195:失伝継承~下
「ああ、任せといてくれ。こう見えても覚えは早い方でね」
「期待しとるよ。まずは気と妖気、もしくは妖気のみで、それを二つに分けれるか?」
「ん~。実は気は不得意なんだよな。うちのジジイからは散々文句を言われてるよ。だから妖気だけでやってみる」
流は悲恋美琴を抜くと、静かに妖力を引き出す。
すると妖気を得るのに今まで感じていた「壁のような物」が無くなっている事に気が付く。
(これは? さっき木材を切った時も思ったが、もしや魂だけの存在になったからか? なら!)
妖力を右手と左手に集中させると、それを纏ったまま均一が取れるまで調整する。
これまで以上にスムーズに妖気を練れる事に驚きを感じながらも、流は比率を均一化するために繊細な調整をほどこす。
「それじゃ! そのまま一撃を入れる時に双方の力をほぼ同時に剣へと注ぎ込むのじゃ!」
「…………よし! こんな感じか~。ご先祖様流・多重斬!!」
双牙がやったように腰を少し落とし、袈裟斬りで丸太へ向けて一閃する。
すると一撃目が丸太を両断したかと思うと、続く二撃目は立てかけてあった木材へと着斬し、真っ二つにしてしまった。
「惜しいな、斬撃が二つになっとる。理想は『同時に二度』だ。もう一度やってみい」
「あいよ。ん~意外と難しいな、妖気を二つ乗せる感じなのは分かるんだけどな」
「そうだ、そこからがこの業最大の難関であり、誰も完成させた事のない業じゃ」
「なら一瞬刀身に纏わせるようにして……いや、違うな。斬る直前で刀身に『妖力を込める」感じにすればいい。そう、銃に弾丸を高速リロードするように」
今度は背負うように悲恋美琴を持ち、陰八相の構えにて丸太に狙いを定める。
「――ご先祖様流・多重斬!!」
そして一気に斬りかかり、刃が当たる直前に妖気を刀身と同じ大きさの状態で「撃ち出す」ように形成し、さらに同じ物を作り出し、刃が丸太へ当たると同時に連続ではなつ。
すると最初とは違い、斬撃のあとは一つだが「抉る」ようなあとがあり、その後真っ二つになっていた。
「うむ、見事じゃ流よ! ここまで完成した物は見た事が無いわ。それと『ご先祖様流』は止めい!!」
「え~。とても良いネーミングなのに」
「ねぇみ……? また意味が分からん事を。とにかくだ、今だ完成とは言えないが、今のような形ではなてば、ほぼ寸分違わず斬撃が相手にぶち当たるはずだ。今だ完成されていない業だが、お前なら確実にものに出来ると、わしは確信したわい!」
双牙はまるで自分の事のように、頬を緩ませて頷いていた。
そして流へと一つの願いを託す。
「流よ、本当にお前は素晴らしい逸材じゃな。そこで頼みだが、この多重斬を完成させたらお前に命名を託したい。受けてくれるな?」
「え!? 既に立派な名前があるじゃないか? ご先祖様流・多重――」
「だからそれは止めい!! これはあくまで仮称じゃよ。話によるとお前はまだ中伝しか知らんのじゃろう?」
「ああ」
「ならば『皆伝に相応しい名』を頼む。皆伝の名前は派手じゃらかなぁ」
そう言うと双牙は楽し気に笑う。
「確かにそう言えば、中伝までは地味だった気がするな」
「じゃろう? まぁその爺様に、皆伝を教えてもらうまでの楽しみにしとるがいい」
「そうするよ。しかしこの業は簡単なようでかなり難しいな。だが、完全にマスター出来れば応用の幅も広がるし、何より他の業とも相性が良さそうだ」
「ますた……? う、うむ、それが狙いだったんじゃがな。わしの師匠も結局出来なんだ……だからこそ、お前と会えたのは本当に奇跡だろうな。時空神様に感謝じゃな。うむ、ここに時空神様の神像を奉納しよう!」
異様なテンションで神像作りの設計図を頭の中に描いている双牙は、思い出したように流へと向き直る。
「おっと、お前が受け継いでくれた事が嬉しくて、年甲斐もなくはしゃいでしもうたわ」
「はははは。未熟な俺でも、とりあえず使えるようになって良かったよ。必ず完成させて墓前に供えるさ」
「やめてくれ、墓石が真っ二つになってしまうわ」
「確かに!」
「「はっはっはっはっは」」
ひとしきり二人は笑うと、双牙は真面目な顔になり流へと告げる。
「流よ、わしらが不甲斐ないばかりに、お前に大変な重荷を背負わせてしまってすまない。話だと今、異世界へと向かっている討伐隊はしくじるのだろうな……」
「ああ、よほどの事が無い限りは失敗して戻って来るらしい」
「そうか……。流よ、古廻……いや、鍵鈴の未来を託す。我らの無念を晴らしてくれ、頼んだ」
「あいよ、頼まれた。だから安心してあの世へ旅立ってくれ」
「おい! わしは引退した身とは言え、まだまだ元気じゃぞ?」
「あ、そうだった」
どちらともなく〝ニヤリ〟と笑うと、双牙は流の肩へに手を軽くのせ「頼んだぞ」と一言言うと、母屋の方へと去って行った。
その姿を目に焼き付けるように流は見つめる。
「任せてください。ご先祖様達の無念は、この古廻流が晴らしてみせます」
そして凛とした様子で姿勢を正し、流は先祖達へと頭を下げるのだった。
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