238:裏切りは突然に
流は途中に姉弟が無残に折り重なって気絶している姿を一瞥し、中央塔の階段を上る。
これといった抵抗もなく、流は最上階へと着いた……が。
「何だ……静かすぎるな」
「でも中にいるワンね。しかも……」
ワン太郎は無駄に良い嗅覚で匂いを嗅ぎ取る。そしてコテリと首をかしげると、流へとその内容を話す。
「何か変な匂いがするんだワン。むぅ? よく分からないけど、あるじ~気をつけるんだワン」
『……何か嫌な感じがするよ。油断しないようにね』
「変な匂いに嫌な感じ? 分かった、油断なく気をつけるよ」
両開きで倉庫の扉のような外見のドアを押して入る。そこでなんの抵抗も無く中へと入ると……。
「ナガレ様!!」
「メリサ! 無事だったか!?」
「はい! 私は無事です! こんな危険な場所まで来てくれて本当に嬉し――」
「ハイ! ハイ!! 無駄なおしゃべりはそこまでにしてもらおうか、巨滅の英雄殿?」
メリサの声を遮るように、大げさなジェスチャーで邪魔をする男は、いかにも貴族然とした身なりの良い男であり、その隣にはその貴族の部下達が数名。
そしてアラブ人が着るトーブのようなものに、かなり太めのパンツをはいている、アリババの盗賊団コスプレのような、いかにも商人と分かるような風体の男がいた。
「……そうか、おまえがメリサをさらった馬鹿ってわけか。そうだろう、アルレアン子爵?」
「クッ……馬鹿とは随分な言いようだな。どうだ、ここは一つ手を握らないか?」
「…………言ってみろ」
「そ、そんな!? お待ちくださいナガレ様!!」
驚くメリサに気を良くしたアルレアン子爵は、両手を大げさに広げながら流へと迫り、左側にいる男、エスポワールを憎々しげに睨みながら語りだす。
「ハッハー!! 巨滅の英雄殿は馬鹿じゃないらしい。私はそこの男、アルマーク商会に『騙されて』このお嬢さんを攫ってしまった。そう、手違いだよ。私もこんな事はしたく無かったんだがなぁ……分かるだろう? オォ~! 大事な事を忘れていた、今回そのアルマーク商会の男、エスポワールから『無理やり』掴まされた大金の二割……いや、三割やろうじゃないか! お前が一生かかっても見たこともない金額だぞ? どうだ、いい話だろう?」
アルレアン子爵は高らかに笑い、実にいい笑顔で流へと握手を求める。それに答えるように、流もまたもっといい笑顔でそれに答えるために手を伸ばし――。
「ナ、ナガレ様!?」
「よ~し、分かればイインヂャヴァァァァァヅァ!?」
「チッ、まるで腐った肉袋を殴った気分で最悪だ」
「ぐう゛あぁぁぁッ!! キ、キ、キキサマ何をするだあああ!?」
農民のような口調になっている男、アルレアン子爵を流はそれなりの力で殴る。
思いっきりいきたかったが、良くて首の骨が折れるだろうと思い、加減しながら殴ったことに苛立ちを感じる。
メリサが座る椅子の隣にある装置に頭を打ち付けてながらも、怒りのあまりその痛みを忘れたかのようにアルレアン子爵は立ち上がり、その感情をそのままぶつけた。
「何をって、頼まれたからな。ギルドの奴らに鉄槌をってな」
「キキキキサマアアアアアアッ!?」
怒りのあまり失神しそうになる小物、アルレアン子爵は周囲を見渡す。いた! この屈辱を全力で払う最高の道具が。
奥歯が折れ、左頬をトマトのように真っ赤にはらした顔で嫌らしく嗤う小物は、手の届く距離にいる娘、メリサへと向かい懐から無駄に装飾が豪華で実用性が無い、宝石が散りばめられたナイフを取り出すと、ゆっくりとメリサへと向ける。
「うごくらああああああああああああああ!! ひひか、こへは脅ひじゃなひ! 一歩れもうご――ギャヴャ!?」
「いいか、一度しか言わないからよく聞けよ? 動くと殴る、話せば殴る、視界に入れば殴る。そう……殴殴だ」
謎の言葉「殴殴」と言う、眼の前の男が何を言っているのか分からない。だから思わずアルレアン子爵は口を開く。
「ふざけるな!! わらひをだヴぁわばああああ!?」
「これはバーツさんの怒りだ」
「ヴぁがやヴぉああああああああああ!!」
「これは商業ギルド職員の怒り」
「いでがあああああああああああああ!?」
「これは俺の怒り」
「ヴぉうやヴぇろぶうううううううう!!」
アルレアン子爵はサンドバッグのように、殴られては「氷の壁に押され」戻ってくると、流の鉄拳制裁を食らい続ける。
その怒りが、これまでメリサが受けた苦痛を再現するように続く。
「そして……お前のせいで道も歩けないエルシアの怒りと、目の前でメリサを攫われた深い悲しみ」
「ヴぉうやべでえええええでヴぃぎゃああああああああ!?」
「「「か、管理官!?」」」
アルレアン子爵は、流の強めの一撃で天井付近まで浮き上がり、そのまま落下して無様に落ちてくる。
そして――。
「最後にこいつが囚われの身なっているメリサの深く、そして大きな悲しみと怒りを、その腐った面に刻み込め!!」
「グギャアアアアアアアアアアアアアアヴォ!!」
落ちてきたアルレアン子爵の顔面に、怒りを込めた一撃を放つ。
もはや人の顔かと思うほど膨れ上がった醜い顔は、ますます酷いありさまになりながら、近くに積んである箱へと吹っ飛んでいったのだった。
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