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022:「スレイ」vs.「スレ-」

「じゃあ早速始めるわん、黄狼三匹……いくわよん?」

「はいよ~」


 なんとも気の抜けた返事をする流に見学者達も固唾を呑む。


 直後、魔法陣から黄狼が三匹這い出て来るが、これまでとは違いジリジリと後ろへと下がって行く。


「あらま、何事かしら!? アナタ達! ちゃんとお仕事しなさい!」


 ジェニファーの叱責を受け黄狼達は一塊になる、そして一列になって流へと疾走しだす。


「あ~美琴さんをアイツが馬鹿にするから~。やっぱり怒ってるのを動物は分かるんだろうな。 丁度よく一列か……弱点は眉間だしやってみようかね」

 

 流はおもむろに美琴を抜刀すると、右足を後ろへと下げて中腰になる。

 さらに美琴の刃を上にし、それを水平に構えて刃を後ろへと引き、刃と流の顔が隣り合わせになる。

 迫る黄狼達。距離が残り五メートル程になってから左手を前に出し、中指と薬指の間だけをVの字に開き、黄狼の眉間をその指の間に捉える。


 黄狼が射程に入るまで残り三メートル……二……一!


「ジジイ流刺突術! 間欠穿かんけつせん!!」


 ――本来、この間欠穿と言う業は敵に直径五センチ程の穴を穿ち、その穴を貫通させた背後から血液が間欠泉の如く、勢いよく噴き出す事から命名されたものだった。しかし今「現実に起こった」事は――。


「………………は?」


 流が放った間欠穿は狙い通りに先頭を走る黄狼の眉間に吸い込まれた。

 その直後〝ゾウン〟と言う形容しがたい音が響き、そして全員が目撃する。


 先頭の黄狼が左右に真っ二つに割れ、それが連鎖するように背後の二頭にまで波及すると、まるでドミノが倒れるようにパタリ、パタリと割れた三匹が倒れた。

 その直後、割れた黄狼達から勢いよく血飛沫ちしぶきが吹き上がり、正に地獄の間欠泉がそこにあった。

 

 その場に居た全員があまりの惨状に驚愕して誰も動かない、変態紳士のジェニファーちゃんすら口をあんぐりとしている始末だ。

 しかしその結果に一番驚いたのは、業を放った流れであるのは言うまでもない。


「えっと……俺ってばワンちゃん愛好家なんだけど、手を噛むワンコの躾はちょっと厳しいほうなんだ……テヘ」


 いたたまれない雰囲気に流は、頭をかきつつ愛嬌いっぱいにワンコ大好きアピールをする。


 だが人の世は無常なものだ。練習場で練習していた他の冒険者や、気が付けば流が初心者テストをすると聞きつけて見学しに来ていた冒険者達は一斉に叫ぶ。


 『『『 ちょっと厳しいってレベルじゃねーぞ!!!!!! 』』』


 あまりの非道なツッコミに泣きそうになりながらも、流はどこかで聞いた知恵を拝借する。


「そんな事を急に言われても……」

『『『今言わないで何時言うんだよ!!!!!!』』』

「そんな事も分からないのか!! 心配するな、俺も分からない」

『『『だよな!! ワハハハハハハ』』』


 そう言うと流と観客(?)達は笑いあっていた、これぞ奇妙な友情と言えるのでは? と、流は一人満足する。

 そんな流と観客を見て初心者達は心底疲れたように呟いた。


「何を言っているのか分からん……そこ、笑うところ??」

「この人達は何で笑っていられるのか分からない……」

「全くだな、ああ、全くだな……」

「ナガレさん凄い……」

「あ、あんな奴に俺は負けてない! そうだろレイナ!?」

「ひゃあ、あんな攻撃私のファイアサークルじゃ防げないね」


 そんな混乱を冷静に見つめる紳士はステッキを握りしめると、流に向かって言い放つ。


「君は何者だ? もう君は実力的に三星級は超えてるな、どうだね。ここでもう一戦してみないか? 次に出す怪物を倒せたら巨滅級の称号をプレゼントしよう」

 

 流はそんな紳士に真顔で返事をする。


「何者もなにも善良な商人だが。って言うか誰だお前は? 俺のジェニファーちゃんを返せ! いや、やっぱりいらな――」

「まあ! まあまあまあ! ミーを欲するボーイに巡り合える日がついに来たのね! なんて欲望に濁った眼で私を見るのかしらん、本当に汚らわ素晴らしい! 実にイイ! 運命を感じるわ、もうビン★ビンよん!」


 この日の夜、流は心から湧き出る涙で枕を濡らす事を確信した。異世界はクーリングオフが出来ないのだと、そして口は災いの元であると知って大人の階段を一つ登ったのだった。


