斬!!」
一撃集中型の肆式に妖気を目一杯込め、力が分散しないように四連にとどめて水の壁を超えるようにしながら、アルレアン子爵へと四連斬を放つ――が。
〝ガガガガギゥイン〟
硬質な音がしたと思えば、そこにはアルマーク商会の幹部とも言える男がいた。
そのトエトリー支部長のエスポワールは、たしかに水壁の外に元々いたが、だからと言って四連斬を……しかも一撃集中型と言う高威力タイプの連斬を防げるとは思えない、が。
「アイタタタ、恐ろしい威力の連撃ですなぁ~。流石は巨滅の英雄と言ったところですかな?」
「……邪魔だ、どけ。今はオマエと遊んでいる暇はない」
「ふ~む、つれませんなぁ。それに今回の事で判明した貴方様の事で、あの娘には使いみちもありますれば、このままお付き合いくださいませな。それに、先程のお答えもいただいておりませなんだ。ご返答はいかに?」
「……三度は言わない。どけ」
叫ぶメリサと、嗤うアルレアン子爵を乗せたまま、円形状の床が徐々に降下していくのが見える。
エスポワールは尻目にそれを確認すると、流へ向けた濁らせた目を、愉悦に浸るように歪ませ、左人差し指を立てながら〝チッチッチ〟三度口を鳴らす。
「ナガレ様!! 私のことはもういいです!! どうか、どうかケガしないでください! お願い、無事でいてください!!」
「待ってろメリサ! 今すぐ助けてやる!! だから退けエエエエエエッ!!」
流はエスポワールへと渾身の一撃で斬りかかる。しかし――。
「ふ~む。これが答えですかな? やれやれ……存外、巨滅の英雄も馬鹿の類といったところですかな」
そう言いながら、流の斬撃を腰から抜いていた曲刀で笑いながら受け止める。
その間にも床は下へと落ち進み、やがてメリサの顔しか見えなくなる。
「やかましい、だからそこを退け!!」
「ですからそれは無理でございますよ。それに、いいのですか?」
その直後だった。鈍い衝撃と音が体を揺らし、水塔の崩壊が進んでいるのが分かる。
「ほら、あの獣人の姉弟を助けなくてよいのですか? まだ息もありましょう?」
「ッ!? ワン太郎、頼む!!」
「で、でもあるじ一人で大丈夫かワン!?」
「問題ない、頼んだ!!」
その言葉を聞いたワン太郎は、駆け出しながら「分かったワン」と言いながら部屋を出ていく。
それを邪魔しようともせず、見守るエスポワールは流と自然に距離を取る。
まるで楽しげに遊ぶように、曲刀を曲芸のようにクルクルと回してから、流へと向け煽るように言い放つ。
「さぁ、邪魔者はお互い消えました。十二分に楽しもうじゃございませんか、死闘と言うものを……ね?」
「ヒィ!? 管理官が逃げ出したぞ! 俺たちも脱出するぞ! 資料は持てるだけ持っていけ!!」
「ふ~む。無粋……あまりにも無粋ですなぁ」
エスポワールは左手で数度、目の前に刀印を切ると、その空間に『滅』と現れる。それを逃げ出すアルレアン子爵の部下達に投げつけると、赤黒い炎に包まれて絶叫の中燃え尽きた。
「やれやれ、水を差されましたな。さ、仕切り直しといきましょうぞ」
『……流様。気をつけて、アイツが嫌な気配の元凶だよ。それに、あの印は〝滅外道〟と呼ばれるもので、邪法師が好んで使う外法だよ』
「ほほう!! よくご存知ですなお嬢様。そう、これこそ日ノ本から伝わった外法でございます。しかしそれは妖刀ですかな? いやはや、なんとも悍ましいモノをお持ちだ」
「黙れ、俺の美琴を侮辱するな外道が!」
流はそう言うが早いか、真横に一閃し斬りかかる。だがエスポワールは太った体と思えない体捌きで、美琴を下からすくうように打ち上げた。
さらにガードが甘くなった流の腹めがけ、印を切りながら「滅」の文字を左手の甲に浮き上がらせた手刀を放つ。
それを妖力の小手でガードしようとした刹那――。
『ダメ!!』
美琴が叫んだ事で、とっさに背後へと倒れるようにして、手を使わずにバク転をしながら回避する。
左手に少し痛みを感じ、見れば妖力の小手が爛れるように溶けており、そこから火傷のようなキズが見えたのだった。
本当にいつも読んでいただき、ありがとうございます! もし面白かったらブックマークと、広告の下にある評価をポチポチ押して頂いたら、作者はこうなります→✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。
特に☆☆☆☆☆を、このように★★★★★にして頂けたら、もう ランタロウ٩(´тωт`)وカンゲキです。
ランタロウの書く気力をチャージ出来るのは、あなた様だけです!