020:肌着の定義~全員心重ねて
一体何が起きたのか分からないのか、足の生えたテーブルの仲間は呆然としている。
ギルド内ではエールを口に含んだまま、零れているのに気が付かずに呑み続けている者。フォークに刺した魚料理をボトリと落とす者。口をあんぐりと開け放つ者。ほぅ……と感心する者。そして――
「おい、そこの足の仲間」
足の仲間はソッと奥の方を見て呼んでいる相手を探す。
「違う! お前達だ。そこの左右合わせてマヌケ顔してる四人の、お・ま・え・た・ちだ」
四人はソッと自分達の顔の前に指を当てる。つい先日同じような光景をどこかで見た気がする流だったが、顔を青くしている雑魚達へさらに追撃をかける。
「そうだ……いいかお前達。ここまでは及第点だ! 真の雑魚を目指すならこう言え! まずは右の二人、お前らは『ヒャッハー』担当だ」
「え……ひゃ?」
「そして左の二人! お前らは『ここは通さネ~ゼ』担当だ」
「は? ここは通さ……?」
「起立! まずは右のお前らは舌を出しながら『ヒャッハー』だ!」
「え、無――」
そこへ流は被せて封殺する。
「無理って言うな! がんばれ、がんばれ! そこで諦めたら雑魚終了だぞ! そして左側!」
「ひぃ!?」
「お前らはヒャッハーの後に『ここは通さネ~ゼ』だ、やってみろ!」
その後、流が満足するまで教育的指導が続き、カオスが早朝のギルドを支配していたが、あまりの展開に誰も止める事は出来なかったと言う。
しばらくして満足した流は額の汗を拭いながら晴れやかに受付嬢の元へ向かった。
「すみませーん。登録したいんだけどいいかな?」
「ひぃ!?」
何故か受付嬢にドン引きされた流であるが、引く意味が分からなかった。失礼な娘だとちょっぴり憤慨したが、大人の流さんは心の中に留めておく。
受付嬢は十代後半位で、顔立ちがスッキリと整っている薄ピンク髪の可愛らしい美人で、肌は白く、目の色は薄いブルーでスタイルは平均的な娘だった。
「は、はい。まずは冒険者ランクとかの説明……聞きます?」
「あぁ昨日ファンに聞いたから大体分かるよ。他に何かあるのか?」
「ファンさんと言うと……もしかして灰色の長髪で、ファン運輸商会の?」
「そいつだ、そのファンだ。知り合いか?」
「ええ、それはもう。ファンさんのお知り合いなら説明は不要ですね。彼はそう言う事は詳細に教えてくれますからね」
なるほど、確かに細かく教えてもらったなと流は思い出す。
「あとはこの書類に記入してください、ここに名前と所属はこの町、トエトリーと書いてくださいね」
流は言われた通りに記載する。
「では最後にこの板に両手を押し当ててください。それで自動的に登録されます」
「へぇ~そんな事で登録出来るのか。面白いな」
「はい、なりすましの防止のために開発された魔道具なんですよ。他に何か聞きたい事がありますか?」
「う~ん……強いて言えば」
「はい?」
「受付嬢ってみんな綺麗な人ばかりだな、ケモミミの子まで居るとか正に様式美! 特にあんたを選んだ面接官のセンスの良さが際立つ。目元は大きく、鼻筋も整ってるし、歯並びもパーフェクトだ! 自己主張の強いそれらを柔らかくまとめ上げる薄いピンク色の髪もまた美しい……まったく素晴らしいチョイスだ! これぞギルドの受付嬢だと言えよう」
「ナナナナ何を朝から何を言っているんですか、ナガレさん!」
いきなり完璧美人呼ばわりされた受付嬢は赤面してしまう。
本当に何を言っているのかと周りも思ったが、誰も言えなかった。だって入口ではまだ雑魚達が大声で練習してるんだもの!
