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232:小物は愉悦に浸る

「オイ!! アルマーク商会!! 話が違うではないか!?」

「ふ~ん……。まさか最新型のゴーレムが、あの体たらくとはねぇ。軍用に開発した自信作だったんですが、もう一度見直しますか」


 水塔最上階、その制御室で目を血走らせたアルレアン子爵は、魔具に映っている映像を指差し、アルマーク商会の関係者と思われる男へと詰め寄る。

 だがそんな事など意に介さないとばかりに、太めで腹をデップリとさせた男は、右の耳に小指を入れてほじる。


 見た目はいかにも商人といった服装で、全身白を基調としたダブついたフワリとした服を着ており、腰には商人らしくない曲刀のようなモノを()いでいた。

 年の頃は四十代といったところで、脂ぎった顔つきからのぞく瞳は薄汚く濁っており、歴戦の商人と言うのが一目で分かるほどだった。


 そしておもむろに黒い口ひげを撫でると、白いターバンを〝ポンポン〟と叩きながら椅子から立ち上がる。


「ふ~ん……アニキの出番が来ますなこれは」

「あ~ら……それは困ったね。アニキ、働いたら負けだと思ってるから!」

「いや、アニキほんと仕事してくださいよ。お陰で先日死にそうになったばかりなんですからね」

「そうだぜアニキ、俺が二人を背負って逃げなきゃどうなってたか。て言うか、アンタら口調が似過ぎなんすけど」


 そんな緊張感の無いやりとりに、アルレアン子爵は激怒する。


「ふ、ふざけるな!! 今がどういう状況か分かっているのか!? あの人形がやられたらすぐにここまで来るぞ!! 残りの階層も似たような戦力なんだからな!!」

「ふ~ん……そう怒るものではありませんよ。なに、すぐに片がつくでしょう、ねぇアニキ?」

「あ~ら、信頼厚い事に感涙の涙がとまりませんわ~」

「ふ~ん、そういう事は涙をながしてから仰ってほしいですなぁ……まぁ、給金の分だけ命……いただきますよ?」


 そう商人の男は濁った目でシュバルツを睨む。だがそんな迫力ある睨みも、シュバルツには暖簾(のれん)に腕押しで、飄々(ひょうひょう)と返す。


「あ~ら、アニキをもう少し信頼してくれてもいいんだよ? そんな目で見るなよ……アニキ、照れる」

「ふ~ん……まぁいいでしょう。そこのお二人、ちゃんとお目付けよろしくお願いしますよ?」

「「いつもの事なんで、任せてください」」

「ショ~ック! アニキ大ショック!! もっと信頼を持とうぜ?」

「「なら信頼を体で稼いでください」」

「あ~ら、辛辣になっちまってまぁ……ま、先日の借りもあるし、ここらで精算しようじゃないの」


 そう言うとシュバルツは腰に佩いだ剣の柄を、右手でコツコツと叩く。

 丁度その時、入り口のドアが開き気の強い女の声が全員の耳に入る。


「痛いったら!! そんなに棒で押さないでよ!」

「うるさい、おめぇに触れると殴られるんだからしかたねぇだろうが!」


 その光景を見て、あれほど余裕を失っていた小物、アルレアン子爵はゲスの笑みでメリサを迎える。


「よ~こそメリサ嬢! あなたがココにいれば、あの透明な何かも止まるでしょう! 実に、そう……実に安心できる保険だ、キミは素晴らしい!!」

「……なによ、その透明って?」

「あ~そんな目で見つめないでくださいよメリサ嬢。その美しいお顔が台無しですよ?」

「黙りなさい、この小物め! あなたはいいように利用されているだけだと、いい加減に気が付きなさい! そこのアルマーク商会・トエトリー支部長『エスポワール』にね!」


 その言葉でエスポワールはニヤリと微笑み、逆にアルレアン子爵は激怒する。


「こ、小娘がいい気になりおって!! もうこうなったらこんな女などいらんわ!! 誰か剣を持て! 私が斬り捨ててやる」


 困惑する配下の腰から無理に剣を引き抜くと、アルレアン子爵はメリサへと向けて剣を打ち下ろす――が。突如、右側から金色の刃が出てくると〝ギィン〟と音を鳴らし、アルレアン子爵の凶刃を受け止める。


「ふ~む。いけませんなぁ~、その娘は大事な人質……そしてコショウを生む金の妻鳥(めんどり)になるのですからね」

「キサマ!! 無能なばかりか、邪魔までするのか?」

「ふ~む……私が無能ですか、ならあなたはドブネズミと言ったところですかな?」


 そうエスポワールは言いながら、濁った瞳でアルレイン子爵を一睨みする。それに怖じ気付いたのか、アルレイン子爵は三歩下がり「うぅ……」と一言漏らしだまる。


「ふ~む……やれやれですね。小物なら小物らしく、黙って手のひらで無様に踊ればいいのですよ」


 そう言いながらエスポワールは「いけませんなぁ」と呟き、魔具の映像をジット見つめ始めるのだった。



 ◇◇◇



 流はワン太郎をチラリと一瞥する。四機の警備ゴーレムはすでにボロボロとなっており、どうやらワン太郎に遊ばれているようだった。


「こっちもそろそろケリを付けちまわねぇとな」

 

 コマのように回転しながら迫る下半身と、一定の距離を保ち魔法のナイフを撃ち込んでくる上半身。まさに攻守が絶妙によく、下半身を斬ろうと思えば、上半身のナイフに邪魔されるといった状態だった。

 そこで流は妙案を浮かべる。片方が邪魔するならば、両方を叩けばいいんじゃないかと。


(下半身は8の字で動き、その中心に来る時ヤツらは重なる。ならばッ!!)


『三・ニ・一・今!!』

「ジジイ流・薙払術(ていふつじゅつ)! 岩斬破砕(がんざんはさい)!!」


 流の行動を読める美琴が、タイミングを合わせることで岩斬破砕を撃つ事に集中する。

 狙うは敵ゴーレムコアたる、魔核二個の同時破壊! 先のムカデ型ゴーレムで学んだ流は、このタイプはまた分裂ないし、なにか面倒な事が起こるかもと思い、同時に破壊する事にした。


 その結果、岩をも粉々に破砕する斬撃は、見事に二つの魔核へと着斬する。次の瞬間、ピエロ型ゴーレム二体は動きを止め、全身にヒビが入ると爆散するように砕け散ったのだった。

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