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214:ワレはエライんだワン

 紅白の注連縄(しめなわ)が突如光ったかと思えば、氷狐王を電撃のようなもので打ち()える。

 たまらず氷狐王は転げ回りながら、短い足を〝ぱたぱた〟させて苦しむのだった。


「お、おい〆。これは一体……?」

「うふふ。これは『霊命の注連縄』と申しまして、主に逆らえば苦痛が魂へと、ダイレクトに刻まれる物です」

「って、さっきの契約ってやつか?」

「ええそうです。さっき氷狐王が光りましたよね? その時この子の中で、古廻様への『完全敗北』が刻まれたと同時に、タイミングよく名付けの儀式を行ったので、それで『主権限の魂への接続』されたのです」

「つまり、俺のしもべ(ペット)になったと言うことか?」

「はい。今後は氷狐王……もとい、ワン太郎は、古廻様の忠実なしもべとしてお役にたてるでしょう」

「よく分からんが、まぁ無事にペットになれて良かったなワン太郎!」

「そ……そんなぁ~。ワレがペットだなんてぇ……あんまりだあああああああああ!!!!」


 ワン太郎は泣いた。そのアイスブルーの瞳から、とめどなく氷の粒を流して……。

 凶悪な邪神に呼び出され、断ればあとが怖いと仕方ないので来てみれば、もっとヒドイことになってしまった氷狐王。

 主人に頭を撫でられ、えぐえぐと涙を流しながら〝お手〟をするその姿は、実に哀れである。


「フム。さて妹よ、この異常な寒さを解き、使用人たちの魂を開放するのだ」

「あ! せやった。愚昧めが凍らせたやつらを助けてやらんとなぁ。ったく、とんだ手間かけさせよってからに」

「〆……お前、なにやってんだよ?」


 三人にジト目で見らる〆は、「うぅ」と一言呑み込むように呟くと、亡者の手が出ている扇子を拾うと、その手を押し込むみながら冷や汗をながす。


「わ、わかりました。今すぐに! あの兄上……その……手伝ってもらえませんか?」

「フム。やはり治す事には向かぬか。仕方ない、貸しだからな?」

「ったく、壊したり凍らすことしか出来ない愚昧め! ほら、ちゃっちゃとやったるわい」


 そう言いながら三人は外へと出ていく。その様子を美琴と呆れながら見ていると、やっと帰ってきたんだなと言う実感がわいてくる。


「帰って来れたんですね……」

「ああ、俺達のいるべき場所だ……」

「ワレはお家へ帰りたいワン……」


 その後ワン太郎を頭に載せた流は、十階層へと向かい歩いていくのだった。



 ◇◇◇



 昇降機に向かうと、まずはミレが生還を涙を流して喜んでくれた。それに素直な気持ちで礼を言いながら、近くにもっと奇妙な幽霊娘がいることを忘れたように、「幽霊なのに泣くのか?」と思う。

 やがて昇降機は十階層に到着し、ドアが開放されたと同時に青いカゲが突撃してきた。


「マ゛!!!!!!」

「うぉっふ!? ら、嵐影か!! 心配かけちまったな……ごめんな」

「マママァ!!」


 嵐影はつぶらな瞳から大粒の涙をながして、流へと顔を押し付ける。それを見た流は、申し訳ない気持ちと、その体の変化に驚きながら包容する。


「もう死なないから泣くなよ。大丈夫、もう大丈夫だから……。はは、それにしても嵐影。おまえ少し見ない間にたくましくなったな?」

「……マァ」

「そ、そうか。荒行のおかげ……か?」


 そう言えばと流は思い出す。砂浜にカニと戯れながら埋もれたり、頭にスイカを載せて食べていたり、海で楽しげに泳いでいたりと、今思えば恐ろしい荒行だったんだと……。

 特に一番驚いたのが、滝打たれの修行だ。頭上から恐ろしい勢いで落ちてくる、大木から折れた割り箸ほどの小枝が〝こつん〟と当たった時は、見ているこっちも「危ない!!」と叫び、ドキリとしたものだ。


「そっか~、よくあの荒行(?)から生還したものだ……」

「……ママ~マ」

「ばかだなぁ……泣くやつがあるかよ」


 嵐影が泣くもので、思わず流もジンとくる。そっとしばらく抱きしめると、嵐影はすっと腰を下ろす。


「……マ」

「え、近いからいいよ」

「……マ!」

「わ、分かったよ」


 ほぼ目の前だが、嵐影が乗れと言うので素直に乗る。どうやらとてもご機嫌らしく、鼻歌のようなものまで歌っている。

 そんな二人を頭上から眺めるイヌ太郎は、なぜかモゾモゾとするのだった。


「が、ガキんちょ!! 本当に復活しおったがや!?」

「ぼうや!! よかった、本当によかったねぇ……」


 浜辺のコテージへつくと、中から鬼の夫婦が飛び出してきた。その表情はとても鬼とは思えず、実に嬉しげに流へと向けられて少し恥ずかしく思う。


「あぁ、二人とも。本当に心配かけちまったな……すまなかった」

「何を言うとるがよ、あの状態からほぼ自力で復活したと聞いたがよ」

「ああそうさ、何でも時空神と『(ことわり)』の馬鹿が関係してたって聞いたさね」

「まぁそんなところだな。俺もいきなり『(ことわり)』ってのに改造? されて困惑してるよ」


 そう言うと流は、いまだ思案中のポーズをへて妖人になる。それを見た二人はしばし呆然と見ていたが、やがてポツリと話し出す。


「……まさかの妖人とは……驚いたがね」

「ああ、旦那の言う通りさね。よくまぁここまで……」

「だろ? 俺も驚いた」

「その力はどの程度なんだい?」


 流は「そうだなぁ」と呟くと、頭の上に〝へにょ〟っとしているワン太郎をつまむと、ぷらりと二人の眼前にぶら下げる。


「これ、何だか分かるかい?」

「んんん? 小狐だぜよ」

「だねぇ……。それでこの子がどうしたんだい?」

「この子じゃない! ワレは氷狐王だ! 今はワン太郎だけど……」


 そうワン太郎は言うと、さめざめと氷の涙を流す。それを見た鬼の夫婦は驚きの声をあげるのだった。


「はぁ!? 氷狐王ってリデアル平原の凶暴なアレかい?」

「ガキんちょ……いくらなんでもそりゃぁないぜよ」

「お前たち!! 昔、ワレの居城へ酔っ払って攻めて来た馬鹿夫婦だろう!!」

「「えええ!? それを知ってるって……本物?」」

「だからそうだと言っておる! ワレはこの男に敗北して今は囚われの身だが、本物の氷狐王なのだ! エライんだワン!」


 そう氷狐王、もといイヌ太郎は〝ぷらり〟と吊り下げられたまま胸を張る。


「と、言うわけだよ。最低コイツクラスなら余裕で勝てるようになった」

「本当かい……。坊や、一体何が……」

「ありえんがよ……。ガキんちょ、死んでる間になにがあったがよ?」


 鬼の夫婦はありえない物を見たとばかりに、困惑するのであった。

 本当にいつも読んでいただき、ありがとうございます! もし面白かったらブックマークと、広告の下にある評価をポチポチ押して頂いたら、作者はこうなります→✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。


 特に☆☆☆☆☆を、このように★★★★★にして頂けたら、もう ランタロウ٩(´тωт`)وカンゲキです。


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