「さて、どうするのかしらん? 無論このまま三星級の称号だけで終わりにする事も可能だけどん?」

「称号はさておき、俺に運命を感じないでくれ。まあ……当然やらせてもらおうじゃないの。その巨滅級って奴を、な?」


 そう流が不敵にジェニファーちゃんに指を指し、そう宣言すると練習場は活気立つ。


「ロンリーボーイならそう来ると思ったわん! あ、もうすぐミーとイッショに冒険するんだからロンリーは卒業ね、うふふん」

「いや、ジェニファーちゃんを返品するので、さっきの紳士を返してください。切実にお願いします、いやマジで」


 不敵な男はすぐに萎れた事を懇願したのだった。


「ここはある程度広いとは言えるけど~強度的に心配があるわん。そこでボーイにはこの後すぐじゃなくて、夕方頃にまたここへ来てちょうだいねん。その頃にはここの強化も終わらせておくからん」

「幼気なボーイの頼みはさらっとスルーですか、そうですか。ああ分かりましたよ、夕方に来ますよ!」

「あはん♪ ぢゃ、そう言う事でまた後で会いましょう」

「出来れば会いたくないが仕方ない……」


 戦闘よりも精神的にヤラレタ流は、夕方の事を思うとガッカリする。


「あっと、ボーイがあまりにも持って行ったから忘れそうになったわん。他の参加者達の評価を発表するわん」


 流以外の参加者も思わず忘れていたので全員静かに聞いていた。


「えーっと、まずはチーム『殲滅し隊』は二星級に合格よん」


 三人はヨシ! と拳を掲げる。


「次に『ドラゴンスレイヤー』ねん」

「違う! ドラゴンスレーヤーだ!」

「あらん、それは失礼。じゃあそのスレーヤーちゃんは一星級合格よん。二星級への挑戦権は獲得したから、次の実力テストの時にいらっしゃいね」

「な!? どうして俺達はダメであいつ等やナガレの奴はいいんだよ!」

「だめね~ダメダメ。それが分からないからこそ不合格なのよん」

「同じ数倒しただろうが!」


 すると周りの冒険者達がカワードへ苦言を投げつける。


「それが分からんと死ぬだけだぞ小僧。そこのバケ……ゴホン。ジェニファーちゃんは見た目はアレだが超一流の冒険者だ。そいつが言うんだ、間違いないし、俺達もそう思うぞ? だから大人しく精進しとけ」

「そうよ、私達もあのバ……コホン。ジェニファーちゃんに何度助けられたかしれないのよ? 大人しく言う事を聞いておきなさい。じゃないと死ぬわよ?」


 カワードは苦虫を噛み潰したような表情になりその場を後にする。


「み、皆さん、すみません! うちの馬鹿が礼儀知らずで」

「本当に申し訳ない、心より謝罪します」


 レイナとリリアンが申し訳なさそうに謝り、それを先輩冒険者達は快く受け入れる。


「ああ、気にするな。それより組む相手は選べよ? 命に係わるからな」

「だねぇ。ま、分からない事があれば教えてあげるよ。分かる範囲でね」

「皆さんありがとうございます。じゃ失礼しますね」


 そう言うと二人は頭を下げてカワードを追って行った。

 それを見た殲滅し隊と流も続いて練習場を後にする。


 その後ろ姿をジェニファーはじっと見つめて独り言ちる。


「冒険者には大きく分けて二つのタイプが居るわ。一つは富と名声と享楽を求める者。もう一つは訳アリでなる者。殲滅し隊ちゃんもアレだけど、ドラスレちゃんは明らかに後者ね。でも一番分からないのは……」

「あのボウヤかい、ジェニファー?」


 いつの間にかジェニファーの隣には、四十代ほどの黒いフルアーマーの鎧を着た大柄で、暗めの金髪に精悍な顔つきだが、無精ひげを生やしたどこかチョイ悪風な雰囲気を持つ男が立っていた。


「あら、ヴァルファルドじゃな~い。いつここへ?」

「丁度さっきだよ、領主様に呼ばれてな。で、さっきのボウヤは何者だ?」

「アハン♪ それはミーも分からないわん。自称商人らしいけどねん。ただ……ミーの運命の相手よ! もうそれは間違いないわん! だから貴方の思いには答えられないの、罪なミーを許してねん」

「そ、そうか。それは良かったな、俺の事は気にするな。それより今夜は祭りだな、それも大祭だ」

「ええ、間違いなくね。ボーイは久しぶりの公開認定を受ける事になるわ。それは私が保証してもいいわん」

「お前にそう言わせるだけの男……か」

「アハン♪ 今夜が楽しみねん。さて、結界師や土魔法使い達を急いで集めなきゃ。じゃあまたねん」


 そう言うとジェニファーは颯爽と去っていった。


(……領主様が俺を呼んだ事と関係があるのか? まさかな……しかしあの剣の業は何だ?)


 ヴァルファルドは黄狼の死体を見つめながら、今夜の死闘が楽しみで仕方なかった。


「商人、ね。フッ……全てを捨ててここへ飛んで来たんだ。退屈はさせてくれるなよ」


 そうヴァルファルドは独り言つと、今夜の準備にハチの巣をつついたようなギルドの喧騒の中へと消えて行った。

いつも見てくれてありがとうございまっす!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話のテンポ [気になる点] 主人公の行動が唐突すぎて読みづらい 行動前の思考がもう少しあった方がわかりやすいかも [一言] 主人公は20歳にしては馬鹿っぽくイラッとします 自身の出目を独り…
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