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023:魚介系が美味しいのは鉄板です

「は~あ、全く酷い目にあったな。しかしまた夕方か~。面倒な事を勢いで言ったが、またあの変態紳士と会うのか……憂鬱だ」

 

 ふと流は腹が減っている事に気が付く、街中からも食事の支度をしているのか、あちらこちらから食欲を刺激する香が漂っていた。


「よし、腹減った! 確かこの先の広場で屋台が所狭しとあったな。そこで飯にしよう!」

 

 そう思い立った流は足取りも軽く広場へと向かった。

 中央広場に来ると、威勢のいい呼び込みがあちらこちらで聞こえ、タイムセールのような事からセット販売まで色々な事をしている。


 特に面白いのが野菜の実演試食と通行人が話しているのを聞き、早速その屋台へと向かう。

 どのような物かと流も興味をそそられ黒山……いや、この世界では金髪が多いので、金山の人だかりとも言うべき後ろから野菜売りの屋台を見る。


「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! こんな野菜見た事あるかいお客さん? なんとこの野菜は肉なんだ! 何を言っているのか分からないと思うが、言っているオイラも分からない。あ! そこの人、石を投げるのは止めておくれよ! まずは百聞は一見に如かず、試しに一口食べてみたい人は手をあげておくれ! もし肉の味がしなかったら金貨を贈呈しちゃうよ~さあさあ誰か居ないかい?」


「俺が試す! 食べさせてくれ!」


 流は迷うことなく立候補し、人だかりをかき分けて屋台の前に来ると、そこにはどこかの絵本で見たようなモフモフのウサギの獣人がいた。


「ウサギだ!」

「え? ウサギですが何か?」

「あ、いやスマン。ちょっと興奮した」

「妙な性癖をお持ちですね、そんな事より早速食べてみてくださいよ。ほらほら」

「よし、どれがその肉野菜なんだ?」

「肉野菜炒めみたいな言い方やめてくださいよ、えっとコレですよコレ!」


 ウサギの獣人が出したのは真っ赤なニンジンだった。香はニンジンそのものであるが、味が肉と言う事だが……。


「これニンジンだよな、まあ食べてみるか! ん……お? おおおお!? 肉だ!! しかもニンジンなのに汁気がたっぷりで、その肉汁がジューシーすぎて美味いぞこれ! ニンジンだけど」


 観客も興味津々で沸きあがる。


「でしょう? 最近品種改良に成功した意味不明なニンジンなんですよ。別に毒とかは無いですよ、王都の食品衛生局に調べてもらいましたからね」

「確かに意味不明だな。他にも種類があるのか?」

「ええ、ありますよ。今日持ってきたのは三種類で『肉味』『イチゴ味』『魚味』ですね」


「また肉以上に際どいワードが一つあったが、まずイチゴ味を試させてくれ」

「はい、どーぞ。砂糖をかけて食べると一層美味しいですよ~高いから無いけど」

「砂糖無いのかよ! まあいい。う~ん、これもうま~い! 上品な甘みが奥深い酸味とコラボして、イチゴ本来の味を一層引き立てている! ニンジンだけど」

「でしょ~? お客さん分かってるね~。さてはプロのニンジン家だな!」

「なんだよプロのニンジンって……野生の白菜みたいな強烈なインパクトがあって、ちょっぴり怖いぞ」

「確かに野生の白菜って響きはちょっと怖いね……」


 周りのお客も想像したのかウンウンと首を上下している。


「じゃあ最後に魚味をどーぞ」

「ふむ、魚か……刺身みたいな感じか? どれ――ブッフォ!! 生臭っさ!! おい、ご店主! これはまずいぞ!」

「そりゃそうですよ、火にかけましょうよ。肉は生で食べれるのがありますけど、魚は生で食べる人はそうは居ませんよ」

「そういう事は早く言え!!」

「まったく酷い目にあった……あ、そうだ。このニンジンならお土産に丁度いいな。ご店主、魚はいらないから、肉とイチゴを十本ずつくれ」

「えええ!? こんな野菜買ってくれる人が居るなんて驚きだな」

「お前は何をしにここに来たんだ? ん? 言ってみろ!」

「あ、そうでした。毎度あり~お客さんは神様です」

「安い神様だな」


 観客も頷いている。そんな客達を眺めながらニンジンを包んでいるウサギの獣人に、流は気になる事を質問する。


「まだ色々種類があるのか?」

「ありますよ~。今日は持って来てないけど、村には色々あるんですよ。特にメロン味なんかオススメですね。クッソマズイ魚味なんかと違って、それはもう最高に美味いですよ。正に神がかっている美味さですね!」


 『『『じゃあそっちを持って来い!!!!!!』』』


 流と観客から総突っ込みを入れられてしまうウサギだった。

 

 ウサギのニンジン屋さんから品を受け取り、今度村へ行くと約束して他の屋台へ向かう。

 おまけでくれたイチゴ味のニンジンを齧りながら歩く。とても遠くから「お客じーん」と可愛らしい声が聞こえた気がした。



◇◇◇



 ニンジン屋さんの近くにある屋台から適当に買い込んで、流は広場の周りにある公園に行ってみる。


 すると今まで屋台が多すぎて気が付かなかったが、広場の中央に縦長で、先端が尖っている独鈷所どっこしょのような形のオブジェがあり、その周りから噴水が吹き上がっていてとても美しく綺麗だった。

