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194:失伝継承~上

「今日で四日目か……。美琴の奴、あれから全然出て来ないな」


 流は池の石橋から錦鯉へと餌をやっていた。

 ここ数日で日課となった鯉への餌付けは楽しく、特に一匹だけいる金色の人面魚が見ていて面白かった。


「むぅ、こいつの頭に浮き出ている顔……どこかで見た気がするなぁ。あ! 豊臣秀吉の肖像画だ!! 鯉なのに猿とか、お前は欲張りか?」

「何を馬鹿なの事を言っておる。流よ、今日も手伝ってくれ」

「はいよ、ご先祖様」

「だからそれは止めいと言うておろうが」


 庭師の男、古廻双牙(そうが)は流を連れて、時空石がある場所を囲う小屋を建てていた。

 暇そうにしていた流へと話しかけ、作業を手伝ってもらう内に孫のように思えて来た双牙は、次第に親し気に会話するまでになっていた。


 作業は流のお陰で午前中には完成予定だが、作業中に流に聞かされた「真実」に双牙は驚きと困惑で満ちていた。


「――とすると、お前は妖力を使いこなせるのか?」

「ああそうなるね。っと、丁度いい。コレ切るんだろう?」

「うむ、八寸五分にその鋸で切ってくれ」

「じゃあ見ててくれ」


 そう言うと流は寸法を測り、丁度いい長さの部分に右手の人差し指と中指、計二本を出し木材の上に置く。


「何をするつもりじゃ? って――なんじゃと!?」


 流は腰に()いだ美琴から妖力をもらい、指二本に(まと)わせた妖気を研ぎ澄まし、そのまま押すように斬る。

 すると木くずも出ずに、綺麗な断面を残したまま材木が切断された。


「ま、こんな所さ」

「何ともはや凄まじき力よのぅ……。流よ、お前は三連斬と四連斬を繋げられると言うたな? あれはこの力を使ってか?」

「ああそうだよ、この力を使っての事だ」

「そうか……」


 そう双牙は言うと、黙々と作業へと戻る。それから程なくして小屋が完成した。


「うむ、いい出来じゃな。どれ、流よ。手伝ってくれた礼に一つ業を伝授しよう」

「え!? それは本当かよ、ご先祖様!」

「だからご先祖様は止めいと言うておろう。まぁよい、今回お主に伝授する業はの『幻の業』じゃ」

「っ!? 何だよ、その厨二病の俺に相応しい設定は?」

「ちゅ……? 未来人の言う事は分からんのう。まぁ、なぜ幻と呼ばれているかと言うと、伝えるのがワシが最後と言う事からじゃよ」

「え、じゃあ俺の爺さんも知らないのか?」

「お前の爺様が誰かは知らんが、伝わっていないのは間違いない。この技は特殊な力が必要でな。まずはおぬしも知っている『気』の力じゃな。これが古廻が使う剣術の根幹とも言えるものじゃ」


 流はその話を聞いて納得する。確かに気の力でブーストすると、業の威力が格段に上がるのだから。だが妖力には敵わなかった。


「そして……これが『聖気』じゃ」


 双牙は腰の短刀を抜くと、一瞬半透明な気を込める。その後もう一度気を込める仕草をするが、まったく別の薄青い光に包まれた。


「おおお。マジで二つの力が合わさっている」

「そうじゃ、気と聖気。この二つを合わせる事で……。見てろ」


 おもむろに腰を落とす双牙。目前には小屋を建てるのに柱として使っていた丸太と同じ物が、材木に立てかけてあった。


「――多重斬(たじゅうざん)!」


 双牙が小太刀より業を繰り出す。その斬撃は一つだったが、丸太へと着斬した瞬間「(えぐ)るような跡」が出来、その直後さらにもう一つのエグる跡が「最初の斬撃の後」に出来上がる。


「ふぅ~。こんな所じゃわい」

「おお! 同じ場所に同じ業を同時に攻撃する感じかい?」

「そうじゃ。と言いたいところじゃが、これは未完成の業よ。二つの気を操り、それを完璧に使いこなせればもっと威力が出るだろうしな。何より今見せた業は、本来目指していた物と違った形になってしまっておる」

「本来の形?」

「ああそうじゃ。こいつは本来『一撃で二度攻撃したと同じ効果』を目的として編み出された業じゃったんだが、何せ聖気を使える者が少なかったところに、人形に追い詰められて一族が減ってしまたのも大きい。そして聖気を使えるのが、わしが最後と言う訳で、後に伝えられなかったと言う事じゃ」

「なるほどなぁ。あ、それで俺が妖気を使えるからって訳かい?」

「その通り、お前は妖気だけで三連斬と四連斬を繋げられたんだろ? ならば鍛錬次第で多重斬も使いこなせるはずじゃ。元々二系統を使う事は稀だからな」


 そう言えば鬼の夫婦が似たような話をしている事を思い出し納得する。


「あぁ、そう言えば師匠もそんな事を言っていたなぁ」

「例の前鬼と後鬼か? 今だに信じられぬが、お前の妖気の練り具合を見るとそうなのだろうな。しかしあれらは鬼神じゃぞ? よくもまぁ無事であった」

「そうなのかい? その二人も怖れる〆って言う狐娘が俺の保護者みたいなものだぞ」

「っ!! 〆様が……。やはりお前は古廻の者、そして当主たる器か」

「知ってるのかい?」

「そりゃあの~。あの方達は当主にのみ仕える。その他は路傍の小石としか見ておらんよ。では早速修得してもらうが、出来そうか?」


 双牙のその言葉に一瞬驚くも、確かに古廻の長に使えると聞いたのを思い出す。

 やはりあの三兄妹は、普通の存在では無いとあらためて実感しつつ、新しい業への期待で胸が高鳴るのだった。

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