その後細かな取り決めを聞き、実力テストをするとの事で練習場へと案内される。
「今日はこの後六人の新人さんが来ます。それまでそこの椅子に座って待っていてくださいね」
「ああ、ありがとう。えっと……名前は何だっけ?」
「わ、私はエルシアです。ギルドへ来たら私のところへ来てくださいね……またお待ちしてますね、ナガレさん……」
そうエルシアは言うと、顔を真っ赤にして小走りに去っていった。
「風邪か? 大事にするんだぞ~」
エルシアの背中を見ながら流はそう声をかける。
流としては単純に「美しい物」を愛でただけなのだが、人が聞けば確実に誤解する内容であった。
そんな鈍感系を軽く凌駕する、骨董系男子の流に死角は無かった。
練習場は一周二百メートル程の陸上トラックのような作りで、あちこちで冒険者達が剣や魔法の訓練をしていた。
「しかし美琴さんや。不殺閃を放ってから気が付いたんだが、あのヒャッハーを良く気狂いにさせなかったなぁ。流石俺の美琴さん、分かってらっしゃるね!」
そう言うと美琴は、嬉しそうに揺れたのだった。
ベンチに座りしばらくぼーっとしていると、二階で賭けを仕切っていた眼帯の男が声をかけて来る。
「よ~あんたスゲーな、上から見てても良く分からなかったぞ?」
「アンタは……あぁ、胴元のオヤジか。で、儲かったか?」
「はっはっは、おかげさんで俺はな。他の奴らは大体負けたがね」
「それはまたご愁傷様な事で」
雑魚を吹っ飛ばし、少し後にギルド内が騒めいた訳を知ると、苦笑いが出る流。
そしてその雑魚達が絡んで来た理由を、眼帯のオヤジに聞いてみる事にする。
「あ~そうだ、オヤジなら分かるか? なんで俺がギルドに入ったら全員こっち見てたんだ?」
「そいつはなぁ、お前入口のドアを押したろ? あれな、ここでは引いて入るんだわ。で、押して入るとデカイ音で『ギイィ~』と鳴り、新人が来ましたよってお知らせな訳だ」
そんなブービートラップがあったのかと流は一瞬顔をしかめたが、異世界を堪能出来たのでナイス・トラップ! と評価し直す。
「ほれ、これがあんたの取り分だ」
男が放り投げて来た袋を受け取るとかなり重かった。
「小銭が多いがほぼ賭けた奴らから巻き上げたな、俺もおまえに賭けたから大儲けだ。ありがとうよ、また面白い勝負があれば声をかけてくれ」
そう男は告げると、片手をヒラヒラさせギルドの中へと戻っていった。
「お? 結構入っているな。えっと、金貨にすると大体………………十枚近くあるのか? 俺どんだけ人気無かったんだよ! しかし異世界儲かりすぎだろ」
自分の人気の無さにちょっぴり凹む流だったが、お待ちかねの六名が到着したのでテストが開始される。
練習場に入って来たのは、男が三人と女が三人だった。
年齢は十代半~後半位で、どうやら男女共に一緒の町や村から出て来たばかりらしい。
「オイオイ、何だか弱そうな初心者まで居るけど大丈夫なのか?」
「ちょっとやめなさいよ、私達も初心者でしょ」
「馬鹿言えよ。俺たちは角ウサギも、狼も倒せる実力者だ。そこの弱そうなのと一緒にするなよ」
「カワード、お前はもう少し礼儀を覚えるべきだ」
そう目付きが嫌らしく、黒茶髪の十代後半の男、カワードが流を煽ると、その仲間の娘達が嗜めた。
他の三人は眉を潜めてカワードを見ているが、何も言う事は無かった。
「レイナもリリアンも俺がどれだけ強いか分かるだろ? だからその俺が言っているんだから間違いないって」
カワードに呆れるように薄い紫髪で、目元がくりっとした愛嬌ある顔立ちの娘が流に声をかける。
「ハァ~。そこの人ごめんなさいね。私はレイナって言うのよろしくね」
「躾のなって無い奴ですまない、私はリリアンと言うんだ。よろしく」
レイナと雰囲気が似ているので姉妹なのか、よく似た髪の色をしているが、顔はシャープな印象の大きな盾を持った娘も挨拶をした。
「チッお前ら! なんだよその態度は。俺は本当の事を――」
カワードの言葉を遮るように手で奏でたのに、異様に大きな音で〝パンッパンッ〟と乾いた音が練習場に響き渡る。
「ハイハ~イ。子犬の遠吠えはそこまでにして、ちゃっちゃと始めるわよん♪」
下半身はピッチリとした何かの動物の皮を使ったワインレッドのボンテージ風のパンツと、そこから伸びる黒いストロング・ムタンガサスペンダーが、乳周りを際どくセービングしている人物がいた。
きっと街中でこんな女性に出会ったら、あまりのセクシーさに見とれて壁に激突するかもしれない。それほどのインパクトだった。
そんな到底現実にはありえないと思う存在がそこに居た。
「俺は……白昼夢でも見ているのだろうか?」
その場に居た全員の気持ちを流が代弁した事で、一気に夢が現実に引き戻される。
よく見ると年齢三十代の筋骨隆々で上半身はほぼ裸! 顔だけ見れば何処に出しても恥ずかしくないと胸を張って言える、そんな紳士的なマッド★ガイがそこに居た……二度見してもやっぱり居た!
しかも何故か黒い蝶ネクタイと、シルクハットを紳士然に着用していて、もう意味が分からない。
「ミーはジェニファーちゃんって言うの、よろしくね~ん! ミーの魅力にメロメロになるのは分かるんだけどね、そろそろ始めるわよん? 初心者ちゃん達には、まず敵を倒してもらっちゃいます♪ 今からミーが敵を召喚するからチーム事になって倒してネン」
あまりの事に誰も動けないで居ると教官、ジェニファーちゃんは更に続ける。
「ここまでで何か分からない事があれば、質問してもいいのよん?」
流は魂のパトス叫ぶまま、その思いをダイレクトに聞いてみた。
「その蝶ネクタイは肌着なのか?」
「もう! 当たり前じゃない、淑女の嗜みよん?」
(((聞くところそこ!? って言うか淑女なの??)))
流以外の全員の心が今、一つに重なった瞬間であった。
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