２３５：俺の嫁えええええ!!
「あ～ら、相変わらずの手癖の悪さにアニキ、困惑」
「なに、まだまだ奥の手はあるさ……本当だぜ？」
「それがウソじゃないのが分かっちまうのが、経験ってヤツかねぇ～」
そう言うとアニキは魔力を愛剣に喰らわせる。その剣は一見普通の剣だった。
そう、あえて特徴を言えば「特徴がないのが特徴」であり、素人が見たら安物の剣にすら見えた。だが今、アニキの剣に変化が起きる。
「ナガレ！ 妖刀と言ったか？ たしか昔話で聞いたことがあるヤバイ剣だろ？ だが俺の剣も似たようなものでな、コイツの名前は〝魔剣ドーデス〟と言う。少々お目覚めが悪いのが玉にキズってやつでな……さぁ熾きろ……紅々と燃え盛る炎の穀潰し!!」
瞬間それは起こる。紅々と燃え盛る炎の粒が、空間から止めどなく現れると魔剣ドーデスへと吸い込まれる。それが次々と起こり、熱量が増大し近づくことすら困難な状態だった。
だが一番近くにいるシュバルツは、少し辛そうな表情だが火傷のひとつもなく、剣をナガレに向ける。
『ア゛ア゛ア゛!? シュバルツ～てめぇ、性懲りもなくまた俺サマを呼び出したのか？ 死にてえのかテメェ？』
「あ～ら、そう云うなよ。ひさっしぶりの感動の再開じゃないか？ それにほら、お前昔言ってたろう。お前と同じ娘と会いたいってな」
『アン？ ッ!? マジカヨオオオオオオオ!! オイオイオイ！ そこの気持ちわりい人間？ が持ってるキミイイイ!! 俺と結婚してくれねーか？ いや、今すぐしようそうしよう!!』
『え゛!? それって私ですか？』
ドン引く美琴と、それを見て困惑する流。だが魔剣ドーデスはそんな事をお構いなしに美琴へアピールする。
『そうだぜハニー!! 今すぐそいつをブッ殺して、俺サマのモノにしてやるからな？ ヒャッハー楽しくなって来たぜ!! おい、シュバルツ！ 早くソイツを斬り殺せ!!』
「あ～ら、やる気を出してくれたようで何よりだ。しっかしナガレ。お前の剣も話すのか？」
「あ、あぁ。俺もアニキの剣には驚いたが……。そうだ、この悲恋美琴は話すし本体もいる」
その言葉にシュバルツは内心驚愕する。この魔剣ドーデスを呼び出し、それを目覚めさせるだけでかなりの魔力を使い、それを維持するだけで大変だと言うのに、目の前の漢は苦もなくそれをしているように見えるのだから。
（あ～ら……こいつはマジで死んだかもしれねぇなぁ……なんつぅヤバイヤツなんだよ。神様、毎度のことながら恨むぜぇ……）
そんな事をシュバルツは考えながらも、流を攻撃するためにさらに魔法を重ねる。
「第五魔法術式開放！ 複数使用同時キー『アルヘヤート』発動!!」
シュバルツの背後に魔法陣が浮かび上がると、それが立体に広がり四つになる。
「〈タフネス・アーマド〉〈シャープネス・ソード〉〈エアリアル・ブーツ〉〈バーサスト・ガンレット〉四方より来たりて、敵を打ち倒せ!! ダナ・クライシス!!」
「ツゥ!? 何だ？ 何をしたアニキ!!」
シュバルツはそれにニヤリと口角をあげると、流へと告げる。
「コイツは俺のとっておきさ、まぁ見ての通り色々ヤベー制約付きだがな」
その言葉通り、シュバルツは玉の汗を額から〝ポタリポタリ〟ながす。どうやら魔剣と魔法双方に魔力を持っていかれて辛いようだった。
『ヒョ～！ シュバルツてめぇ本気か？ いいねいいね、早いとこ気持ちわりい人間をぶっ殺そうぜ!!』
「あ～ら、そう急くなよ……体もだんだん馴染んで来たところだ……イクぞ？」
シュバルツは踏み込む！ が、これまでと違い、その姿が見えないほどの速さで流へと迫る。
咄嗟に美琴の刃先を斜め左下にしてガードするが……。
『キャ!? は、離してよ！ 気持ち悪い!!』
『だ～めだぁ。お前は俺サマの女になるんだからなぁ～』
魔剣ドーデスは炎を伸ばし、美琴へと絡ませる。それを見た美琴は気持ち悪さに萎縮してしまい、本来の斬れ味を無くしてしまう。
「チッ、俺の美琴に触るんじゃねえええ!!」
瞬間、流は自分の妖力を美琴に注ぎ込み、魔剣ドーデスの汚い手を払いのける。
『うぉ!! 痛ってぇなゴラアアアアアアアア!!』
「美琴！ 呑まれるな！ 格はお前のほうが明らかに上だ!!」
『っ、はい！ ごめんなさい流様！』
「あ～ら驚いた。ナガレ、お前なんつー力を隠してるんだ？ ますますやべぇじゃねえかよ」
「クゥ、そういうアニキもなんだその力と剣の鋭さは!! さっきとまるで別人じゃねーかよ!?」
二人はそう言いながらも、踊るように剣戟を積み重ねる。
流は美琴で連斬を放つと同時に、シュバルツも魔剣の力を使い連斬を放つ。それがぶつかる刹那、炎が弾け飛び、一瞬シュバルツを見失った事に焦る流。次の瞬間!!
「あ～ら、頭上がお留守だぜ？ 天鳳流奥義！ 一刀爆炎斬!!」
魔法で足場を構築し、エアリアル・ブーツの魔法の効果もあり一気に流の頭上十二メートルほど飛び上がると、魔剣ドーデスの力で押し上げられた爆炎の一撃を頭上より放つ。
そのタイミングは恐ろしいほど完璧で、爆炎纏う一筋の溶岩のような斬撃が、確実に流へ直撃するコースに背筋が凍りつく……だが。
「美琴オオオオオオオオオオ!!」
『出来てる、使って!!』
美琴の妖力、そして流の妖力を合わせた白紫の妖力を込めた一撃を込めた一撃を撃つために、高速納刀をした後に片膝をつき頭上を睨む。真っ赤にギラつく溶岩の爆炎が迫るその距離、約四メートル。
ギリリと奥歯を噛みしめ、さらに妖力を圧縮すること、迫る爆炎三メートル。
髪の毛がチリリと焦げ始めること、迫るその距離ニ、五メートルで流は行動する。
「舐めるなアニキイイイイイイイッ!! ジジイ流抜刀術！ 奥義・太刀魚――【極】!!」
今度は過去に使った白鞘からではなく、悲恋美琴の鞘から抜刀された太刀魚は、その威力を惜しげもなく解き放つ。
開放された鏡面のような光を纏う二頭のドラゴンのような太刀魚は、白紫に輝く妖力を纏いながら真上に上昇する。
直後、二頭の鏡鱗のドラゴンと、爆炎を纏う溶岩がぶつかり合い拮抗する……が。
「グゥウウウウッ!? やっぱり駄目かよ!!」
『オイ！ もっと魔力を込めやがれ!! って――クソガアアアアア!!!!』
爆炎の溶岩を喰い破り、一頭の太刀魚が昇ってくると、魔剣ドーデスへとガッシリと噛みつきその刃を折らんと喰い付くのだった。
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