 噴水を囲むようにある芝の上に腰を下ろし、屋台の品を食べながら今夜の事について考えて見る。


(たしか巨滅級と言ったか? 難易度は酋滅級より低いらしいが、プの場合は実力よりも運と機転で勝った感じだからな……異怪骨董やさんから、こっちへ戻ってすでに一日は経過したな。万全を期すため一度帰るか。それに早くニンジンを渡してあげたいしな)


「さて、どこに異超門を出したものかね……それなりに広い部屋なら何処でも出せるんだが。あの宿じゃ無理だしなぁ」

 

 いい場所がない物かと思案しても所詮は来たばかりの流に分かるはずもない。

 なら分かる奴に聞けばいい! と真っ当な考えに至り、ファンを探すために商業ギルドへ向かう。


 商業ギルドは昨日と同じく静かだったが、職員が流を見つけると、足早にメリサへ流の来館を知らせるのだった。


「お待たせしました、ナガレ様! 本日はどのようなご用件で?」


 お前誰だよ? と真顔でツッコミを入れたくなるほど「明るい笑顔で小走りにかけて来る」出来る女がそこに居た。

 某改築番組の匠も匙を投げる、そんな無理な改築・・・・・を遂げたメリサにドン引きしつつも、冷静に会話を続ける。


「ちょっとファンを探して居てな。あいつが今何処にいるか知ってるか?」

「ファンさんなら先程お帰りになられましたが? 何でも今夜それなりの商いと、別口で大儲けになると興奮しておいででしたからね」

「今夜? そっか。なら仕方ないな……じゃあメリサ、今すぐ用意できる物件はあるか? 部屋の広さは――」


 流は異超門も大体のサイズから部屋の広さを伝えた結果、すぐに用意出来るとの返事があり、流石商業ギルドだと舌を巻く。


「メリサは顔がとても綺麗だし、スタイルも抜群な上に仕事も出来るんだから未来のギルド長候補だな。その性格さえ直せばな」

「……え。私がキレイでスタイルも良い? そんな事、言われた事ないです……」


 元が良いのに性格が悪いため、これまでそんな事を言われた事が無かったメリサは、男性に免疫が全く無かった。そんなメリサに流の素直な言葉が心にクリティカルする。

 だからその後の言葉が聞こえてなかったのだが……。

 しかし直接言われたことが無いだけで、裏では「メリサポーター」なるファンクラブがある事を本人は知らないし、世の中には知らない方がいい事もあったりする……だって変質者ばかりだし。


 美しい物や、心に来るものを素直にストレート表現する流の天然っぷりに、今日も被害者が一人追加された瞬間だった。


「じゃあ案内してくれ、急ぎなんだ。よろしく頼むよ。……メリサ? 聞いてるか?」

「――っ!? あ、ハイ! それでは向かいましょう、ナガレ様!」

「? どうした顔が真っ赤だぞ、風邪か? 大事にしろよ」

「はぃ……気を付けます」


 突然の不意打ちの連続でメリサは心ここに有らずでフラフラと案内するのだった。


 ギルドの馬車に乗りしばらく町を進むと、通称「お屋敷街」と言われる所へと案内される。

 お屋敷街を進むと一番奥に、かなり大きな三階建ての屋敷が見えて来た。


 周りを石壁に囲まれており、魔法的な結界が張ってあるらしく、進入は困難との事だ。

 屋敷の形としてはこの時代にしては前衛的な感じで、屋敷の中央には円筒状の塔があり、とても目立つ。


「ナ、ナガレ様着きました。ここのお屋敷なんですが当主が不正を働き、捕えられた事で今は空き家になっています」

「いわく付き物件か……まあいいか。少し使ってみて良かったら買い取りたいが可能か?」

「はい、ナガレ様ならギルマスの公認が受けれると思うので問題なく」

「じゃあとりあえず一ヶ月貸してくれ、代金はいくらだ?」

「えっと、月に金貨十枚になります」

「え!? それは安すぎじゃないのか? この大きさと庭までついているのにか?」

「はい、それもナガレ様だけの特別待遇です。えっと……わ、私とギルマスの連名で何とかしたいと思います」

「おいおい、無理するなよメリサ。お前が居なくなったら俺が困るんだからな?」

「アゥ!? はい、大丈夫です……」

「顔が真っ赤だぞ? 風邪は万病の元って言うから早めに直せよ? あ、そうだ。のど飴があるから舐めるといい」


 流は荷物の中にあったのど飴を差し出すが、メリサは受け取らない。仕方が無いのでメリサの手を握り、その手のひらに飴を渡すと屋敷の中へ入っていった。


「手を……うぅぅ、こんなはずでは……あ、待ってくださいナガレ様~」


 チョロインを通り越してダメインまっしぐらのメリサが誕生した瞬間だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] Twitterから来ました! 自然な文体で読みやすいし、分かりやすくていいですね! それとウサギとの掛け合いが笑える(≧▽≦) メロン持ってこいで草生えた( ╹▽╹ ) [気になる点] …
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