表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

198/539

197:刀照宮典膳~正の章

 その後二人は遅くまで話し合い、結論が出ないまま典膳との約束の日を迎える。

 何時の間に寝てしまったのか、流が朝起きると美琴はいなくなっており、梅月蒔絵(ばいげつまきえ)の文台に手紙が置いてあった。


「今夜、父上の蔵の前でお会いしましょう……か。時空神からの置き土産が過ぎるが、これもまた定めと言うやつなのかもしれねぇな」


 丸窓から見える澄んだ空気漂う朝の庭を眺め終わり、流は上に視線を移すと苦虫を噛みしめるように空を見上げた。


「泣いても笑っても今夜が決戦! 死ぬ時は一緒だぜ、美琴」


 そのまま母屋で朝食を済ませた流は、夜に向けて体を休めつつ、やって来たご先祖様へ未来の話をして驚かせるのだった。

 そうこうしているうちに、夕暮れを告げるようにカラスが巣へ大群で帰る頃に、離れへと静音が現れる。


「流様、今夜でございますね」

「ええ……。旦那様とも会話出来るのも今宵が最後でしょう。静音様が話し終えたら私達が入ります」

「お心遣いに感謝いたします。あまり実感が無いのですが、あの子が世を去って数百年……そして、明るくなって帰って来た事の奇跡に感謝を申します。これも全て貴方様と、時空神様の導きですから」

「そう……かも知れませんね。ただ、この後は酷な事になるやも知れません」

「はい、それは旦那様より聞き及んでいます。そこは覚悟の上ですので存分にお振舞いくださいまし」


 そう言うと静音は夕餉(ゆうげ)支度(したく)へと母屋へと戻って行く。

 ふと池を見ると、黄金の猿顔の鯉が涼し気に泳いでいるのだった。


「さて、飯を食べたら一眠りしますか」


 未来の話をしながら最後の夕餉を食べる。静音も侍女も、その話に夢中になって聞くものだから、ついつ食が進み、気がつけば満腹になっていた。

 その後一眠りし、いよいよ典膳との約束の時間になる。

 どうやら静音は先に蔵の中へと入っているようで、外で待つ事十数分。暗がりの中から青白い炎を引き連れて女幽霊が現れる。


「お待たせしました。母上は中に?」

「ああ、まだ中にいるな。もうすぐ出て来るとは思うが」

「……答え、出ませんでしたね」

「そうだな……」


 唐突に話を振られたが、流もその答えを持ち合わせていないので、一言つぶやくだけだった。

 そのまま二人は静音が出て来るまで静かに、蔵の入り口を見つめる。

 やがて入口が開くと、静音が悲しそうな顔で美琴を見てから抱きしめる。


「美琴ちゃん。これから辛い事になるけど、きっと乗り越えるのよ? あなたには流様が付いているんですからね」

「? はい母上。良く分かりませんが頑張ってみます!」

「ええ、しっかりとね。それと古廻流様、短い間のお付き合いですが、貴方様はとても信頼できる方と確信しています。どうかこの子を末永く良しなにお願い致します」

「承知しました。私の命が尽きるまで、手放さない事をお約束します」

「それを聞いて安心しました。では中で旦那様がお待ちです、お互いに信じるのですよ」

「「はい!」」


 蔵の扉を開き、流と美琴は中へと入って行く。

 その様子を見守る静音の目は、覚悟が決まったものだった。


 内部は前回訪れた時より明るく、壁に複数の松明たいまつの灯りが設置されている。

 その松明に照らされる中央には、典膳が不敵な笑みで待っていた。


「待っていたぞ二人共」

「待たせてしまってすまない、時空神からの置き土産で何をすべきかは理解している。が、美琴にはまだ話していない。本当にやるのか?」

「え、一体何の事ですか? それにお父様……そのお姿は?」


 先日美琴がそっと覗き見た時より、典膳は鉱物との融合が進んでいるように見える。

 典膳は優しい目で静かに美琴を見つめると、やがて重い口を開く。


「美琴や、これまで本当にすまなかった。俺の馬鹿な夢にお前まで巻き込んでしまい、そしてそんな姿にしてしまって……。この体は神の慈悲により『(ことわり)』から我が身を守るための処置だ。そしてそれも今夜終わる、お前と流の手によってな」

「ッ!? それってまさか……」

「ああそうだ。俺はお前に斬られる事で、悲恋に込められた怨念を浄化する。それと今後お前が万一悲恋より解放された後、再度輪廻の輪へと戻る為に神のお力で改造と言うより、改変された生体術式でもある。それにな、これは(ごう)を背負った俺だからこそ出来ると、術式を神から授かった時の玉から教えられた事だ」

「そ、そんな!? お父様はそれでよいのですか!!」


 美琴の絶叫が以外だったのか、典膳は一瞬驚いた顔をしてから美琴へと語りかける。


「よい、それでよい。俺はお前に親らしき事をしてやらなかったばかりか、人生そのものを奪ってしまった。そんな俺がお前のために斬られる事は本望そのもの。そして俺はこの世の『理』の法をやぶって、私欲による神殺しをしてしまった。神の話では、その行為をしたものは許されないのだと言う。だが神は俺を許してくれたが、『理』は許してはくれぬ。そこで神は、俺にお前に謝罪の機会を与えてくれたのだ。どの道『理』に抹殺される運命、それがお前達の役に立って逝けるとは、(くず)の俺としては最上の幸福と言うものだ」


 突然の典膳の告白に美琴は愕然とするが、父の真意を知り自分の胸の内を話すのだった。

 読んでいただき、ありがとうございます! もし面白かったらブックマークと、広告の下にある評価をポチポチ押して頂いたら、作者はこうなります→✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。


 特に☆☆☆☆☆を、このように★★★★★にして頂けたら、もう ランタロウ٩(´тωт`)وカンゲキです。


 ランタロウの書く気力をチャージ出来るのは、あなた様だけです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